第32話
いつものように城で訓練をしていると上空にドラゴンの姿が見えた。
僕たちは急いで広い場所に移動してドラゴンに降りてくるように言った。
「魔女がやってきた!」
ジュウトが緊迫した声でそう叫んだ。
竜族の棲家に魔女とその仲間と思われる魔物たちがやって来たと言うのだ。
「他のみんなは?」
「なんとか北の方に逃げた。まだ生まれていない卵もあるから。」
ジュウトはそう言って心配そうな声を出した。
「国王に知らせます。」
ショウさんは城に急いで戻って行った。
「知らせてくれてありがとう。ジュウトも仲間が心配でしょ。みんなのところへ行ってもいいよ。」
「そうだが…俺はあの魔女が許せない…。戦うなら加勢させてくれ。」
そう言われて僕はメディアさんを見た。
メディアさんは頷き、「助かります」と言った。
僕たちはすぐに城に召集された。
ジュウトは偵察してくると言って飛んでいってしまった。
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「訓練の成果を発揮するときが来た!」
国王は魔女討伐令を出した。
ジュウトの話では魔女の他に人型の魔物が数体いたということだった。
僕が探知をすると竜族のいた山脈の方にとても強い反応が4つ確認できた。
「こちらに向かっているみたいです。」
「迎え撃つぞ!」
僕たちは戦闘準備をして山脈の方へ向かうことになった。
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魔女たちの移動速度はそんなに速くなかった。どうやら徒歩で移動している感じがした。
これなら王都に近づく前にみつけることができるだろう。
『なんだか嫌な予感がする』
レンはそう言って怯えているようだった。
隊長たちは地図を見ながら近くに人が住んでいない場所を選んだ。移動経路を考えて待ち伏せすることになった。
魔女たちは隠れるわけでもなく、僕たちの前に現れた。
それは遠くから見てもわかるくらいの闇のオーラに包まれていた。
歩いてきた場所の草木は枯れ、まるで真っ黒な道を作ってきたかのように見えた。
魔女たちは真ん中にいるライオットさんの前で立ち止まった。
「今すぐ立ち去れ!」
ライオットさんは魔女たちに向かってそう叫んだ。
「やぁ人間。いきなりそんなことを言うなんてひどいじゃないか。せめて何をしに来たかと聞いてくれてもよいじゃないか。」
魔女はニヤリと笑みを浮かべてそう言った。
その気持ち悪さはキリとは比較にならなかった。
見ているだけで吐きそうになる。
『来るよ!!』
レンが叫んだ。僕は防御の姿勢を取った。
魔女が杖を地面に突いただけですごい衝撃波が飛んできた。
そして魔女は「みつけた」と言って僕の方を見た。
そして次の瞬間、魔女は僕の目の前にいた。
人型の魔物たちがグニャグニャと変な姿勢のまま僕に向かって来た。
「ルイくん!」
キリが飛んできて僕の前に立った。そして魔法で魔物たちを攻撃した。
魔物たちは態勢を崩したが効いているようには見えなかった。
僕は次の瞬間、それらを刀で切り刻んでいた。
魔女はそれを見て嫌な顔をした。
「私のかわいい下僕たちを殺したのかい?」
魔女は切り刻まれた魔物たちに向かって何かを詠唱していた。
切り刻まれたはずの魔物たちは3体が混ざったような大きなひと塊になった。
そして生き返ったのか、丸い塊になったそれはこちらにゴロゴロと転がってきた。
キリは魔法でなんとかしようとしたが効かない。
ライオットさんや隊長たちがそれを取り囲んだ。
魔女は離れたところから面白いものを見るかのように杖を振った。
どうやらそれを操っている。
隊長たちは転がる魔物を斬った。
切り離されてもすぐに戻ってまた塊になる。
魔女はそれが面白いようでククククと笑っている。
他の団員が魔女に向かっていったが、近寄る前に燃えてしまった。
神官達もやってきて負傷者たちに回復魔法をかけている。
ジュウトが飛んできて魔女に向かって炎を吐いたが魔女が杖を一振りするだけでどこかに飛ばされていってしまった。
こちらの攻撃が全く効いている感じがしなかった。
まるで魔女に遊ばれているような感じがした。
僕はキリに刀に炎を纏わせられないかと頼んだ。
「やったことないけど、ルイくんのためならできる気がするわ。」
キリはニヤッと笑って僕の刀に炎を纏わせてくれた。
僕はゴロゴロと転がる魔物の塊を炎の剣で斬った。
魔物は燃え、真っ黒になって動かなくなった。
「クソが!!」
魔女はイライラした声を出して杖でまた地面をドンと突いた。
僕たちはまた吹き飛ばされた。
魔女は僕だけをみつめてこちらに向かってくる。
「そこにいるんだろう?隠れてないで出ておいで。」
魔女は僕に向かって優しい声でそう言った。
「ルイくん、ママだよ。忘れちゃったのかな?」
僕は向かってくる魔女の前で動けなくなっていた。
「僕の母はお前じゃない!」
僕が叫ぶと魔女の顔は瞬間的に怖い顔になり、「お前は黙ってろ!邪魔だ!」と言って杖を僕に刺した。
お腹から温かいものが流れた。刺された杖から出血している。
僕は動くことができない。
カオリさんの悲鳴が聞こえた。
僕は意識が遠のくのがわかった。
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【ルイ】
「お母さんなの?」
僕はルイの体から出ている声が自分のものだと気がついた。
本物のルイは気を失ってしまったようだ。
僕はお腹に刺さっている杖を抜いた。
激痛が走り、血が流れているのがわかる。
そしてあの日、刺された自分を思い出した。
僕は傷を押さえて燃えたままの刀を手に取った。
そしてそれを傷に押し付けた。
皮膚が焦げた嫌な臭いがした。刀の炎は消えてしまったが傷はうまく塞がったようだった。
