農場へ行こう(中編)
前回のあらすじ
農場についた
「おおお、鶏だ」
トールさんに案内された先には、広大な敷地を自由に歩き回る鶏がいた。
「鶏は基本自由に育ててるよ。ストレスがない方が美味しい卵を産むからね」
「豚はどこにいるんですか?」
「豚は奥の敷地だよ。これも基本放し飼いだ。雑草を食べてくれるから、農地を広げるのにも役に立っとる」
鶏も豚も、とても穏やかに暮らしていた。僕たちは彼らに生かされているのだ、と感じる。ありがとうと心の中でつぶやいた。
「それで、アポロと城の人についてですが」
「そうだな。どこから話すべきかな。まずは、あの子は城の人、つまり女神様の末裔の遠い子孫にあたる」
ということは、アポロは女神の血が流れているということか。
「といっても、本当に遠い親戚だから城の人とは本来関わることはないはずだった。あの子の両親が亡くなるまでは」
「亡くなった…?」
「あの子がまだ小さい時にな。何者かに襲われたようだ」
「そうだったんですか…」
「そして彼女は城の人の家に預けられた。当初は両親を亡くしたショックで、何も話さなくなっていた。そして、一年ほど経った後かな、彼女は急に会話を始めた。女神様と」
「女神と、会話ですか」
僕も何度か目撃したことがある。
「うん。始めは何と話しているのかわからず不気味に思ったそうだが、城の人はすぐに、彼女が選ばれた人間であることに気がついた。彼女は勇者なのだ、と」
「勇者…」
「そして彼女は厳しい稽古をつけられた。毎日、毎日。魔物による被害が深刻化していたこともあったから、彼らも必死に教育をしたそうだ。だがその時はまだ、城の人は善良だったよ。あのドラ息子に変わるまでは」
「代替わりがあったんですか?」
「ドラ息子が、城を乗っ取ったんだ。奴は当主になると、自分の親すら城から追い出してしまった。そして奴は、我々から必要以上の税を取り立て、村の若い女性を城に囲い、自分の身を守るためだけの自警団を作った。しかし、奴の犯した最も重い罪は、城の人の責務を放棄したことだ」
「城の人の責務、ですか?」
「聖地の管理と勇者の育成。勇者を聖地に住まわせ、奴は聖地に一切関わろうとしなかった」
そいつのせいで、家があんな状態になったのか!
「まだ10歳のアポロちゃんを、誰も入ることができない聖地に押し込めたんだ」
「今、何て仰いましたか?誰も入ることができない?」
「うむ。聖地には、城の人と勇者、つまり女神様に選ばれた人しか入ることができない。それがルールだ」
僕は色々と納得がいった。ゴーラムがベッドを運ぶことができないことも、アポロは村の人から慕われているのに、誰も家事を手伝おうとしなかったことも。全て、そういうことだったのだ。
それでは何故、僕は入ることができた?
「私たちは城の人に必死に働きかけたが、奴は聞き耳を立てなかった。それどころか、さらに重い税を課してきたのだ。そしてその頃から、魔物による被害が急増した。私たちは何もできず、ただアポロちゃんに頼るしかなかった。まだ10歳だった彼女を一人で住まわすことしかできなかった。情けない。それでも、私たちの税の一部が彼女の生活になるのなら、と思うことでなんとか生きることができたよ。彼女は私たちの希望だ。だが、それは彼女の肩には重たすぎる」
トールさんは僕をしっかりと見つめた。
「無力な私たちですまない。それでも頼む、あの子を支えてやってくれ」
僕は何も答えることができなかった。




