リビングとキッチンを綺麗にしよう(前半)
前回のあらすじ
新玉ねぎを水にさらすと甘くなった
「リビングとキッチンを綺麗にするぞ!!!」
「何よ、朝からうるさいなあ」
「今日は絶対に、絶対にリビングとキッチンを綺麗にする!あとお風呂もだ!!!いい加減僕にきちんと家事をさせてくれ!!!」
「あー、もうわかったわかった。はいはい」
「誰のせいでこうなってると思ってるんじゃ!」
僕は意気揚々と廊下の向こうのドアを開いた。この先に、リビングとキッチンがある。ここを乗り越えたら、料理し放題の未来が待っているのだ。
「いやあああああああああ」
僕は思わず悲鳴をあげてしまった。
「バイオハザードの屋敷みたいになってるじゃないか!!!」
予想はしていたが、リビングとキッチンは大変なことになっていた。本来は、大きな窓から光が差し込み、オープンキッチンで料理をしながら話すことができるようなお洒落な造りだったことが予測される。しかし、その面影は残っていない。
窓は曇りガラスかと思われるほど汚れていた。カーテンらしきものがぶらさがっているが、茶色い布切れにしか見えない。床は当然ゴミで埋まっている。足元にチキンの骨らしきものが見える。嘘だろう、こいつ生ゴミを放置してやがる。
「バイオハザード?」
「ベイカ一家…ってわからないか。とにかく、これは流石に酷すぎるぞ!」
「えー、どの家もこんなもんじゃないの?」
「こんなもんじゃないの!」
僕は急いでゴム手袋をつけた。このペースで使っているとすぐに手袋がなくなりそうだ。この世界でも作っているといいのだが。
家具は大きな机一つと、椅子が四脚。それだけだった。机の上には、何故か蓋付きの鍋が放置されていた。
「何で鍋が…?」
「ああ、これ?昔私も料理してみようと思ったんだけど失敗しちゃってね」
「昔…?失敗はまあわかるけど、昔…?一体いつから放置しているんだ?」
「失敗はわかるって何さ!うーんと、あれは何年前かな」
「いやああああああああああ」
数年放置された鍋…とすると、その中は…
「おい、アポロ、あの鍋を開けなさい」
「えー…?めんどくさい」
「開けなさい!」
アポロはゆっくりと鍋を開いた。
中には、予想した通り、黒く光る、大きな虫が、ウゴウゴと、動いていた。
「いやああああああああああああああああああ」
僕は普段から掃除しているから、こいつと出会うことはほとんどなかった。久々に見ると、何てグロテスクな見た目しているんだ。
「あ、ゴキちゃんじゃーん。おひさー!ここにいたんだねー」
「ゴキちゃん!?何仲良くなってるんだ!」
「えー、だってこの家の同居人だよ?君も挨拶して?」
「挨拶しない!!!同居人は僕1人にしろ!!!」
「何?ひょっとして、やきもちー?」
「僕の顔を見ろ!この引きつった顔を!」
「ゴキちゃんが苦手だなんて、君も弱いねえ」
「あーあー、そりゃこんな家に住んでいる奴よりは弱いでしょうよ!弱い方が普通だけどね!!!いいから、ゴキちゃんを捕まえて!!!外に出して!!!」
「はいはい。全く…ごめんね、ゴキちゃん、元気でね?」
アポロはそういうと、ゴキちゃんをひょいひょいと捕まえ、窓を開けて外へ逃した。僕はアポロの手を触るときにはゴム手袋をつけることを決意した。
「よし、役割分担だ。僕はここを綺麗にする。君はゴキちゃんを任せる」
「はいはーい」
このポンコツ勇者もたまには役に立つようだ。僕の中での評価は右肩下りが止まらないけれども。
僕はとりあえず床のゴミを分別した。この作業をしている瞬間だけ心が落ち着く。
燃えるゴミ、燃えないゴミ、燃えないゴミ、燃えないゴミ、燃えるゴミ、燃えるゴミ、ゴキちゃん…ゴキちゃん…!?
「いやあああああああああああ」
ゴキちゃんを摘んでしまった。僕は半狂乱になりながら手をブンブンと振り回した。ゴキちゃんは驚いたのか、羽を広げて飛び立った。そして、僕の顔に着地した。
「いやああああああああああああああああああ」
喉がぶっ壊れそうだ。アポロがすぐに取ってくれたから何とか精神は壊れずに済んだ。
「ゴキちゃんを処理する奇跡はないか!」
「ないよ…女神様はそんな奇跡用意してない」
「しとけ!!!!
「女神様…この人怖いよお…」
僕は半分、というか九割ほどブチギレながら作業を進めた。いつもの倍のスピードでゴミ処理が進んだ。
ゴミの下には、カーペットが埋まっていた。見るまでもないが、茶色に染まっていた。
「いやあああああああああああ」
僕はカーペットを剥がした。そしてゴミ袋に投げ入れた。
「ちょっとそれ粗大ゴミじゃない?」
「うるさい、とにかく家の外に出せええええ」
そして僕はカーテンも剥ぎ取り、ゴミ袋へ突っ込んだ。
「ふう、ふう…」
「もう、今日のタカキは怖いよー…ねえ、ゴキちゃん?」
アポロはゴキちゃんを両手に掴み、友達のように話しかけていた。
「いやあああああああああああああ」
僕は喉が枯れた。僕は彼女との文化の違いを改めて実感した。僕がここで生活していくために、家を綺麗にした上で、彼女との違いを埋めていかなければならないのか。
これからの生活を想像すると、大きなため息が出た。




