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命の魔剣に魅入られた僕は、裏切られる度に最凶へと成長する  作者: ヴォルフガング・ニポー


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第14話 ダンジョン攻略成功の宴

「新人を連れてボス討伐した? 何考えてるんですか!」


 ギルドに帰ってダンジョン攻略の成功を報告すると、リーダーのアルベリオさんは叱られていた。


「いいじゃねえかよ。ただの勉強で連れてっただけだし」


「ああ、マルクくん。怖いところに連れて行かれて大変だったね」


 受付嬢のお姉さんが僕を心配して頭をなでてくれた。


「ちっ、なんでこうなるんだ?」


 自分は叱られて、僕は優しくされて、まあこの状況は誰もが気に入らないだろう。


「うわあ、デュラハンとバンシー、それからレギオンですか……こいつらを同時に相手するのはみなさんでも大変だったんじゃないですか?」


 別の受付嬢が、倒した魔物をカウントする魔道具を見て驚いていた。


「だから楽勝だったって。坊主だって、きちんとついてこれるって判断できたから見せてやったんじゃねえか」


「マルクくん、見てよかったと思った?」


 完全に幼児に対する声色だ。


「すごく勉強になりました」


 僕は正直に答えた。


「そうなのね、よかったでちゅねー」


 さらに頭をなでてくれた。いくら幼く見えるからって、これは茶化されてるのではないだろうか。


「それはハラスメントなのにゃ!」


 僕の頭をなでるのが常態化しているライナさんも不愉快そうだった。


「アルベリオさん、これまでも優秀な冒険者を育ててこられた実績は承知していますから信用はしていますけど、新人にはあんまり無茶をさせないでくださいね」


「きちんと見てるから、もっとも適切な敵と戦わせてるんだよ」


「まあ、そうおっしゃるなら……」


 一応ギルドとしては、このことは不問になったようだ。現場にいない者がその教育方針について憶測でものを言うべきではない。


「それより、今回の報酬はかなりのものになるだろ?」


「はい、魔物の討伐数だけでもかなりのものですが、新人研修でさらに一・五倍になりますから。いつも以上の報酬になりますよ」


「うへへへ、あとは山師がどんな鉱物を見つけるかだな」


「二日後にはどの程度のものがどのくらいとれるか報告が上がってくると思います」


「いいものがどっさりだと言うことねえけどな」


「そのお金で遊ぶのはいいですけど、半年以上仕事しないとSランクは剥奪されますからね。あまり浮かれないで下さいよ」


「俺はいつも仕事一筋なんだよ」


 それを聞いて受付嬢はあきれ顔になった。


「よーし、今日は飲むぜ。おいみんな、俺様のおごりだ。食堂の在庫が空になるまで騒いでやるぞ!」


 ギルドにいた冒険者たちはそれを聞いて歓声を上げた。




 ダンジョン攻略はなかなかうまくいかないことが多い。だからこそ成功した場合は多くの報酬が得られる。成功した冒険者はこのとき盛大な宴会を催し、気前よく参加者たちに振る舞うのが慣例化している。


 これによってパーティとそのメンバーの名声は高まり、貴族などから依頼を高額で指名される機会も増え、さらに領主に取り立てられるなどすればもはや人生は安泰だ。その意味でこのような大盤振る舞いは有意義であった。


 ギルドの二階の食堂は、多くの冒険者であふれそれぞれが大いに飲んで盛り上がっていた。収容人数が百人ほどの空間に二百人くらいがいる。


 アルベリオさん、ファルタさん、ライナさんは懇意な冒険者がいるようで楽しく話しながら飲んでいる。トリエルさんは我関せずといった感じで、酒を飲みながら本を読んでいる。


 当然ながら僕はこの人たちのほとんどを知らない。冒険者は見た目がちょっと怖い人とか声がでかい人とかが多くて、楽しそうな輪の中に入ることはできないでいた。


 この町の冒険者は全部で二千人ほどらしいから、これで一割ほどということになる。この九倍も会ったことのない冒険者がいるのだと思うとちょっと気が遠くなる。


 同じく所在なさげに食堂の隅っこでちびちびとお茶を飲んでいたセシリーさんだったが、エルフを珍しがる連中が何度も声をかけてきて面倒だったらしく、僕の横にやってきた。


「大変だね、こんなにたくさんの冒険者がいると」


 なんとも返答のしようのない声をかけられた。


「セシリーさんは知り合いの人とかいないんですか?」


「全然知らないわけじゃないけど……この町って、人間か獣人かしかいないから、エルフと話が合う人があんまりいないっていうか」


 この場合の人間というのは巨人や小人も含む。獣人は狼人や豹人を指す。エルフやドワーフは妖精と呼ばれていて、この辺りではあまり見かけない。


 これら言葉が通じる二足歩行の生物をまとめて人族と呼ぶが、とくに種族ごとで目立った対立があるわけではない。ただし種族ごとに価値観が異なるため、他愛のない話になるほど同じ種族のほうが盛り上がる傾向にあるのは否めない。


「セシリーさんはなんで冒険者になったんですか?」


 僕も話すネタがないのでとりあえず思いついたことを聞くことにした。


「そうやって聞くって……やっぱりマルクくんも私は冒険者に向かないと思ってる?」


「え? そういう意味じゃないですけど」


 まさかそんな返しがくるとは思わず、僕は慌ててしまった。


「いいよ、別に。本当に向いてないと思ったら、自分の意志でやめるから」


「パーティのみなさんが強すぎるから活躍の場がないだけじゃないんですか」


「どうかな、トリエルさんの指示がないと自分の判断で動けないし、どっちかと言うと自信をなくしてばっかり。マルクくんはすごいよね、アルベリオさんの無茶苦茶なやり方でもしっかりついてきて成長してるんだから」


「そうなのかなあ」


 成長できているのかどうかは正直わからない。


「マルクくん、村から追放されて冒険者になったって言ってたけど、私も似たようなものなの」


「セシリーさんがですか?」


 エルフというのはとても美しい外見をもつ。とくにまだ幼く見えるセシリーさんはむしろ誰からも愛されそうな感じで、追放なんてされるはずがないと思ってしまう。


「エルフの村でも同じ価値観をもてる人がいなくてね……マルクくんもそんな感じだったのかな?」


「えっと……」


 答えようとして言葉に詰まった。


「あ、いいのよ。いろいろ事情はあるだろうし。こういうの聞くのよくないよね」


「……まあ、えっと……なんでだったかな……」


「え?」


 なんで覚えてないんだろう。いや覚えてるはずなんだけど思い出せないというか。


 僕の様子はセシリーさんに怪訝な顔をさせるには十分だったみたいだ。


「あー、マルくんいたのにゃ!」


 そこへすっかりでき上がったライナさんがやってきた。


「にゅふふー。マルくん、マルくん」


 前に構えた両手の指が奇妙にうごめく。やばい、この顔は何かよからぬことを考えていそうだ。逃げた方がよさそう。


「マルくーん!!」


「うわー」


 豹人の飛びかかる速度を侮ってはいけなかった。油断していたせいもあって僕はライナさんの動きを目で捉えることができず、捕らえられてしまった。……いや、僕を捕まえたのはライナさんじゃない。


「ライナ、それはハラスメントよ」


 トリエルさんが僕を抱えて助けてくれたんだ。正直僕はほっとした。


 でも僕を抱えたまま自分の席に戻ると、僕を膝の上にのせて頭をなで始めた。そして器用に本を読みながら、酒を飲みながら、なでなでし続けた。


「それはハラスメントなのにゃ!!」

読んでいただきありがとうございます。

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