表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/43

プリンを食べよう

前回のあらすじ

家が光った


「あ、女神様!」


アポロが独り言を始めた。また女神から交信があったのだろう。少し離れた場所へ移動してしまったため、何を話しているのかはわからない。しかし、何かこれまでとは違うことが起こっていることは確かだった。


しばらくして、アポロが戻ってきた。相変わらず埃まみれだったが、そのことを気にする様子もなく、下を向いて歩いていた。


「おい、まだ埃ついてるぞ」


「うん…」


動こうとしない。仕方がないので、髪についた埃を払ってやった。


「ひゃっ!!」


アポロは凄い勢いで後ろへ飛んだ。


「急に触らないでよ!」


「何だ、せっかく埃を払ってやったのに」


「これくらい自分でできます!」


いつものアポロだった。心配する必要はないか。それにしても、アポロの髪は思ったよりもずっと細く、柔らかく、サラサラだった。


埃を払い家へ入った。せっかくなので和室でのんびりすることにした。


「ほら、こうやってゴロゴロするのが畳の流儀だ」


「床に寝っ転がるの?衛生観念が違うね」


アポロに言われるとひどくショックだ。しかしすぐにアポロも畳でゴロゴロし始めた。気に入ったようで、部屋中をゴロゴロしながら移動していた。


「それにしても、さっきの光は何だったんだ?」


「ああ、うん。それはね…」


随分歯切れが悪い。初めて会った時のようだ。しばらく待ったが、それ以上アポロが口を開くことはなかった。僕たちは無言でゴロゴロした。そして、いつの間にか眠ってしまった。


目を覚ますと夕方だった。晩御飯を作らなければ。


「アポロ、晩御飯だけど」


アポロの姿が見えなかった。和室から出て行ってしまったようだ。


「アポロー」


一階に降りて、アポロを探した。


「あ、お、起きたんだ」


アポロはリビングに座って何かを書いていた。すぐに隠してしまったので読むことはできなかった。流石に人様の手紙を読むのは失礼だし、特に追求はしなかった。


「晩御飯何が食べたい?」


「うーん…何でも良い!」


「何でも良いが一番困るんだよ」


「タカキが作ったものなら、何でも」


恥ずかしいことをさらっと言う勇者だ。それなら、今日は和室でゴロゴロしたことだし和食にしよう。それと…


僕たちは買い物に出かけ、鶏肉と卵、それに蓮根とごぼうが売っていたので購入した。トールさん、一体どこまで手を伸ばしているんだろう。まだまだあの農園には秘密がありそうだ。


家へ戻り、キッチンへ立つとアポロはそそくさと身支度を整えた。


「ごめん、出たみたい。行ってきます」


「今日は早い時間なんだな。頑張れ」


「はーい、ご飯よろしく!」


アポロはそう言って飛び出して行った。さて、今日のメニューは筑前煮もどきだが、その前に…


アポロが戻ってくるまで、随分と時間がかかった。


「ごめん、遅くなっちゃった」


「随分長かったな」


「えへへ、ちょっとね。それより、今日のご飯は何?」


「筑前煮もどき、卵焼き、紅白なますと、炊き立てご飯だ」


「筑前煮って?」


「鶏肉と根菜を醤油と砂糖で煮た料理だな。はじめに鶏肉とにんじんごま油で軽く炒めて、厚めにカットした蓮根とごぼうを加えて醤油と砂糖、水を加えて煮るんだ。落とし蓋をすると味がよく染みる。本当はこんにゃくとか干し椎茸が必要だから、あくまでもどきだけど」


「へえ、甘辛くていい匂い」


「紅白なますはにんじんと大根を千切りにして塩揉みして、水気を切ったら酢と砂糖と醤油で和えたら完成。ごまも加えてる」


「それに炊き立てご飯でしょ。お腹ぺこぺこ。食べていい?」


「「いただきます」」


「美味しいいいい!!!このおかず、ご飯がいくらでも進んじゃうよ!!!甘辛い煮物と、甘い卵焼き、なますの酸味が箸休めになって無限に食べちゃうね!!!」


いつも通りのアポロだ。食べ方も、コメントも。それでも、やはりどこか、いつもと少し違う気がしてしまう。どこか悩んでいるような、何か考えているような。根拠は無いが、何故だかそんな気がした。


いつものように、気がついたら完食していた。


「あー、美味しかった。いつもありがとう」


「今日はこれで終わりじゃないぞ」


「え?」


「デザートがございます」


僕は冷やしておいたプリンを取り出した。ミルクを加熱し、砂糖を溶かした上で卵液と混ぜる。卵が固まってしないように、少しずつ。そしてザルでこした後にガラスのコップに移し、鍋にと水を入れて、ふきんをまいた蓋をして、低温でゆっくり蒸し上げた。すができないように丁寧に。固まったら水で冷やし、その間に砂糖と湯をフライパンで加熱してカラメルソースを作ったら完成!


「プリンです!」


皿の上にプリンを出し、カラメルソースをかけるとアポロはみるみる笑顔になっていった。


「食べていい!?」


「どうぞ」


「いっただきまーす」


アポロは満面の笑みで一口食べた。


「美味しいいいい!!!!!甘い!!!!!冷たい!!!!!トロトロ!!!!!ほんのり苦い!!!!!美味しい!!!」


今度は、本当にいつものアポロだった。そんな気がした。


「こんなものまで作ってくれて、ありがとう」


「ちょっとは元気出た?」


「えっ?」


「何か今日、掃除終わってから考え込んでただろ。無理に話せとは言わないけど。プリンでも食べて元気が出たら良いなと思ってたんだ」


「…」


「でも僕はいつでも話を聞くし、もし話したくなったら話してくれ。一緒に住んでるんだから、悩みは共有した方が楽だろ」


「…」


「今日は疲れてるだろうから、もうお風呂に入って寝たらどうだ?お風呂沸いてるぞ」


「…」


「どうした、アポロ」


「ごめん、ありがとう、ありがとう。タカキ」


そして、アポロは静かに泣いた。僕は彼女の涙を拭くことしかできなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