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残念王妃の小さな事件簿 ―刺繍の好きな王妃様は、今日もほわほわと周りを振り回しているようです―  作者: 青風ぱふぃん


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残念王妃の昔の話 : 残念王妃は北国へ外遊中です

「あら、第三王子殿下」

 北国の王宮の奥庭で、王妃はこの国の王子に声をかける。

「あ……、隣国の王妃殿下、ご機嫌麗しく……」

「固い挨拶は要らないわ、おばさまと呼んでちょうだい」

 と王妃は笑う。


 王妃は北国を訪問中だ。先日王位を継いで王となったばかりの夫と共に訪れた、新国王夫妻としての最初の外交であり、この国の王に嫁いでいる王妃の姉への挨拶でもある。

 そして当然だが、この国の王子王女は王妃の姉の子であり、王妃の甥姪だ。

 その王子王女のうち、まだ幼いこの第三王子は病弱で、奥の宮に閉じこもりがちだった。


「お外に出てこられたのね、良いことだわ。お身体は大丈夫なの?」

「あ、はい、すぐ熱が出ることも寝込むことも最近は無くて、少しずつ普通の生活へ慣らしていくように主治医に言われました」

「それは良かったわ、じゃあもっと元気になるために、どんどんお外に出ないとね」

「……いや……、兄上達が、いいお顔をなさらないので……」

「あら、なあぜ? 一緒に遊べて嬉しいでしょうに」

 王妃はキョトンとする。

「ライバルが増えるのをご不快に思われてるのだと思いますよ」

 幼い王子は年に似合わない歪んだ表情でフッと笑う。

「ライバル?」

「ひとつしかない椅子の奪い合いですからね」

「あらまあ、わんぱくねえ。みんなで仲良く使えば良いのに。椅子の上で獲り合いのケンカなんかしてたらすぐ壊れちゃうわよ」


 王座を? と王子はキョトンとし、次いで苦笑する。

 比喩が通じないのか。残念王妃の噂は本当だったんだな。


 王妃はそんな王子の表情に構わず、その手の中に注目する。

「あら、小鳥?」

「はい、青い鳥に追われてそこに落ちてきて……」

「あらまあ大変」

 小鳥は片羽根を閉じきれず、だらりと垂らしている。その羽根を、王妃は手際よく確認する。


「骨は折れていないし、小さな傷があるだけだから、そっとしておいたらまたすぐ飛べるようになるわ」

「そうなんですね、良かった」


 茶色い小鳥は王子の手の中ですやすやと眠っている。王子はつらそうにその小鳥を見つめていた。


「……なんで青い鳥はこんな小さい鳥をいじめていたのでしょう……。どう見ても弱いのに」

「あら、この子はあの青い鳥に嫌われてるのよ」

「えっ?」

「この子の種族は、あの青い鳥が少し離れた隙に、その巣に勝手に卵を産みつけて巣を乗っ取るから」

「ええ!?」

「自分の子はすべて殺されて、自分の子だと思って育てたのは他鳥よその子、ってことになるのよ。そりゃ嫌われるわよね」

「……そんな……」


「青い鳥も自分の巣を守るために一生懸命なのよ」

「それはそう……ですね……。……でも、この子自身はまだ子供です。この子があの青い鳥の巣を今すぐ奪おうとしているわけではないのに」

「同じような前例があったら、警戒するものよ。万が一があったら取り返しがつきませんからね」

「同じような前例……」

 王子は歴史で学んだ過去の王位簒奪事件に思いを馳せる。自分はあんな怖いことは望んでいないのに。


「でもねえ、私思うのよ」

 ふう、と王妃は哀しげにため息をく。


「他の子を殺そうとしないで、仲良く一緒に育てばいいのにって。そうしたらこんなに嫌われなかったでしょう?」

「確かに……」

 第三王子は深く頷く。

 風が出てきたのか、庭の草木がカサリと音を立てた。

 王妃は少し目を上げて、あごに指先を当てる。


「……うーん、そうねえ。お話し合いは出来ないのかしら。頭を下げてお願いをすればいいわ。僕はみんなと違う他鳥よその子で、本当はここにいるべきじゃない子だけど、一緒に暮らさせてください、お願いします、って」


 子どもの絵本のような話に、王子はクスッと笑う。


「そうですね、それが出来たら良いですね」


「他の子を殺したりするから、お父様お母様に嫌われて追い払われてしまうんだもの、ちゃんと仲良く……」


「そいつは嫌われてなんかない!」


 不意に子どもの声が響く。

 同時に一人の男の子が飛び出してきて、第三王子を庇うように王妃の前に立つ。


「こいつはよその子じゃないし、オレたちは殺し合いなんかしない!」


「あら、第一王子殿下、ご機嫌いかが?」

「弟を馬鹿にされてご機嫌がいいわけがあるか! こいつはオレの大事な弟で、父上母上にも嫌われてないし、頭を下げてお願いなんかしなくても、ここに居ていいに決まっている!」


「あらまあ、突然どうしたの?」

 王妃は困ったように首を傾げる。


「第三王子と仲良し、ってお話? でも椅子の取り合いでケンカしてるんじゃなかったの?」


 うっ、と言葉に詰まった第一王子は、少し俯いたあと第三王子を振り返る。


「……意地悪をしてすまなかった。王座のためにお前を追い出そうとか思ったわけじゃないんだ。ましてや殺してやるなんて、かけらも思ったことはない。ただちょっと……」

 モゴモゴと言い淀んで、それから意を決したように頭を下げる。


「すまん! 父上母上がお前の心配ばかりしてるから、ちょっとやきもちを焼いた! お前のことは嫌いじゃない! 許してくれると嬉しい!」


 第三王子は目を大きく見開き、次いでケラケラと笑い出す。


「な、なんだよ、オレが頭を下げるのがそんなにおかしいか」

「違う違う。僕こそごめんね。勝手に自分は邪魔な子なんだと思い込んで、話もしないで逃げ回って」

「いや、それはオレのせいだし……」

「でもね、今の話はこの小鳥の話だったんだよ」


 ふたりの間に沈黙が落ちる。ややあって、

「…………はあ?」

 第一王子の口から裏返った声が出た。


   *   *   *


 数年後、北国の第一王子は王の後継ぎとして正式に王太子に指名された。


「玉座はただの椅子ではない。この国すべての国民を支える土台である。その責任と重みを、その肩にしっかりと担う覚悟を決めるがよい」

 王は第一王子に言い、他の王子王女を見渡してまた言う。


「ひとりで支えきるにはこの国は重すぎる。お前たちも王太子に協力して、皆で仲良くこの国を支えていってくれ」


「「「はい!」」」


 思わずふっと微笑んだ第三王子に、王が不審げに問う。


「どうした第三王子」

「失礼いたしました、昔、隣国の王妃に言われたことを思い出していました」

「何?」

「我々兄弟がつまらないことで争っていては国を壊す、と言うことを、幼い私に小鳥に例えて教えてくださいました。あれからずっと考え続けて、私は兄上の下で国を支える覚悟を決めています。兄上、安心して治世を行なってください。私はその背中を支えます」


 そして第一王子と目を合わせて、意味ありげに笑う。

「決して巣の外に押し出したりはしませんので」


 声を立てて笑い合う第一王子と第三王子に、意味がわからないながらも他の皆も自然と笑顔になったのであった。


オナガとカッコウ。裏の雑木林にたくさんいたオナガが全然いなくなっちゃって、カッコウもいなくなっちゃった。何やってんのあいつ。


お読みいただいてありがとうございます!

またよろしくお願いします!

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