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命の魔剣に魅入られた僕は、裏切られる度に最凶へと成長する  作者: ヴォルフガング・ニポー


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第13話 亡霊系アンデッド

 そのバンシーが二〇体はいるだろうか。うにゃうにゃとデュラハンの周りをさまよっていたかと思うと、一気に僕たちに襲い掛かってきた。


【バンシー】デュラハンがよく呼び寄せる実体をもたない亡霊系のアンデッド。実体をもたないので物理攻撃は通じない。神聖魔法や光または闇系の魔法が通じやすい。これらは低レベルの魔法でも効くことが多く、必ずしも倒せない相手ではないが、魔法が使えない者は浄化の魔道具をもっていない限り一切の対処のしようがない。


 物理攻撃が効かないのと同じく物理攻撃はしてこない。呪ったり魂を抜くなどの精神系攻撃、あるいは通常の魔法攻撃を放ってくる場合がある。気を張っていれば触れられても魂を抜かれないこともあるが、油断するとほぼ確実にやられる。


 他の系統の魔物と一緒に現れると極めて厄介で、物理攻撃でないと倒せない魔物と剣で戦うことに集中させられた場合、バンシーに対する警戒がどうしても薄れる。これでやられた冒険者は数え切れないので注意が必要。


「セシリー、あなたはライナとマルクを守りなさい。私は戦っているファルタを守るわ!」


「わかりました!」


 ファルタさんは今、デュラハンと剣を交えている。トリエルさんの高レベルの浄化魔法で防御しないと確実にやられてしまうだろう。


「おいおい、俺は誰も守ってくれねえのか」


「アルベリオは自分でなんとかなさい!」


 その言葉に機嫌を損ねたような顔をしたが、明らかに余裕がある。アルベリオさんの周りにバンシーがまとわりついたと思ったが、瞬時に消えた。


「光の魔法なのにゃ。アルベリオは光の魔法も得意にゃ」


 全く魔法を使ったように見えない。でも近寄ったバンシーはどんどん消えてゆく。そしてバンシーもデュラハンも完全に無視して、何もない天井を見つめながら何やらつぶやいている。


「セシリーの神聖魔法は効果範囲が狭いのにゃ。マルくんを抱っこしとかないとはみ出ちゃうのにゃ」


 ライナさんは僕を捕まえて抱きしめようとした。この状況で何でそんなことができるんだ? 僕は逃げようと後ずさってしまった。


「あ」


 神聖魔法の結界から思わず出てしまった。


 何体ものバンシーが襲いかかってきた。


 魔法力が枯渇して魔法は使えない。剣も通じない。よろけて躱すだけの態勢がとれていない。そして精神的な緊張が解けてしまっている。


 うそ? あんなおふざけみたいなことして死ぬの?


「マルクくん!?」


「マルくん、ダメなのにゃ」


 ちょっと悪乗りしてみた言動が招いた結果にライナさんが青ざめていた。


 僕は思考が停止してしまった。


 ただ、無意識に身体が動くままに任せるしかなかった。


 ズバッ!!


 バンシーが真っ二つになっていた。


「え?」


 物理攻撃が通じないはずの敵なのに、僕の短剣は斬り裂いてしまっていた。


「その剣は、神聖魔道具なの?」


「知りませんでした!」


 だけど、短剣で戦えるならやれることはある。僕はそのままバンシーを次々と斬っていくと、みるみると消えていった。ものの数秒で全滅させることができた。


「よくやったわ、マルク!」


 トリエルさんは改めて詠唱を始めた。高速かつ正確なその詠唱は七秒ほどで完成した。


「神威浄化!」


 その魔法はデュラハンに向けて放たれた。何かの波動が首なしの鎧を貫くと、紫色の邪悪なもやのようなものが抜け出して消えた。


「うおおおお!」


 一瞬動きが止まったデュラハンをファルタさんの剣が粉砕した。


「やったのにゃ!」


「ぼ、ボス討伐ですか?」


 ライナさんとセシリーさんはほっと胸をなで下ろした。


「違う、上を見ろ!」


 叫んだのはファルタさんだ。


 さっきまで何もなかったと思った天井をみんなが見ると、そこには無数の顔が敷き詰められていた。


「うぎゃー、きもいのにゃ!」


「これは……レギオン!」


「この数は、尋常じゃないわ」


 トリエルさんも青ざめるほどの数。数千、いや数万の霊体が集まっている。


【レギオン】バンシーのような亡霊がいくつも集まってひとつになった群霊体。実体のない亡霊の集合だが、高密度に凝縮すると実体化することがある。一見スライムと間違うが、その脅威は比にならない。


 スライムのようにその実体に飲み込んで捕食することもあるが、そうなると確実に魂を抜かれて死ぬ。それ以外にも呪いの言葉を受けると心身に異常をきたす。


 物理攻撃は実体化している場合は通用するが、亡霊に分離するだけで再集合するとほとんど意味がない。浄化魔法もほとんど効かない。高強度の神聖魔法が効くことが知られてるが、冒険者がそれを身につける可能性はほとんどない。


 見つけたら追ってくることはほぼないので必ず撤退すること。


 つまり、ここの本当のボスはこのレギオンだったんだ。


 狙っていたんだ。デュラハンに気を取られて僕たちが油断するところを。


 どろどろと雫を垂らしながらレギオンが落ちてこようとしていた。


「これはまずいわ。アルベリオ、撤退よ!!」


「バカ言ってんじゃねえよ」


 アルベリオさんは笑った。


 そうだ、彼だけは違った。ずっと上だけを見て何かをつぶやいていた。すでに気づいていたんだ、レギオンの存在に。


 そして練っていた。


 天井一杯を埋め尽くす巨大レギオンさえも消し去るような、圧倒的な魔法を!


「固化光!!」


 アルベリオさんは両手の指先を天井に向けると、その十指から光の弾丸が放たれた。


 その弾丸は光を固化するまでに超圧縮していた。


 光を圧縮なんて、そんなことできるのか? Sランクの彼の魔法ならできる。


「目を閉じてな」


 次の瞬間、光は解き放たれ、空間一帯を真っ白に染め上げた。


 あまりの輝きに僕たちは目を閉じていてもその眩しさに目が眩み、視力が回復するまでにしばらくの時間を要した。


 まだちかちかする目を何とか開けて見ると、レギオンは完全に消え去っていた。


 圧倒的な霊体の集合を、圧倒的に上回る光で消滅させてしまったのだ。薄暗いダンジョンの中でこれだけの光を集めるには、自らの魔力で相応の光を生み出さなければならない。


 僕はSランクの凄まじさを初めてこの目で見た。


「へへへへ、一丁上がりだ」


 間違いなくあれらの魔物たちはここのボスだったようで、ダンジョン内の魔素が急激に薄くなってゆくのが感じられた。このダンジョンは、数か月間は魔物も現れることなく、一般人でも出入りが可能になった。そして山師たちが貴重鉱物を採掘するだろう。


 パーティの仲間たちの表情がようやくほころんだ。


「レギオンのこんな倒し方があるなんてね。ギルドに報告しておいてあげるわ」


「はは、この魔法が他の奴が使えるか知らねえけどな」


 終わってみればファルタさんが少しダメージを負ったくらいで、大きな損害もなくあっという間にボス討伐を完遂してしまった。


 だけど、何かを一つ間違えば犠牲者が出ていた可能性がある。それがなかったのはひとえに彼らの判断の速さによるものである。刻々と変化する状況に応じて可能な限り正確な戦術をそれぞれが遂行していた。


 このボス討伐は僕にとって勉強になることばかりだった。

読んでいただきありがとうございます。

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