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僕達は北高生  作者: かっつん
第3章「僕達は北高生らしく生きる」
14/33

3-4.戦闘・忍術師(バトル・ウィズ・ザ・ニンジャ)


「はっ!」


 窮屈さに俺が目を覚ますと、俺は手も足も体にくっつけるように縄で縛られ、木に吊り下げられていた。まるで悪者が成敗された時のような……そんな感じだ。


「あ、目が覚めた?」


 真下から声がする。辛うじて動く首を限界まで動かすと、下に不如帰がいた。やはり兄の鵤とは異なり温和な表情をしている。しかしどこか怪しげで、何を考えているのか全く想像もつかない表情だ。


「暴れてもらっては困るから縛らせてもらったよ」

「おい!こんなことして何になる!」

「僕は兄さんみたいに行動と思想が直結してないから。やられる前にやるって考えはどうも腑に落ちなくてね。あ、安心して。君と一緒に居た名称未設定YUは縛り付けてないから」


 不如帰は気を失った有希を抱きかかえ、俺に見えるように木から離れた。


「有希に何をした!有希には手を出すな!」

「ほらやっぱり暴れる。じたばたしてもその縄からは逃げられないよ。あとさっきも言ったけど戦意なく気を失った相手に興味はない。名称未設定YUには何もしていないよ」

「長谷と坂元は!あいつらをどこへやった!」

「立て続けに質問するんだね君は……彼らは兄さんが相手してるよ。兄さんは口より手が早いからね。もう戦ってるかもしれないよ」


 そういうと不如帰は有希を別の木に寝かせ、俺に向き直った。


「さて、原秋葉。僕達忍の一族は坂元家には恨みがあるが、君には恨みは無い。SSKからは回収と銘打っているのだから無駄な殺生はしたくない。……兄さんは知らないけど。来てもらうためには君にいくつか知っておかなくちゃいけないことがある。どうして僕達SSKが君を狙っているか、また、今起こっている空間の歪みについてね」

「その話を聞かせる前に下ろせよ」

「やだね。暴れられると痛いもん」

「ちっ……続けろ」


 不如帰は自分の肩に鳥をとまらせ、言葉をつづけた。俺は奴に見えないよう後ろ手にナイフを取り出し、縛られている縄をゆっくりと切り始めた。


「SSKの存在は今ここに存在するこの世界を破壊し、新たな世界を創世する為の存在ってことは知ってるかな」

「……ああ。桜庭がなんかそんなことを言っていたな」

「君の能力、くろの力「時間停止」と名称未設定YUの能力、しろの力「全ての破壊」。これらの能力はもともと君たちには備わってなかった。この能力は暗黒物質「Ω」、ダークマターが人類に特別に授けた能力なのさ」

「ダークマター?たしか「Ω」って全ての収束点だと桜庭から聞いたが?」

「人類時間空間世界全ての始まりであり、終わりのことさ。Ω自身が暗黒物質であり、Ωが分け与えるのも暗黒物質さ。Ωがもつ暗黒物質を人類が持つなんて本来なら考えられないし持ったとしても身が持たない。無に帰ってしまうよ」

「じゃあどうして俺や有希は……」

「君たち2人だけじゃない。あの長谷とやらも、桜庭だって暗黒物質を所持している。今この世界にΩから授けられた暗黒物質は4つ存在している。黑、皓、蒼、碧の4つさ。君をはじめみんなどうしてか暗黒物質に対して耐性がある。その理由はΩしにかわからないだろうね。我々SSKは暗黒物質が欲しいんだ。全て揃えることが出来れば、この世界はΩに干渉できる。Ωが世界を、すべてを、終わらせてくれる」

「世界を終わらせる?どうしてそんなことを」

「浄化さ。世界を一度リセットする。無に帰してから新たな世界を作りだすのさ」

「世界を作りだす……?」

「そう。世界を創り出す。それがこの組織の目的だ。我らSSKのボスはこの世界で唯一、Ωに干渉出来た人物だ。只の観測だけじゃない。干渉だよ」

「……、……」

「じゃあ次。今僕たちがここにいる空間。これは疑似STPと言って、過去に誰かが作り出したSTPを模したもの」

「誰かって誰だよ」

「知らないよ。知ってたら説明してるよ。僕としては無駄な争い無くSSKに来てほしいんだから。それで、疑似STPはSTPとほぼ変わりないプログラムのはずだった。だけど何かが欠けているんだ。だからこんな風に不完全な世界になってしまった……おっと、勘違いしてもらっては困るけど、今いるこの森は僕と兄さんが君たちに見せている遁術だからね」


 STP……?俺の記憶でも聞き覚えのある単語だった。しかし思い出せない……なんだっけ。不如帰の肩にいた鳥が俺の肩に止まる。あれ、こいつ確か高校で見た……


「ああ、紹介がまだだったね。この子は僕の伝え鳥のほととぎす。使い魔といった方が君にはわかりやすいかな」

「こいつはさっき見た気がするが」

「おっ、察しがいいね。その通り。SSKの命により兄さんの伝え鳥いかるがと一緒に君を監視していたのさ」


 思い出す。朝、掃除をしていた時のあの視線。


「俺を監視していつこの疑似STPとやらを発動させるかタイミングを狙ってたって訳か……」

「そう、その通り」

「それでSTPがうまく作動したらSSKがこの世界を牛耳る、と。お前らもその一員だった」

「んー正直僕と兄さんは新しく創世する世界なんてどうでもいいんだよね。もちろん今の世界も。僕たちが一番興味があり、かつ殺したいのは坂元一族の人間さ」

「坂元が何をしたっていうんだ!暗黒物質を持ってるのは俺達だけだろう」

「そうだけど、そうじゃないんだよ。これはSSKの任務とは違う。私怨だね」

「さっきも坂元が言ってたな……坂元に恨みがあるっていうのか」

「ああ。あの血族が我ら忍びを滅ぼしたのさ。口に出すのも腹立たしいけど、坂元流剣術の始祖。つまり坂元悠介の何代も前の世代。始祖を初め坂元家の人間が我ら忍びの一族を根絶やしにした。かろうじて生き延びた赤ん坊を匿い、その子の子の子の……と続いたのが僕ら兄弟なのさ」

