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海の見える街で(前編)

前回までのあらすじ


雷に打たれ、異世界へと転生した(コンドウタカキ)は強く美しい勇者アポロと出会う。しかしこの勇者、家事が全くできない!ひょんなことから、勇者の代わりに家事を担当し、共に生活することになった。

村に平和が戻り、勇者は僕の元から旅立った…かに思えたが、その日のうちに戻ってきた。魚の干物を持って。


「聞いてよ、今日こんなことがあったんだ」


とりあえずアポロに食後のお茶を出して、リビングに腰掛けた。干物は明日の朝食として出そう。見たところ白身魚の干物のようだ。金目鯛に近い。これは味も期待できる。


「ねえ、聞いてってば」


それよりも、まだ心臓がバクバク言っている。突然戻ってくるんだもんな。いや、嬉しいけど。確かに嬉しいんだけど心の準備というものが。また僕の裸体を披露するハメになってしまったし。これじゃあ露出狂じゃないか。


「タカキ!!!」


「はいはい、聞いてるよ!」


情報をたたみかけてこないで欲しい。まだ僕はさっきまでの感情を整理できていないのだ。


「もー、ちゃんと聞いてよ。これでも私勇者なんだよ?勇者の話を聞きたい人がこの世界にどれだけいるかわかってる?」


「勇者なら勇者らしく堂々と振る舞えばいいじゃないか。僕が話を聞かなかったとしてもだ」


「私が目指す勇者像はそんな勇者じゃないもん。庶民的な勇者を目指してるんだもん」


ああ言えばこう言う。


「それで、何があったんだ?というか、どこまで行っていたんだ?」


「そうそう。今日、海が見える街に行ったんだけどね」


「随分アバウトだな」


「私も魔物の気配を辿って向かったから、よくわからないの。今のところ気配を辿ることができる所はそこだけだったし、何も考えずに行ったんだよね」


「魔物全てを感知できる訳ではないのか」


「うん、ここにいるときはぼんやりと感じていたから、世界全体に広がっているように感じたんだけどね。どうやら今わかるのはあそこの魔物だけみたい」


「ちなみに何ていう奇跡なんだ?」


「鷲の(イーグルアイ)


「…」


ダサい。そして厨二チック。女神様のネーミングセンスが何となくわかってきた。


「それで、その街に降り立ったら、もうびっくりしちゃった。寒いの。すごく寒いの。もう、すっごく寒いの」


「本当に寒かったんだな」


「寒いの!!!風がビュービュー吹き付けてくるから、もう凍えそうになっちゃった」


「よりによって半袖だしな…」


「そうなの。ちょっと場所が変わるだけで温度ってあんなに変わるんだね。流石に参っちゃったよ」


「それで、どうしたんだ?」


「私が震えてたらね、目の前に船が止まって…」


「船?」


「うん、漁船っていうみたい。持って帰ったお魚を取るための船」


「何で止まってくれたんだろう」


「私が空から着地したから驚いたんだって。それと、震えてる姿が見えて可哀想にって」


「一気に神聖な雰囲気がなくなってるじゃないか。それに海から見ても震えてるって、どれだけ大きく振動していたのさ」


「だって寒かったんだもん!!!それでね、その漁船のおじさんが…いや、待って、口で説明するのって大変だね」


「おい、言葉を放棄しようとするなよ」


「奇跡を使えば私の記憶がわかるじゃん!私天才かも」


「天才はちゃんとわかりやすく説明してくれると思うぞ」


「もう、タカキはああ言えばこう言う!」


どうやら同じことを考えていたようだ。


アポロが奇跡を使うと、リビングの前の壁にアポロの記憶が映し出された。


「ホームシアターみたいだな」


「えっ?何?」


「いや、なんでもない」


画面には、鈍色の海が映っていた。空には大きく分厚い雲がかかっており、見るからに寒そうだ。というか、映像が大きくぶれている。常に振動していて、見ているこっちが酔いそうだ。


「次は厚着していこうな」


「でもそうすると、帰ってくると暑いんだよね」


「脱げばいいじゃない」


「変態!」


「上着をだよ!!!もういいから続きを見せてくれ。さっきからずっと海が縦揺れしてる」


「はーい、えっと、先に進むには」


アポロが指を右に振ると、早送りが始まった。本格的にビデオカメラの映像じみてきた。人間が作った文化は奇跡に追いついていたんだなあ。


「そう、ここ!ここ!」


画面を見ると、目の前に大きな船が止まっていた。随分汚れているが、それだけ波をくぐり抜けてきているのだ、と言わんばかりの力強さが伝わってくるほど、立派な船だ。


船の中から、一人のおじさん、というかお爺さんに近い、が出てきた。彼は白髪で顎髭を蓄えており、一見サンタさんにも見えないこともない。しかし、彼の腕まわりの筋肉がその印象を消し去っている。とてつもない力仕事を日々こなしていることがわかる。


「このおじさんがね、私を船で家まで乗せていってくれたんだ。名前はサンタさん!」


サンタさんだった。こんなムキムキのサンタさんは嫌だ。子供は絶対に泣く。煙突を降りてくるシーンも、SASUKEのアトラクションをクリアするシーンのように見えることだろう。


「ちょっとタカキ、何で笑ってるの?」


「いや、何でもない。続けて」


「って言いながら爆笑してるじゃん!!!」


ダメだ、彼がサンタさんの格好をしている姿を想像するとツボに入ってしまった。一回画面を止めて、お茶を飲むことにした。


「もう、サンタさんを笑うなんて。本当にいい人なんだからね。そこのお魚もサンタさんがくれたものだし」


「いや、すまんかった。そういえば、まだ魔物は出てきていないようだけど、今日は戦わなかったのか?」


「いや、出てきたよ。それで戦って…勝てなかった」


「え?でも、帰ってきているじゃないか」


「まあ、それはこの後説明するよ。それでね、その、タカキに話を聞いて欲しいんだ。聞いてくれるだけでいいから。あいつに勝つために、何でもいいから情報が欲しいんだよ。お願い、タカキ」


そんなに深刻な話だと思わなかった。無事に帰ってきてくれたし、何事も起こらなかったのかと勝手に思っていた。だけど、そうじゃなかった。


僕は頬を両手で叩き、笑いを止めた。


「よし、何でも聞いてやる!まずは記憶を見せてくれ!」


僕は非力で、戦いは何もできない。だけど、そんな僕でもアポロの力になれるのであれば、僕は全力で話を聞く。


それも専業主夫の仕事だ。

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