二階を綺麗にしよう(前編)
前回のあらすじ
風呂上がりのミルクを飲んだ
目を覚ますと、外は快晴だった。外へ出ると、雲一つない真っ青な空がどこまでも続いていた。こんな日は、少し凝った朝食を作りたくなる。フレンチトーストとか。
溶き卵を作り、水で冷やしておいた牛乳を加えてよく混ぜる。それにたっぷりの砂糖を加えてやる。健康に悪いとか、メタボとかは一回忘れよう。だって今日はこんなに良い天気なのだから。カットしたバゲットを卵液に浸し、ひっくり返しながらしばらく置いておく。
その間にサラダを作ろう。昨日と同じくレタスを水に浸してパリッとさせる。それに切ったトマトと塩揉みしたきゅうりを加えて、色味を整える。ドレッシングは簡単なフレンチドレッシングだ。
バゲットの中まで卵液が染みたので、フライパンを火にかけてバターを加える。弱火にしてバゲットをじっくりと焼く。焼き色がついたら裏返して、蓋をして蒸し焼きにする。甘い香りが家中に広がって心地よい。
「甘い匂いがする」
気配もなく、アポロが後ろに立っていた。甘い香りにつられて起きた様だ。寝癖がひどい。
5分ほど火を通したら蓋を開ける。中まで火は通っているようだ。蓋を開けた状態で少し水分を飛ばして、表面をカリッとさせたら完成。
「完成、フレンチトースト!」
皿に乗せて、バターを一欠片置く。溶けた位が食べ頃だ。
「美味しいいい!!!カリッと、ふわっとしてて甘ーい!!!」
「サラダもちゃんと食べろよ」
僕の話を聞いているのか聞いていないのか。アポロはバクバクとフレンチトーストを食べまくった。そして時々思い出したようにミルクをグビグビと飲む。優雅な朝食にするつもりだっだのに、少年漫画の食事シーンのようになってしまった。
綺麗に平らげて、皿洗いをしながら今日の予定を考えた。今日はまだ手をつけていない二階部分を綺麗にしたい。
「アポロ、二階はどんな具合だ?」
「二階…ほとんど使ったことがないな」
「使えよ」
「いや、一人暮らしってそんなに部屋いらないじゃん」
「女神の聖地に謝れ」
そんなことを言いながら、僕は少し胸を撫で下ろした。この様子だと、この歩くゴミ屋敷製造機の被害を受けていることはなさそうだ。つまり、終わらないゴミの分別やゴキちゃんの恐怖に震える必要がないということだ。
皿洗いが終わり、僕たちは二階へと向かった。軽い足取りで階段を駆け上がる。ジョリ。ジョリ…?足の裏に妙な感触があった。恐る恐る足の裏を見ると、真っ黒になっていた。溜まりに溜まったほこりなのか、すすなのか、まっくろくろすけがいたのか。僕はゆっくり深呼吸をして、ある程度覚悟を決めた。この家を掃除することは、簡単なことではないのだ。わかっていたことじゃないか。
恐る恐る二階の廊下に足を踏み出した。ジョリジョリ、ジョリジョリとうるさい。雑巾何枚必要かなあ…
「二階は二つ部屋があるんだけど、その内の一つは変な部屋なんだよね。床の素材が変だし、どう使うのかもわからないっていうか」
「変な部屋?」
今まで見てきた部屋も十分すぎるくらい変な部屋だったけど。とりあえず普通の部屋から案内してもらうことにした。
ドアノブは真っ黒になっていた。触ると、表面がボロボロと崩れた。信じられないけど、これはサビだ。ドアノブが錆びた部屋なんて生まれてこの方見たことがないし、今後も見る予定がない。
震える手でドアを開くと、そこは空の洋室だった。家具も何もない、フローリングだけが広がっていた。正確にはだけ、ではないが。大量の蜘蛛の巣、も、ある。
「もうここに俺たちが入って良いのか?蜘蛛の部屋じゃないか」
「女神様のお家に何てこと言うの!」
女神様のお家に何てことしやがる。まあ、予想通りではある。むしろゴミがない分予想よりはずっと綺麗だ。蜘蛛との決戦は後回しにして、もう一部屋を案内してもらう。
「ここなんだけどね、ドアからして変でしょ」
そこには、僕には見慣れたものがあった。ボロボロになってはいるけれど、紙で出来た、横開き方式の扉。つまり、ふすまがあった。
ガタついているふすまを無理やり開くと、懐かしい香りが広がった。い草だ。変色した畳に、花瓶、なんと床の間まであった。須くぼろぼろだけど、これは
「和室だ」
この家には、和室があった。




