俺は異世界なんかには行かない!
俺は、目の前の光景に驚愕し、硬直していた。
何なんだ?この状況は。
目の前で起きていること。
それはさっきまで、アニメやゲームなんかでよくある引っ込み思案な妹キャラみたいな可愛い雰囲気を出していた美少女 女神 が床にうつ伏せで寝っ転がっている状況。
しかも、性格が豹変しているのだ。
俺はただ黙って女神の様子を伺っている。
俺には、この状況をどうすることも出来ないと判断し、黙って椅子に座って成り行きを見守ることにした。
と、その時。
「ハイ!わかりました」
突然女神が床から立ち上がり、元気よく声を上げた。
「え?な、何がです?」
俺は、そんな女神の唐突な行動に若干引きながらも聞き返す。
すると、女神は綺麗で大きな目をまっすぐにこちらに向けてきた。
っと、女神の顔を初めてまじまじと見たが顔は整っていて、目の色は青い。髪は白髪で腰のところまで伸びているが、よく手入れされているのが見て取れる。むしろ輝いているようにも見える。
女神は微笑みを浮かべている。しかし、目は1ミリも笑っていなかった。
「あなたがここに連れてこられた理由についてです。説明を何も受けていないんでしょう?それをこれから私が説明させていただきます。シシャ様」
女神の言葉を俺は黙って聞いていた。
こいつ、またさっきと雰囲気変わっていないか?
というか、俺は死んだからここに連れてこられたんじゃないのか?
「えーと、まず質問させて欲しいんですけど、あなたをこの部屋に連れてきたのが誰だったかわかりますか?」
女神がさっきとは一変したとても丁寧で穏やかな口調で聞いてくる。
「いや、気がついたらこの部屋にいたんだけど…というか、どういうこと?俺は死んだからここに連れてこられたんじゃないの?」
俺の答えと質問に女神はまたもや顔を曇らせる。
「どういう、こと、なの?何の説明も受けてないだけではなくて誰かにあった記憶もないだなんて」
女神はがくりと肩を落とし、顔を俯かせる。
しかし、次の瞬間女神は顔を上げ、両手も上げて何もない空に向かって叫びだした。
というか、これも今気づいたことだが俺がいるこの真っ白で何もない部屋って天井がないんだな。吹き抜けになっているというか、ゲームなんかでよくある次元の裂け目みたいになっている。
まぁ、こんな説明じゃ誰もわからないと思うが言葉では説明できない状況だ。
「ちょっと天界の管理人さーん!虹原正人って人を担当した天使をここに呼び出してくださーい!なる早でねー」
女神は次元の裂け目のような空にひとしきり叫んだ後「よしっ」と言って、腰に手を当てこちらを再び大きな目で見つめてくる。
「待っている間にあなたにはいろいろと説明をしなくちゃね。まず、あなたは一つ勘違いをしています。私は先程からあなたのことを『シシャ様』と呼んでいますが、あなたはそれを死んだ者、つまり死者と捉えているようですが、そうではありませんよ」
女神からの予想外な一言に俺は「えっ」と小さく言葉を漏らす。
「つ、つまりそれってどういうこと?お、俺は、死んではいないってこと?」
俺は、女神に聞き返す。重要な事だ。俺の聞き間違いではなかったことを、この女神がもう一度答えることでそれが証明される。そう、聞き間違いなんかじゃないって、今、こいつが、答えることによって!
