プリンを食べよう
前回のあらすじ
家が光った
「あ、女神様!」
アポロが独り言を始めた。また女神から交信があったのだろう。少し離れた場所へ移動してしまったため、何を話しているのかはわからない。しかし、何かこれまでとは違うことが起こっていることは確かだった。
しばらくして、アポロが戻ってきた。相変わらず埃まみれだったが、そのことを気にする様子もなく、下を向いて歩いていた。
「おい、まだ埃ついてるぞ」
「うん…」
動こうとしない。仕方がないので、髪についた埃を払ってやった。
「ひゃっ!!」
アポロは凄い勢いで後ろへ飛んだ。
「急に触らないでよ!」
「何だ、せっかく埃を払ってやったのに」
「これくらい自分でできます!」
いつものアポロだった。心配する必要はないか。それにしても、アポロの髪は思ったよりもずっと細く、柔らかく、サラサラだった。
埃を払い家へ入った。せっかくなので和室でのんびりすることにした。
「ほら、こうやってゴロゴロするのが畳の流儀だ」
「床に寝っ転がるの?衛生観念が違うね」
アポロに言われるとひどくショックだ。しかしすぐにアポロも畳でゴロゴロし始めた。気に入ったようで、部屋中をゴロゴロしながら移動していた。
「それにしても、さっきの光は何だったんだ?」
「ああ、うん。それはね…」
随分歯切れが悪い。初めて会った時のようだ。しばらく待ったが、それ以上アポロが口を開くことはなかった。僕たちは無言でゴロゴロした。そして、いつの間にか眠ってしまった。
目を覚ますと夕方だった。晩御飯を作らなければ。
「アポロ、晩御飯だけど」
アポロの姿が見えなかった。和室から出て行ってしまったようだ。
「アポロー」
一階に降りて、アポロを探した。
「あ、お、起きたんだ」
アポロはリビングに座って何かを書いていた。すぐに隠してしまったので読むことはできなかった。流石に人様の手紙を読むのは失礼だし、特に追求はしなかった。
「晩御飯何が食べたい?」
「うーん…何でも良い!」
「何でも良いが一番困るんだよ」
「タカキが作ったものなら、何でも」
恥ずかしいことをさらっと言う勇者だ。それなら、今日は和室でゴロゴロしたことだし和食にしよう。それと…
僕たちは買い物に出かけ、鶏肉と卵、それに蓮根とごぼうが売っていたので購入した。トールさん、一体どこまで手を伸ばしているんだろう。まだまだあの農園には秘密がありそうだ。
家へ戻り、キッチンへ立つとアポロはそそくさと身支度を整えた。
「ごめん、出たみたい。行ってきます」
「今日は早い時間なんだな。頑張れ」
「はーい、ご飯よろしく!」
アポロはそう言って飛び出して行った。さて、今日のメニューは筑前煮もどきだが、その前に…
アポロが戻ってくるまで、随分と時間がかかった。
「ごめん、遅くなっちゃった」
「随分長かったな」
「えへへ、ちょっとね。それより、今日のご飯は何?」
「筑前煮もどき、卵焼き、紅白なますと、炊き立てご飯だ」
「筑前煮って?」
「鶏肉と根菜を醤油と砂糖で煮た料理だな。はじめに鶏肉とにんじんごま油で軽く炒めて、厚めにカットした蓮根とごぼうを加えて醤油と砂糖、水を加えて煮るんだ。落とし蓋をすると味がよく染みる。本当はこんにゃくとか干し椎茸が必要だから、あくまでもどきだけど」
「へえ、甘辛くていい匂い」
「紅白なますはにんじんと大根を千切りにして塩揉みして、水気を切ったら酢と砂糖と醤油で和えたら完成。ごまも加えてる」
「それに炊き立てご飯でしょ。お腹ぺこぺこ。食べていい?」
「「いただきます」」
「美味しいいいい!!!このおかず、ご飯がいくらでも進んじゃうよ!!!甘辛い煮物と、甘い卵焼き、なますの酸味が箸休めになって無限に食べちゃうね!!!」
いつも通りのアポロだ。食べ方も、コメントも。それでも、やはりどこか、いつもと少し違う気がしてしまう。どこか悩んでいるような、何か考えているような。根拠は無いが、何故だかそんな気がした。
いつものように、気がついたら完食していた。
「あー、美味しかった。いつもありがとう」
「今日はこれで終わりじゃないぞ」
「え?」
「デザートがございます」
僕は冷やしておいたプリンを取り出した。ミルクを加熱し、砂糖を溶かした上で卵液と混ぜる。卵が固まってしないように、少しずつ。そしてザルでこした後にガラスのコップに移し、鍋にと水を入れて、ふきんをまいた蓋をして、低温でゆっくり蒸し上げた。すができないように丁寧に。固まったら水で冷やし、その間に砂糖と湯をフライパンで加熱してカラメルソースを作ったら完成!
「プリンです!」
皿の上にプリンを出し、カラメルソースをかけるとアポロはみるみる笑顔になっていった。
「食べていい!?」
「どうぞ」
「いっただきまーす」
アポロは満面の笑みで一口食べた。
「美味しいいいい!!!!!甘い!!!!!冷たい!!!!!トロトロ!!!!!ほんのり苦い!!!!!美味しい!!!」
今度は、本当にいつものアポロだった。そんな気がした。
「こんなものまで作ってくれて、ありがとう」
「ちょっとは元気出た?」
「えっ?」
「何か今日、掃除終わってから考え込んでただろ。無理に話せとは言わないけど。プリンでも食べて元気が出たら良いなと思ってたんだ」
「…」
「でも僕はいつでも話を聞くし、もし話したくなったら話してくれ。一緒に住んでるんだから、悩みは共有した方が楽だろ」
「…」
「今日は疲れてるだろうから、もうお風呂に入って寝たらどうだ?お風呂沸いてるぞ」
「…」
「どうした、アポロ」
「ごめん、ありがとう、ありがとう。タカキ」
そして、アポロは静かに泣いた。僕は彼女の涙を拭くことしかできなかった。




