布団を買おう
前回のあらすじ
卵焼きを食べていたら寝室の掃除を拒否された
「何でだよ、別にいいだろ!」
「絶対にダメ!乙女の寝室に入るなんて許可できません!」
「乙女の寝室…?何今更恥ずかしがってるんだよ!一昨日までのこの家の惨状より恥ずかしいものなんて無いぞ!」
「あー!またぽろっと酷いこと言った!本当タカキってデリカシーないよね!」
僕たちはしばらく戦ったが、アポロが折れることはなかった。これまで掃除には協力的だったのに。
「でも寝室を綺麗にしたらまた新しい奇跡が目覚めるんじゃないか?それならお互いのためになるだろ!」
「それは…そうかもしれないけど…でも嫌なの!」
「じゃあどうするんだ!」
「寝室は私一人で綺麗にします。私は勇者よ。本気を出したら寝室の一つや二つ、完璧に綺麗にしてみせますとも!」
嫌な予感しかしない。しかし、一度任せてみるのも必要かもしれない。流石にこの勇者、このまま生きていくことはできないだろうし。家事を覚えるにはちょうどいい機会だ。
「わかった、それじゃあ今日1日で寝室を綺麗にするんだぞ!」
「よーし、任せなさいよ!タカキは布団でもベッドでも何でも買ってきて!その間に、びっくりするくらいピッカピカにしてやるんだから!」
僕は寝具を売っているお店の場所を教えてもらい、家を出た。お店に向かう途中、家の中からドンガラガッシャンという、現実生活で聞くことのない音が聞こえてきたが、聞かなかったことにした。
「いらっしゃい…って、ああ!!!お前は!!!」
アポロに教えてもらった家具屋に入ると、この世界に来たばかりの僕をカツアゲしてきた、グラサン男が作業をしていた。
「おお、グラさん男じゃないか。もう魔物に襲われたりすんなよ」
「グラサン男って呼ぶな!ダーラムっていう立派な名前があるんだよ!」
グラサン男、通称ダーラムは顔を真っ赤にして怒った。赤と黒のグラデーションが素敵だ。
「お前今、頭の中で失礼なこと思ったろ!」
この世界の住人は皆心が読めるのだろうか。それとも、僕が顔に出やすいだけなのか。
「まあまあ、落ち着きなよグーラム」
「ダーラムだ!グラサン男とダーラムを混ぜるんじゃない!」
ダーラムはブツクサいいながら作業に戻った。見事な手つきで、木材を削っている。
「上手いじゃないか、てっきりただのゴロツキだと思ってたよ」
「うっせえ。まあ、あの時は悪かったよ」
やっぱりこいつ、根は素直だな。
「ダーラムはこの店の店主なのか?」
「いや、親父が店主だ。俺はまだ見習いってところだな」
「ははーん。それで、パパからお小遣いが貰えなかったからカツアゲを…」
「もう許してくれ!!!あれは本当に、俺もおかしくなってたんだよ!!!あとパパなんて呼んだことないからな、俺は!!!」
実は隠れて読んでいる。千円かけても良い。
「お小遣いは別にいらねえけどよ、家にお金が必要だったんだよ」
「何でだよ。立派な店を持ってるじゃないか」
寝具やタンスが店中に並んでおり、品揃えも商品の品質も素晴らしいお店だった。見習いだというダーラムの手つきも、既に熟練の職人のようだ。このお店が儲かっていないはずがない。
「いや、いくら売り上げても生活は苦しいんだよ。城の奴らが持ってっちまうからな」
「城…?」
そういえば、この前アポロが話していた。女神の末裔…とか何とか。
「あいつら、女神の家の管理に金が必要とかなんとか言って、俺たちから金を巻き上げんだよ!」
女神の家…まさか、あのゴミ屋敷じゃあるまいな。
「魔物もどんどん出てくるし、実際俺も殺されかけたしよお。勇者様が居てくれてるから生きてけるけどよお。お金もねえ、いつ殺されるかもわからねえ」
