餃子を食べよう(前編)
前回のあらすじ
寝室を綺麗にしたら勇者と喧嘩した
「ねえ、ごめんって。もう許してよー」
「ふん!」
「本当やりすぎたよ、ごめんね」
「けっ!」
「何でもするから、許して、ね?」
「何でもする…?」
「えっ、ちょっと、その、何でもとはいっても限度というものがある、けど…」
「よし、何でもするんだな。よしよし」
「ちょっと、限度があるからね!私勇者だからね!」
スーパーに入ると、おばあさんが話しかけてきた。
「あら、またあなた達?最近いつも一緒なのね?」
「ああ、それは」
一緒に住んでいるので…と言おうとしたが、ダーラムの言葉を思い出して飲み込んだ。
「まあ、最近僕が作った物をお裾分けしてるんですよ」
勇者はジロリとこちらを見てきたが、無視。
「あらー、そうなの?ひょっとして二人は、アベックさん?」
随分と古い言葉を使う。
「「アベックなんかじゃない!!!」」
「ほら、息ぴったり」
誰がこんな女と。
「それより、今日は珍しいお肉が入ってるのよー」
「お、これは…豚肉じゃないですか!」
「そうなの、近所の農家さんがね、今日たまたま卸してくれたのよー」
「おお、最高の地産地消ですね。どこで育ててるんですか?」
「地産地消…?農家さんは、山の方にずーっと行ったところよ」
「私も知り合いだから、今度連れて行ってあげるよ」
「ひゅーひゅー」
「「だから違うし、リアクションが古いよ!!!」」
不覚にも、またアポロとハモってしまった。
僕は豚肉と、いくつかの食材を購入した。
「それよりアポロ、さっきの話だけど」
「えっ…何かな?」
「何でもするって、言ったよな」
「いや、言ったけど…いや、その…」
「それじゃあ、今日の料理を手伝って貰おうか!!!」
「えっ?あっ、その、そんなことで良ければ」
そんなことで良ければ、だと?そんなに優しいものじゃないぞ、今日のレシピは。
「今日は餃子を作る!!!」
「ギョーザ?」
食材は豚肉、キャベツ、ネギ、ニンニク、薄力粉、強力粉、油、それに鶏ガラ。鶏ガラはただ同然の値段で売られていた。この世界でもちゃんと薄力粉、強力粉という概念があって助かった。
まずは鶏ガラで出汁をとる。鶏ガラを一度軽くボイルし、ネギの青い部分と一緒に大量のお湯でぐらぐらと煮る。この水のほとんどは無くなってしまうけれども。
「アポロは出てくるアクをすくってくれ!」
「アク?」
「白い泡だ!ガンガン出てくるからガンガンすくってくれ」
「お安い御用!」
アポロは鼻歌を歌いながらアクをすくう。歌上手いな、こいつ。
「これをどれくらいやるの?」
「1時間くらいかな?」
「長!?」
「それでも短いくらいだ」
「暑いよー」
「何でもやってくれるんだろ?」
「意地悪…」
アポロに鶏ガラ出汁を見てもらっている間に、僕は餃子の皮を作る。
薄力粉と強力粉を一対一の割合で混ぜ、そこに塩とお湯を加える。こねていくうちに、段々とまとまりができてきて、表面が艶っぽくなってくる。一つの大きな塊になったので、慣れ雑巾で蓋をして30分放置。これで皮の生地ができた。
次はアンだ。キャベツとネギとニンニクをみじん切りする。今回は食感を残したいので、生のまま。次はいよいよ、今日のメイン食材である豚肉のブロックだ。トトトンと包丁でリズミカルに叩き、ミンチにする。少しだけ荒い部分も作ってやると食感が面白くなる。肉があんまり大きいとまとまりが無くなってしまうので、バランスを慎重に整えてやらなければ。
「そろそろ鶏ガラ行けそうだよー」
覗き込むと、少し色は薄いが黄金色のスープが出来上がっていた。アポロもアク取りならできるようだ。アク取名人、という異名を授けよう。
「マジで失礼だよね、タカキ」
「そんなに顔に出てるか?」
「声に出てた!」
そうか、声に出てるのか。この世界の住人は心を読める訳では無さそうだ。
鶏がらスープの一部を取り出し、冷ます。残りは今日の汁物にしよう。
玉ねぎをスライスし、鶏がらスープに加えて煮る。醤油と塩胡椒、酢で味を整えてやる。酢を加えると一気に中華風になるんだよなー。最後に溶き卵を加えてやると、卵はふわっと広がった。中華風かきたま汁の完成。
「うわあ、美味しそう。このスープ私が取ったんだよ!私が!」
「はいはい、偉い偉い」
頭を撫でてやるとニヘヘと笑った。単純だなあ。
「よし、それじゃあ一度手を洗ってくれ!」
「え、もう食べるの?」
「いや、今からが本番だ!」
先程作った餃子の皮の生地を、一口代にカットする。まな板にうち粉をひき、手で押しつぶして平らにする。
「にゃはは、変な感触ー」
「できるだけ平らにするんだぞー」
「これを何回やるの?」
「40回くらいかな?」
「ゲッ…」
「料理は根気だ」
それに、もっと面倒な作業も待っている。アポロは特に文句も言わず、黙々と皮を作った。流石に反省しているようだ。
あっという間に皮が完成した。やはり二人でやると早い。
冷めた鶏がらスープをアンに加え、醤油で味を整える。いよいよ、詰める作業だ。僕は水の入った小皿を用意した。
「まず適量のアンを皮の真ん中に載せて、指に水をつけて皮の外側をなぞる。そして皮を引っ付けて、こうやってヒダをつけていくんだ。これで、餃子の完成」
「できるかな…ヒダってどうやってつけるの?」
「適当にこう、指をもぞもぞさせたらできる」
「そんなー。もっと正確に教えてよ」
「まあとにかくやってみろよ」
案の定、アンを詰めすぎて皮が破れたり、ヒダが2つしかできなかったりと不揃いな餃子が続々と誕生した。
「うわわわわ」
「それはそれで美味しいからどんどん作ろうぜ」
「へへ、難しいね」
「でも、結構楽しいだろ?」
「うん。結構楽しい」
「そうだ、この前残ったチーズを入れてみるか!」
「絶対美味しいじゃん!!!」
僕たちは談笑しながらどんどんと餃子を詰めた。餃子を詰めるついでに話しているのか、話すついでに餃子を詰めているのか。
半分以上詰めたときに、僕は質問したいことを思い出した。
「そういえば、城の人とアポロの関係性って何?」
「うーん…まあ、一言で言うと、遠い親戚、みたいな?」
「はあ」
「私が女神様に選ばれたから、引き取ってもらったの。あの人達には毎日稽古をつけてもらってたよ。小さい頃の話だけど」
「それで今は?」
「今は生活費をもらってるだけ。それも、決まった場所に届けられるだけだから会うことはないの。その、何というか、ここだけの話ね、あんまりソリが合わなかった、というか…」
なんだか歯切れが悪い。彼女らしく無い話し方に少し引っかかった。もう少し調べてみる必要がありそうだ。
そんなことを話している間に、餃子を包み終わった。
「それじゃあ、いよいよ、いよいよ、焼くぞ!!!」
「おおお…正直私疲れた…」
ここからが本番だ!




