表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ローダクロス  作者: 天猫紅楼
40/67

ルーシアの誓い

 一路、ビリーザメク国へ戻ることになった。

 ロウキーとルーシアはヴァルツの背に乗り、馬車と並行して歩く。

「それにしても、ショウシュンのケガがたいしたことなくて良かった!」

 ロウキーが言うと、馬車を引くショウシュンは、包帯が巻かれた足を軽快に動かしながら鼻を鳴らした。

「『軽く切られただけだ! 早くヴァルツを助けに行く』って、うるさいくらいだったんだよ!」

とキツンが言うと、ヴァルツもそれにたいして小さくいなないた。

「ヴァルツも喜んでるね!」

 ルーシアは笑った。

「もしかして、ショウシュンとヴァルツ、好き同士なんじゃないの?」

 ルーシアがからかうように言うと、ショウシュンはいなないて前脚を上げた。 その拍子に馬車が大きく揺れ、慌てたセィボクが

「うわぁっ!」

と、馬車の縁にしがみついた。

「ショウシュン、落ち着いて!」

 キツンが慌てて手綱を引いた。

「もう! ルーシアが変なこというから、ショウシュンが動揺したじゃないか!」

 迷惑千万と眉を吊り上げるキツンに、ルーシアはペロッと舌を出して

「ごめんごめん!」

と笑った。 馬車の荷台から、何事かと顔をのぞかせたアァカンは、前の四人が笑う姿を見て、呆気にとられながら再び体を引っ込めた。

「何かあったのかしら?」

 状況が分からず、荷台にしがみついて心配そうにするジャクリンの頭を撫で、アァカンは

「心配ない。 皆、仲良さそうだ」

と微笑んだ。

 

 

 

「ロウキー、覚えてたんだ?」

「何を?」

 不意に背中へ話し掛けてきたルーシアに、ロウキーは少し顔を後ろに向けて聞いた。 ルーシアの紅い髪が風になびいている。

「あの夜のこと……」

 ルーシアにとっては、過ぎた時間の中のほんの一部だった。

 

 

 ――

 配達の途中、川べりで休憩をしていた時のことだった。

「ロウキー!」

 声をかけたルーシアは、砂利の上に寝転んで空を眺めているロウキーの隣に座った。

「いい天気だね!」

 雲一つない吸い込まれるような青空を見上げ、気持ちよさそうに深呼吸をするルーシアに、ロウキーはにっと笑った。

「ああ、昼寝日和だな!」

 ロウキーの腰にぶらさがっている剣が、ルーシアの手に触れた。

「ね、これって、ロウキーの大切なものなんだよね?」

「あぁ」

 寝転んだまま剣をカチャリと外し、頭上に上げた。 所々傷の入った鞘が、年代物の風貌を醸し出している。 ロウキーはそれを見つめながら、言った。

「俺は戦争孤児だった。 まだ乳離れもしていなかった俺が助けられたとき、一緒にコレも傍に置かれていたらしい。 孤児院にいる間は、危ないからって預かって隠してたのを、出ていく時に渡してくれた。 『まるでこの剣に守られるように眠っていた』らしい。 だから俺は、これを親の形見だと思ってる」

「形見……」

 ロウキーは剣を腰に戻すと

「コレのおかげで、俺は、今まで生き抜いてこられたんだぜ!」

と得意げに言った。 じっと聞いていたルーシアは、ふうん、と空を見上げ、呟くように言った。

「じゃあ、あたしの親の形見は、この身体かな。 ロウキーがその剣を大切にするように……あたしも、大切にしなきゃ」

 

 

 

『ルーシア、俺は覚えてるぜ。 お前が俺に誓ったこと』

 あの時の言葉をロウキーが覚えていたことに、ルーシアは嬉しくて仕方なかった。 いつも人の話を聞いていないようにそっぽを向いているロウキーだが、本当は心にちゃんと留めてくれていた。 

 ロウキーは黙ったまま、背中を向けていた。 ルーシアはその背中に額をつけると

「あの時は勢いで言っちゃって、本当は照れ臭かったけど、今は自信持って言えるよ!」

と笑った。 ロウキーはふいっと前を向くと

「俺は、ルーシアの紅い瞳、綺麗だと思うぜ!」

とはっきりと言った。 ルーシアは彼のその後頭部を見つめ、さっきよりも嬉しそうに笑顔をみせた。

「ありがと!」

 

 

 セィボクは馬車の縁に片肘をついてその様子を眺めながら

「いいなー」

と呟いた。 会話は聞こえなかったが、二人が仲良さそうにヴァルツの背に乗る姿は、とても穏やかな雰囲気を醸し出していた。

 横に座っていたキツンが

「また、アンジーに会いたくなった?」

とからかうと、セィボクは慌てて帽子を深く被った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