「魔物に関しては心配いらないと思うぞ。アポロ強くなってるし」
「そういえばお前、勇者様に助けられたんだったな。ん?アポロ?何呼び捨てにしてんだよ!!!」
「別に自由だろ!一緒に暮らしてるんだし!」
「一緒に…暮らしてる…?まさか…女神の…家にか?」
やはり女神の家はゴミ屋敷だったか…何も管理されていないじゃないか。
「ああ、多分そうだよ」
「なんだって!?お前、あの家に住んでるのか!?」
グラサン男はグラサンを外した。つぶらな瞳だった。
「お前…そのことは…あんまり人に言うな。特に城の奴らには言うな。言ったらぶちのめすぞ」
「アポロに言いつけるぞ」
「良いから!俺は勇者様に助けられたし、お前にも悪いことしたと思ってるから言うんだ。もう一度言うぞ、城の奴らには言うな。わかったな」
「う、うん…」
「よし、それなら良い」
ダーラムは再び作業に戻ろうとして、何かを思い出したように口を開いた。
「そういえばお前、何でここに来たんだ?」
そうだ、僕は寝具を買いに来たんだ。
「ああ、布団はあっち。ベッドはそっち。ただ、ベッドはやめといたほうがいいと思うぞ」
「何で?」
「お前一人で運べるか?あれ」
「ダーラムが運んでくれたらいいじゃないか」
「俺一人でも無理だよ!いや、そうじゃなくてな…まあ、とにかく布団にしとけ。悪い事は言わないからよ」
まあ元々ベッドは置くスペースがないと思っていたので、布団を選んだ。しっかりとした作りの羽毛布団と、掛け布団、それにふわふわの枕を購入した。
日本円で一万円程度だった。本物の羽毛を使っていてこの値段は安いだろう。お値段以上だ。
「ちなみに何の羽なんだ?」
「ニワトリだ」
この世界に来てから、ニワトリ様にはお世話になりっぱなしだ…
僕はダーラムに運んでもらうように何度もお願いしたが、彼は聞き入れてくれなかった。仕方がないので、えっちらおっちらと家まで運んだ。持ちやすいように梱包を工夫してくれたダーラムは、やはり悪いやつではないのだろう。
僕は運んだ疲れと、家に入る緊張感から一度深呼吸をした。果たして、家の中は少しは綺麗になっているだろうか。
「ただいま!!!」
返事はない。奥の方でゴソゴソという音が聞こえる。どうやら作業中のようだ。
僕は頑張って布団をリビングへと運び込んだ。これで今日から更に快適な睡眠ライフを送ることができる。
そこからしばらくリビングでのんびりしていたが、アポロは一向に出てこなかった。ずっとゴソゴソという音だけが聞こえる。
流石に僕はアポロの寝室をノックした。
「アポロー。調子はどうだー?」
返事はない。まさか、屍になってたりしないだろうな。
少しだけ迷ったが、たんこぶの痛みより心配が増さった僕は寝室のドアを開けた。するとそこには…
服の塊に覆われた生物がもがいていた。当然部屋は一切片付いていない。
「やっぱり片付いていないじゃないか!!!」
服の塊はモガモガと何か言っているようだが、言葉になっていない。服で口が完全に塞がれている。
僕は服を引っ剥がし、塊の主に語りかけた。
「やっぱり僕がやらないとだめじゃないか」
アポロは一度大きく息を吸い込み、そして叫んだ。
「ギャーー!!!!!入ってくるなって言ったじゃん!!!」
そして勇者の剣に手をかけた。
「ストップ、ストップ!!!落ち着け!!!どう考えても僕は悪くないぞ!!!そもそも勇者の剣をそんな簡単に構えるんじゃない!!!」
「寝室に、入るなーーーー!!!」
勇者は剣を振るった。鞘に入ったまま。僕の頭には朝より数倍大きいたんこぶができた。
まじで城の人が管理してくれないかな、この理不尽勇者。