「あぁ、私のルイくんね。大きくなったわね、元気だったかしら?」
魔女はそう言って僕に向かって歩いてくる。
「僕にお母さんなんていない。」
僕は魔女を睨みつけてそう言った。
まわりにいた騎士団の人たちはさっきの衝撃波で怪我をしたようだった。
神官たちがバタバタと回復魔法をかけている。
魔女に向かってこようとする人たちは見えない何かに拒まれて吹き飛ばされていた。
僕は魔女と二人、見つめ合う形になった。
「私だって子供なんかいらなかった。だから捨てたのに。お前なんかのこと忘れていたのに。なのにお前のせいで…。私は…。私はお前のせいで殺されたんだよ!!」
魔女は今まで見たどんなものよりも醜い顔でそう叫んだ。
「そんなの知らない。僕はお前なんか知らない。」
「お前を助けるために血をくれって言われて…、ちょっと血を抜くだけで大金をくれるからって言うからついて行ったら…あいつら大量に取りやがって…。それでもギリギリ生きていたんだ。
私は死にたくなくて必死に生きようとしたのに…。爆発事故が起きて…。お前のせいで!事故に巻き込まれて!!死んだんだよ!お前のせいで!!」
僕はカオリさんの方を見た。そんな話は聞かされていなかった。
カオリさんは手に口を当てて怯えていた。
否定しないということは本当の事なのかもしれない。
「僕を恨んでいるんだね。僕を殺したいんだね。」
僕はまっすぐに魔女を見た。
醜く歪んだ顔の奥に薄っすらとお母さんの面影があるように見えた。
幼い僕を捨てた人。
僕はお母さんが大好きだった。
それなのにお母さんは僕を愛してくれなかった。
今、目の前に現れたとしても僕の感情は何も動かなかった。
憎しみも感じない。
魔女はまた何かを言おうとしていたが僕は刀で魔女を切り刻んでいた。
まん丸に見開かれた目だけが残像のように残った。
切り刻まれた魔女はその場にボタボタと地面に転がった。
後ろから歓声が聞こえた。
僕は振り返りたかったができなかった。
僕の体に魔女の腕が刺さっていたからである。
魔女の手はどうやら僕の心臓を握りしめている。
真っ暗になった。
相変わらずなんの感情もない。
しかし何かから解放されたような、そんな軽さを感じた。
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【カオリ】
魔女はルイくんによって倒された。
切り刻まれたその体は黒い煙になって消えてしまった。
ルイくんに刺さった腕もサラサラと黒い煙になり、またルイくんもそのまま同じように黒い煙になって消えてしまった。
辺り一帯に悲鳴が響きわたった。
私はルイくんがいた場所に行くと崩れ落ちるように倒れた。
どこにもルイくんの気配がないのだ。
最後に魔女と話していたのはルイくんではない。
レン…、私の前世の記憶の中にあるルイがそこにいたのだ。
あの日、ルイを助けようと病室にいたとき、冷たくなっていたルイの母親が生きていたというのか。
そして私たちと同じようにあの場所で爆発事故に巻き込まれ、死んでしまい、この世界に生まれてきたというのか。
私は信じられなかった。
こんなことがあっていいわけがない。
ルイはなんのためにこの世界に生まれてきたというのだろうか。
私はその場に泣き崩れた。
この世界を、運命を、受け止めることができなかった。
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半狂乱になった私をカイが抱えて家に連れ帰ってくれた。
私は言葉を発することができず、ただ泣いていた。
あの後、騎士団は魔女及び帯同していた魔物数体の討伐を完了したとして城に戻った。
第1部隊だけはその場に残り、ルイくんの捜索をしたと言っていた。
煙となって消えてしまうなど、この世界でもないということだった。
しかしルイくんはどこにもいなかった。
残されたのはルイくんの刀だけだった。
数日かけて捜索したようだが何もみつからなかった。
メディアさんは最後まで諦めないと言っていたようだがライオットさんに「すまない、諦めてくれ」と言われて泣き崩れたと言う話だった。
キリが一番酷かったようで、街を燃やし尽くすような剣幕で騒ぎ続けたという。
最終的には魔法が使えなくなる手錠をつけられ、しばらく牢屋に放り込まれたそうだ。
イチルの街からルイくんの家族がやってきて、騎士団から話を聞き、ルイくんのお母さんはライオットさんの胸ぐらをつかみ殴ったらしい。
ライオットさんはそのまま深く頭を下げてご家族に謝罪をしたという。
愛されていたルイくんと、愛されていなかったルイ。
二人のことを考えるだけで涙が止まらなかった。
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しばらくしてルイくんは街の英雄として銅像になった。
私はそれが嫌いだった。そんなものを建てられてもルイくんもルイも喜ばないだろう。
結果的に魔女はいなくなり、隣の大陸にあった魔女の城も取り壊された。
竜族はそのままこちらの大陸のあの山脈に戻った。
何もかもが元通りのように思えた。
私は納得できない気持ちを抱えたまま何年も過ごした。
それはカイも、ルイくんの家族も同じようだった。
どんなに思ってもルイくんは帰ってこなかった。
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月日が流れ、私はカイと結婚した。
生きていくのにどうしてもお互いがお互いを必要だった。
風が吹くたびに「しあわせになっていいよ」と言われているような感じが何度もあった。
子供が生まれたら『ルイ』という名前をつけようかなんて話も出た。
しかしそれはやめた。
二人のルイはもういない。




