勇者と愉快な仲間たち
前回のあらすじ
赤っ恥をかいた
伸びているアポロを囲んで、皆騒ぎまくっている。深夜テンションだろうか、とてもうるさい。ゴーラムが僕の背中をバンバンと叩いてくる。痛い。睨みつけたが全く気にする様子がない。何でこいつ、こんなにテンションが高いんだ。
その時、奥の部屋から1人の女性が歩いてきた。背の高い、スラッとした若い女性だ。どこか、見たことがある顔立ちをしている。彼女は気絶しているプルートウの前に立ち、静かに顔を撫でた。
「ガイア!!!」
トールさんが彼女に駆け寄り、抱きしめた。
「父さん、元気でよかった」
「それはこっちのセリフだ。ガイア、すまない、すまない…」
「それはこっちのセリフよ」
そして、2人とも泣き出してしまった。2人が落ち着くまでしばらく時間がかかった。
「あの、お二人は…」
「ああ、この子は私の娘のガイアだ」
「はじめまして。勇者の専業主夫さん」
なんて事だ。初対面の人にいじられてしまった。
「あの、その呼び方、恥ずかしいのでやめてください…」
「何で?私、奥の部屋で聞いて感動したのよ?」
「そうだぞ、タカキくん。君の言葉はとても素敵だった」
「顔を真っ赤にしてまで言わなくて良いですよ、トールさん」
話を聞くと、ガイアさんはトールさんの娘さんで、プルートウに連れていかれてしまった女性のようだった。
「あの時、この馬鹿を止めるべきだった。お前に辛い思いを…」
「いいえ、父さん。あれは私が選んだ事だもの。父さんの制止を振り切った私が悪い。こんな馬鹿でも、小さい頃から知ってる奴だから、見過ごすことはできなかった…」
「この馬鹿も、小さい頃はもう少しマシな人間だったのにな…」
「この馬鹿は、もう私にはどうすることもできない程の大馬鹿になっていたのよ。私が何を言っても聞く耳を持たなかった」
どうやら、トールさんとガイアさんはプルートウを昔から知っていたようだ。それにしても、馬鹿としか呼ばれないこの男が少しだけ不憫に思えてしまった。まあ、完全に自業自得だけれど。
「専業主夫さん」
「タカキです。近藤貴樹」
「そんなに恥ずかしがらなくても良いのに。じゃあ、タカキさん。この馬鹿を止めてくれて、本当にありがとう。そして、これまで本当にごめんなさい」
「やめてください!ガイアさんが謝ることじゃない!」
「いいえ、形だけでも私たちは夫婦だった。だから、この馬鹿の起こしたことの責任は私の責任でもある」
これも、夫婦の形なのだろうか。
「それでも、謝る人はあなたじゃないし、謝るべき人は僕じゃないと思います。謝るべきはこの馬鹿で、謝罪を受ける権利がある人は、アポロだ」
2人とも気絶してしまっているが。
「…そうね。アポロちゃんには、本当に、本当に可哀想なことをしてしまった」
「それは、あとでアポロが目が覚めてからゆっくり話してください。僕はもう言いたいことは全部あったので、スッキリしてます。それよりも…」
目の前で伸びているこの馬鹿をどうするべきか。トールさんに目配せをすると、彼は静かに頷いた。
「皆聞いてくれ。まず、この馬鹿は城の人としての義務を放棄した。そして、城の人として相応しくない行動をした。それは皆が見た通りだろう」
村の人たちは動きを止め、頷いた。
「そのため、私たちはこの馬鹿を城の人として認めることはできない。そうだろう!」
「「オーーー!!!」
「今後この馬鹿はただの人間として扱う。女神様も許してくださるだろう!当然この馬鹿は税を集めることはできなくなる。そして、これまでの税も返してもらう!」
「「ウオーーーー!!!」」
歓喜の雄叫びをあげた。ゴーラムは飛び跳ねて喜んでいる。妙にテンションが高い理由がわかった。
「この城は私たちの村が差し押さえ、しばらくは共用のスペースとして使おう!」
「「ヤッター!!!」」
スーパーのお婆さんが、「ダンスホールを作るわよ!!!」と叫んだ。まだまだ元気なようだ。
「そして、この馬鹿の今後についてだが…」
「父さん」
ガイアさんが声をあげた。
「この馬鹿を、うちで預かることはできないかしら」
「…お前、それは」
「ここで過ごした時間は、正直思い出したくもないものよ。それでも、私はこの馬鹿を見捨てることはできない。だって、私にも責任があるから。この馬鹿がもう少しまともになるまで、私はこいつを支えてやらないといけないの」
「…ガイアが、それで良いのなら」
これも、夫婦の形なのだろう。
「それにね、父さん」
ガイアさんの目がギラリと光った。
「こんな馬鹿でも、労働力としては役に立つでしょう?馬車馬のように働かせて、鹿のように足を震わせましょう。馬鹿とハサミは何とやらよ」
トールさんの目もギラリと光った。ほんの少し、ほんの少しだけプルートウが哀れになった。
「そして、アポロちゃんについてだが、今後もタカキくんに一緒に住んで、支えてもらうことがベストだと思う。もちろん、私たちは生活に必要なものを援助するし、私たちができる範囲で支えていく。これでどうだろう、皆!!!」
「「オーーー!!!」」
「ちょっと待ってください、せっかく税金がなくなったのに、僕たちが援助を貰うせいで皆さんの生活が…」
そんなこと、アポロが望むとは思えない。
「タカキくん、この前私は説明しただろう。私たちはアポロちゃんに感謝してもしきれないほど感謝しているし、彼女の生活を支えることこそが、私たちの生き甲斐なのだよ。だから、私たちからお願いしたい。私たちができることなら、何でもしてあげたいんだ。頼む」
「…わかりました。有り難く、頂きます」
トールさんは満足そうに頷いた。
「それでも、私たちにできることなどたかが知れている。タカキくん、もう一度、改めてお願いするよ。アポロちゃんを支えてあげてほしい。勇者の、専業主夫として」
トールさんは今度は顔を赤くすることなく、僕の目を見つめた。
「はい、喜んで。僕に出来る限りのことをします」
ここは、恥ずかしがる場面ではない。「ウオー」という歓声があがった。それは、やめてほしい。
「あ、え、あ、タカキ、その、あの」
歓声にまぎれて、慌てふためいた声が聞こえてきた。
「あの、その、あの、あー」
やっと目を覚ましたはずのアポロが、再び眠りの世界へと入ってしまった。僕たちは顔を見合わせて、笑った。
僕たちは全員で、この小さな勇者を支えていくんだ。
僕は起きる気配のないアポロを担いだ。思ったよりもずっと、軽くて小さな体だった。
城を出て、家へと歩く。僕たちが生活する、あの家に。いつの間にか夜は明けて、朝日が出ていた。
僕は目を細めながら、今日の晩御飯について考えた。