「じゃあ忍のことなんて一切知識も関係ないじゃねぇか」

「と、思うでしょ?その赤ん坊を匿ったのが別の忍びの里の人間なんだ。だけど段々と忍びは消えていった。そりゃあそうさ。現代にこんな忍者いたら笑われる。僕達は普通の人間として生まれ育った」

「そりゃ当たり前だ。お前は何が言いたいんだ」

「そこで思い出させてくれたのがSSKの人間だった。僕達の血族とこの境遇に陥れた人物を。我らの運命を歪めた一族。それが坂元一族。君には運命を曲げられた恨みはわからないだろうね。たとえ兄さんが彼らに負けたとしても、僕が君たちを始末した後坂元を殺す。……さて。長話もここまで。これまでの話を聞いて、SSKに来てくれる気になったかい?」


 不如帰が俺を見上げ問いかける。答えはもちろん……


「ノー、だ。俺は能力を得るまでこんな世界退屈だ、変わってしまえと思っていたけど、能力を得てこんな目に遭った今となってはこの世界も悪くない、日常でいいじゃねぇかって感じてるんだ。自分たちだけ生き残って都合のいい世界を作り出して何が創世だ。バカバカしい」


 俺の言葉を聞いても不如帰は少し眉を顰めた以外は表情を変えなかった。


「やっぱりね。断ってくるだろうと思ったよ」


 バリッという音とともに縄が切れ、俺は縄を振りほどいた。高い位置から降りたせいか足がしびれる。


「……有希!」


 有希のもとに駆け寄る。有希は気を失っているが、血色もいい。息もある。生きている。俺はつかの間の安堵に包まれた。俺は有希をそのまま寝かせ、不如帰の方へ向き直った。


「無用な戦いは避けたいと言っていたな。なら今すぐにお前の兄貴のところへ戻しやがれ」

「それはできない相談だね。ボスや兄さんに頼まれたんだから。『どんなことがあっても奴らを手に入れろ。殺しても構わん』ってね」


 そういうと不如帰は苦無だけでなく、ジャラジャラと鎖のついた鎌を取り出した。


「……やるしかねぇってヤツか」


 俺もしかたなく、ポケットからナイフを取り出した。いつでも時間を止められるよう、精神を集中させる。すると俺の足元から魔方陣が展開された。長谷や桜庭とは色が違う。真っ黒だ。


「僕はどんなことがあってもと言われても、たとえ忍者は暗殺のエキスパートと言われても。僕は卑怯な手を使う気はない。君への脅しとかの為に名称未設定YUは使わない。彼女は君を始末した後で手を下すよ」

「……フラグってヤツかそれ」

「……かもね」


 その会話を皮切りに、不如帰は苦無を投げつけてきた。俺はそれを横に跳び回避、一瞬有希が気になって振り向くが、有希に奴の苦無は届いていない。どうやら俺の絶対空間もうまく作用しているようだ。

 敵の言うことは信用できない。いつ俺に苦無を投げると見せかけて有希を攻撃するかわかったもんじゃない。そこで俺はあの時桜庭がやっていたことを見よう見まねでやってみたのだ。自分の能力の範囲を限定し、目標と自分以外の干渉を出来なくさせる。つまり外からは俺達の戦いに干渉できないし、中からも外へ向けて攻撃の影響が及ぶことはない。これが絶対空間。できた。出来たのだ。


「絶対空間。能力を持つ者が作り出せるプライベートスクウェアだね。君にとって名称未設定YUはそれだけ大切な存在な訳だ」

「……ほっとけ」


 不如帰が感心したように言う。これで有希に被害が及ばない。心置きなく戦える。そう思うと俺は少し全力の一つ上に行ける気がしてきた。俺の投げたナイフが奴の頬を掠める。奴の顔に傷がつき、頬に血が伝う。その時、不如帰の動きが止まった。


「あ……あ……あぁぁあ……」


 傷ついた頬を撫で、その手についた血を見て表情を崩す。さっきまでの温和な表情は既に消え失せている。目は血走り、口は開いたままでわなわなと震えている。

 突如、糸が切れたようにがっくりと肩を落とした。


「……が…………たのか」

「……?」


 ゆっくりと顔を上げる。忍装束に身を包む姿こそ変わってはいないが、そこからのぞかせる顔が先ほどの不如帰と変わっていた。窒息寸前のような紫色の肌で、目は白目を剥き、歯をむき出しにした口は頬の横まで裂けている。頬の筋肉が見えるほどだ。その筋肉もあちこち隆起し、血管が浮き出ている。筋肉が隆起したせいもあってか、俺が傷付けた頬は既に出血は無かった。


「貴様が……付けたのか」

「お、おい」

「貴様が拙者に傷を付けたのかっ!!!」



 まさか、暴走!?



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