俺の目に少しずつ輝きが戻ってくるのを感じる。やばい、泣きそうだ。
しかし、女神はそんな俺の言動を見て、はぁー?といったまるでバカでも見るような顔を向けてくる。
「あんたバカね?死者じゃないって言ってるでしょ?つまりあなたは死んではいないってことなのよ!理解できましたあ?」
女神は自分の頭の横をコツコツと人差し指で軽く叩く。相手を馬鹿にする時によくやるあのポーズだ。
そんな女神の言動により、俺の聞き間違いではなかったことが証明されたわけだが、おかげで怒り心頭だ。
こいつ、ぶん殴ってやりたい。
しかし、さすがの俺も女性相手に暴力は振るわない。俺は心が広いからな。ゲーム壊されたりしたが別だが。
「じゃあ、お前が『シシャ様』って呼んでいたのは何だったんだ?」
俺は、女神に問いかける。
「あぁ、それはあなたが選ばれし『使者様』だからよ」
「はい?」
意味不明な言葉に俺は思わず聞き返す。
というか、いつの間にか丁寧口調ですらなくなっているし。
「わからないのも無理はないわ。ま、それも含めて今から説明するから」
女神がそう言った時だった。
それはなんと表現するべきだろうか。次元の裂け目が神々しく光り輝き始めたのだ。
眩しく光り始めたかと思うと、次元の裂け目から鳥の羽根のようなものが何枚も落ちてきたのだ。
落ちてきた羽根のうち一枚を手に取ってみる。
それは、透き通るような真っ白い羽根だった。
俺がその羽根を眺めていると「チッ」と女神の舌打ちが聞こえできたような気がする。
「おっ待たせしました〜。えーっと、虹原正人さんと、…女神様。第七でしたっけ?いやぁ、この私をお呼びとのことでしたが、どうかなさいました?何か問題でも発生しちゃいましたか〜?」
上から声が聞こえてきたので空を見上げる。
空と言っても次元の裂け目なのだが。
そこには透き通るような真っ白な翼が生えた美少女がいた。
な、なんだこいつ!
「間が悪いんじゃないかしら?天使さん。あと、何かありましたかじゃないわよ。あったに決まってるでしょ!自覚あるでしょ!?それからいつまでも上から見下ろしてないで、さっさと降りてきなさいよ!」
女神が上を飛んでいる美少女にそう言った。
…は?天使?
「いやぁ、すいませーん。第ろ…七?女神様ぁ」
天使と呼ばれた美少女は特に悪びれる様子もなく、ニコニコしながらゆっくりと下降してくる。
「よいしょっと。…それで、今回はどう言った御要件で?第は…七女神様」
「さっきからわざとらしく間違えそうになってんじゃないわよ!第七よ!だ・い・な・な!次わざと間違えそうになったりしたら上にチクってやるんだから!」
天使のわざとらしい態度に怒りを隠すこともなく女神が声を荒らげる。
「それからさっきから白を切ってるけど、なんで呼ばれたかわかってるでしょ!あなたがコイツ…じゃなかった使者様に何の説明もしてないから呼び出したのよ!これは、職務怠慢じゃないかしら?上にチクってあなたをクビにしてあげようかしら!?ねぇ!どうなのよ?神に仕える神聖なる天使さーん??」
「うふふ、使者様の目の前ですよー?そんな態度とって女神失格じゃないですかー?まぁ、私としては女神の席が一つ空いて、私が女神になるチャンスが増えて嬉しいんですけどね?」
「話を逸らすんじゃないわよアホ天使!今私が言ってるのは、使者様への説明をなんでやらなかったのか、それを聞いてるのよ!理由によっては上にチクるから言葉をよく選んで話すことね!」
軽いというかなんというか、天使の挑発的な態度に女神の怒りは高まる一方だ。
この女神もそうだが、この天使は結構性格が悪いようだ。
俺の中のイメージでは、もっとこう、女神はみんなを癒すマリア?のような存在で、天使はみんなを導く優しい存在のイメージだったんだが、どうやらそれは人が作りだした勝手な妄想で、現実はだいぶ違ったようだ。
まぁ、そんなことより
「あのー、さっきからまったく話が見えてこないんだけど、そろそろ説明してくれません?」
俺は、未だ置いてけぼりなこの状況がいい加減嫌になり、目の前でいがみ合う女神と天使の2人に手を挙げて聞く。
「ちょっと待ってなさい使者さん。今、このクソ天使から職務怠慢のわけを問いただすんだから!」
女神が右手を俺の顔の前に突き出して、止めてくる。しかし、
「いえいえ、使者様をお待たせするわけには行きませんから。今すぐ、直ちに、説明させていただきます!この、ポンコツ女神が」
「なっ、なんですってぇぇぇぇ!!このこのクソビッチ天」
「早く説明しろぉ!」
いつまでも進まないこの状況に俺は叫んだ。
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「使者様の目の前での数々の非礼、心から謝罪します。このクソ天使が」
「使者様の目の前での数々の蛮行、この罪は必ず償います。このポンコツ女神が」
「なんですってぇぇ!?」
「話が進まねぇだろ!いい加減にしろよおまえらぁ!」
俺は、机を両手でばんと強く叩いて叫ぶ。
俺と二人は机を挟む形で座っている。
こんなやり取りをさっきから何回繰り返しているんだろうか、俺はもうほんとに我慢の限界だ。
「はい、ごめんなさい」
「申し訳ありません」
と、ようやく女神と天使、二人のいがみ合いは収まり本題に入る。
「で?俺は死んでないって話だけど、じゃあなんでここに呼ばれたの?まずはそこから説明してもらいたいんだけど?」
我慢の限界を超えてしまった俺はイライラし、目の前の机を人差し指でコツコツと叩きながら口早に質問する。
「あ、えーと、それはですね…」
女神が俺の苛立った態度に萎縮しているのか、おどおどしながら口を開く。俺とは一切目を合わせようとはしない。
「虹原正人さん、あなたをここに呼んだ理由はあなたにお願いがあるからなんです。」
「お願い?」
俺が聞き返すと女神と天使は二人揃ってこくりと頷く。
二人とも真剣な表情をしている。
「はい。そのお願いとは、あなたが暮らしていた世界とは違う世界、つまり異世界に行って、勇者として魔王討伐をしてもらいたいんです!」
数秒の沈黙が訪れる。
俺は、こいつらが何を言ってるのかさっぱり理解出来ない。したくない。
異世界?勇者?魔王?ナニソレ?ゲームの話?それで(自称)天才ゲーマーの俺に助けを求めてきたとか?なるほどなるほどそういうことかー。
「あ、あの使者様?」
「まず、使者様呼びをやめようか」
「あっ…は、はい」
黙り込んだ俺の様子を女神がうかがってくるが、とりあえず使者様呼びはなれないのでやめてもらう。
「あのさ、これゲームとかの話?」
「いえ、リアルな話です」
確認を取るがやはり違ったようだ。
「んー、意味がわからないんだけど。勇者とか異世界とか妄想って書いてファンタジーの話だろ?そこに行くって何?」
俺に問いかけに女神と天使は顔を見合わせる。そして、
「確かに理解出来ないのはわかります。しかし、本当にその世界はあるんです。その世界では魔王により多くの人々が苦しんでいます。恐怖しています。それを救う勇者になってください!お願いします」
天使が真剣な顔で訴えてくる。
…まじか。ほんとにそんな話があるのか。ただ一つ疑問なのは…
「なんで俺なの?」
引きこもってばっかりのゲームオタク高校生、そんな俺を使者として、勇者として選んだ理由はなんなのか。それを聞きたい。
「それはですね」
女神が真剣な表情を向けてくる。
「たまたまです」
「は?」
俺は、天使の顔を見る。
「はい。偶然です」
「なにそれ。偶然って?偶然見つけたから連れてきたとかそういうこと!?」
俺は椅子から立ち上がり、大声を出す。
思わぬ展開だ。
実は本人も気づいていない超人的な力を見込まれたのかと思ったのに。
「まぁ、偶然というかあなたの特殊能力が引き起こした結果みたいなものですよ」
「お、俺の中の能力?」
ああ、そうだ。こういう展開こそ少年マンガの主人公みたいじゃないか。それでこそ、俺は勇者として選ばれたことに納得できる。
「はい。あなたの特殊能力、それは__」
女神が一呼吸置く。
「___運です。」
うんうん、それでこそ少年マンガの…うん?…う、運だと!?
「今回、勇者選びとして天界がとった方法は、抽選です。そして、何十億の中から選ばれたのがあなたなんです。何十億の中から選ばれる、これはもう特殊能力と言っても過言ではないでしょう」
「いや、過言だわ!ふつーに過言だわ!そもそもそんな特殊能力あってたまるかあああああ!!!」
「さて、説明も終了しましたしそろそろ決断してもらえますか?異世界に行くか、行かないか」
「さらっと流してんじゃねぇよ!!」
心からの叫びを流す天使に俺はブチ切れる。
こんな態度の奴らの言いなりなんかになってたまるか。絶対行かないからな!
「ちなみに、行かない場合はここであったことの記憶を消去させていただきます。しかし記憶消去というのは大変不便なものでして、運が悪ければすべての記憶をなくされますがよろしいですか?あ、でもあなたは幸運の能力者ですもんね。きっと大丈夫ですよ!一週間程度の記憶がなくなるくらいは誤差の範囲ですから心配なさらないでくだ」
「行きます!」
こうして俺は、勇者として異世界に行き魔王討伐の任務を果たすことにした。
かなり長くなりましたが、三話目終了です。
またいつか投稿する4話目もよろしくお願いします。




