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リビングとキッチンを綺麗にしよう(後編)

前回のあらすじ

ゴキちゃんが現れた


「はあ…はあ…とりあえずリビングの床は綺麗になった」


「お疲れ様ー。一休みする?」


「いや、この勢いのまま進めよう。ぐちゃぐちゃの机はまた後でやるとして、次はここだ!」


僕はキッチンへと足を運んだ。


キッチンの流しはいつから溜まっているのかもわからない程の量の皿が山積みになっていた。すべからく汚れている。せっかくの3口コンロも全て油でギトギトになっており、着火したら全て燃えてしまいそうだ。換気扇は油で固まり動かなくなっていた。


「…」


「あれ?どうしたの?いつもだったら、こんなことだろうと思ったよ!とか怒鳴ってるのに」


「これ以上叫ぶと喉が潰れるんだよ。それに、もういい加減慣れてきた」


「じゃあ掃除しなくてもいい?」


「そういう意味じゃない。それにアポロも奇跡を手に入れないといけないだろ」


「あっ、そうだった」


この勇者、戦っていない時は本当にポンコツだ。


僕はいつものように鞄を開いた。本当に、本当にこの鞄を持った状態で異世界に連れてこられてよかった。僕は重曹を取り出した。


「今度は何?」


「重曹、炭酸水素ナトリウムだ」


「たんさん?」


「まあ、アルカリ性の溶液を作るための粉だな」


「あるかり?」


「すまない、まあ、とにかく、油汚れにはこいつが効くんだ」


僕は重曹を水に溶かし、コンロの周辺にかけた。このまま放置しておけば、油汚れが浮いてくるはず。


僕はアポロを肩車して、換気扇の蓋を外した。換気扇の中に住み着いていたゴキちゃんとの格闘もあったような気がするが、ほとんど記憶にない。


換気扇も重曹を溶かした溶液に漬け込み、油汚れを落とす。流石にこびりつきが酷すぎるため、一度水を変えた。こちらもしばらく置いておく必要がある。


僕はその間に皿洗いに取り掛かった。幸い、洗剤とスポンジらしきものがあったので使用することにした。


「このスポンジ、変わった素材だな」


「ああ、それ確かへちまだよ」


「へちま…聞いたことがあるな、へちまを乾燥させたものはスポンジとして使うことができるって」


「うん、近所のおばあさんからもらったんだ」


ご近所にもご挨拶しなければならないな。そういえば、この世界はトマトもあるし玉ねぎもあるし、へちままで植えている。スーパーの品揃えを考えても、この世界の農業はかなり進んでいるようだ。それにしては加工品が少なかったような気がするが。


まあ、水道やガスといったインフラも整っているし、生活する上で困ることはないか。


そんなことを考えながら、皿洗いを進めた。皿洗いは考え事をしながら進めるものだ。僕の持論だけど。


「うわー、独り言言ってるよこの人。怖いよー」


おっと、考え事が漏れてしまっていたようだ。


「お前だってたまに独り言みたいなことやってるだろ。女神と妄想トークを」


「女神様を妄想にするな!偉大な方なんだぞ!」


「どういう存在なんだ?」


「うーん、この世界を作った方であり、過去に魔王が出たときに倒した方であり、この世界の理を掌る方でもあるかな」


壮大すぎて訳がわからん。転生するときに僕が話した女神は別に普通の人間のように見えたけど、この世界の女神はまた違う感じなのだろうか。というか、この家は女神の聖地だし、今でも女神に監視されているのだろうか。そんなことを考えると、少しげんなりとした。生活を盗撮、盗聴するなんて基本的人権を無視している。犯罪行為だぞ。


「女神様の逸話としてはねー…」


アポロは嬉しそうに語っているが、無視することにした。僕は今晩のレシピを考えながら皿洗いに没頭した。


何とか皿も片付いた。しかし、このへちまスポンジも随分と汚れてしまった。


「このスポンジ、替えはあるか?」


「うん、確かね。大量にもらったし。どこに行ったかわからないけど」


僕はきっと後で見つかると信じて、スポンジをコンロと換気扇の掃除に使うことにした。


重曹につけていたおかげで特に力を入れることなく油汚れはつるりと剥がれた。何だか、洗剤のcmでこんな映像を見たことがある気がする。


「うわー…何だかここまで落ちると気持ちが良いのか、気持ちが悪いのか…」


それについては僕も同感だった。ぺろりと剥がれた油の塊は少し、というかかなりグロテスクに感じられた。


コンロと換気扇を乾燥させている間に、シンクの水垢(所々真っ赤になっていた。そういうデザインなのかと思った程だ)を取ることにした。こちらはクエン酸が有効だ。


「しかし、タカキは本当に家事をしている時はイキイキしてるね」


「ふ、伊達に十年以上やっていないさ。それに、集中して向き合えば結構楽しいんだぞ」


「えー…私はフライドチキン食べてる方がいいな」


楽しくなくても少しは綺麗にしてくれていたら、僕も喉を枯らすことは無かったのに。


コンロと換気扇が乾いたので、元の位置に戻した。火も無事についた。シンクもピカピカ、皿も棚に収納されている。これで、今日からまともな料理ができそうだ。


「そういえば、調理器具は?」


「そこの鍋だけ」


アポロはゴキちゃんが入っていた鍋を指さした。あの鍋は残念ながら廃棄が決定している。つまり、この家には包丁も、まな板も、フライパンもない。


「後で買いに行くか」


「それより、今新しい奇跡に目覚めたよ!炎の舞って言ってね…」


「使わなくて良いからな」


今度は家ごと燃やされそうだ。アポロは少し頬を膨らませた。


リビングの窓を雑巾と重曹水、クエン酸水で拭き、リビングの机と床は雑巾で水拭きを行った。


窓からは光が差し込み、床の木目を照らしていた。うん、これで人間が生活する環境になっただろう。キッチンとリビングが綺麗になったことは、僕の精神に大きな余裕をもたらした。これで、家事の幅がかなり広げることができる。正直、この2日間まともな料理が出来なかったため、かなりストレスが溜まっていたのだ。


「リビングの掃除終わった?」


いつの間にか姿を消していたアポロだったが、戻ってきたようだ。


「どこに行ってたんだ?」


「新しい奇跡を試してたんだ!」


「おい、家を燃やすなって言っただろ」


「庭でちょっと落ち葉を燃やしただけだし、消化もしましたー。それより、リビングの掃除が終わった時にまた新しい奇跡に目覚めたんだ!この奇跡が爆笑ものでさ、ちょっと見てよ!」


「爆笑もの…?」


「行くよ!記憶の欠片!」


彼女が叫ぶと、リビングの壁に映像が映し出された。アポロを振り返ると、映像は剣から出ているようだ。プロジェクターみたいなものだろうか。便利な剣だな。


「これのどこが爆笑なんだ」


「いいから、見ててよ」


しばらくすると、その映像に僕が現れた。そして、リビングに入り、鍋を見つけて…


「「いやああああああああああ」」


ゴキちゃんの映像がドアップになった。僕は画面の向こうの僕と同時に叫んでしまった。


この奇跡はどうやら、彼女の記憶を映し出すもののようだ。リビングのTVの代わり、といった所だろうか。


僕の喉は完全に潰れて、声が出なくなった。僕は無言で勇者を睨みつけたが、彼女は笑顔のままだった。

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