第19話「メガネ。テメーのシワザだろ?」
びくびくする僕を引っぱって、黒川は軽く・明るく芝居する。「非常ベル押してみた撮れたー!」全校生徒にスマホを向けて撮影しながら。アタシが主犯とばかりに視線を・ヘイトを集めた。ふたりで職員室に呼ばれてこっぴどく叱られて、反省文も書かされて5時間目がなくなった。前左右を敵視して・蔑視して教室に戻り、心配も狼狽もしてたレンちゃんに洗いざらい話す。
話を聞き終えると奴らのほうに歩いて行った。前田の頬を平手打ち……!
「し、しお――」
なにか言おうとしたところにもう一度。巡条さんが手を出すなんてよっぽどだ、怒り心頭だ。
ただ二回叩かれてあの前田がおびえた。怒らない人を怒らせて恐怖なんだ。左右もビビる。
「……謝って」
「わ、悪ぃ……よくわかんねーけど」
「わからないの!? 私じゃなくって! 萌々奈に! 謝って!」
ぎゅっと目をつぶって・拳を握って絶叫した。優しいお姉さんの激昂に教室中が震撼する。
男三人が慌てふためいて僕らの前に来た。横に並んでモモに向かって一斉に正座・土下座。
「悪かった!」「ごめん!」「すまん!」
「…………」
無言で・無表情で文字どおり見下す。巡条さんがあの誓約の紙を持ってきて前田に書かせる。『三、萌々奈に二度と近づきません』『四、雪佐くんに暴力を振るいません』――そう誓わせた。これでやっと1軍との禍根が・因縁が絶たれたと思う。あいつらが紙を・誓いを破らない限り。
「ごめんなさい……私のせいでもあるわ……」
眉も目尻も下がり、頭を下げる。顔を上げたら左目から涙がひと筋つーっとこぼれた。
「私がクマくんを遠ざけたからこんなことに……」
「遠ざけたってなに? どういうことー?」
残り四日姿くらます件を明かした。自分がいない昼休みにふたりっきりがどうしても嫌で。
「けれど私も明日から一緒にいるわ~。特別コーチは今日でおしまいで~すって言うから~」
油断ならない前左右ににらみをきかせるために。かつ僕らにも厳しく目を光らせるために。
「いないからっていいわけじゃないけれど~、私がいるのにイチャイチャしたら有罪よ~?」
「見たみたいに言うじゃん。まージュン合戦はしてたけっなー、イチャイチャ」
「し、してるか! ――イチャイチャなんかしてないよ? ほんとだよ?」
「本当かしらね~、そうだといいわね~」
どこか冷たく疑ってかかって信じない。まさか〝証拠〟を握ってた・憤ってたなんて……。
◎
「王手~!」
「あ、レンちゃん、それはニ歩だよ」
「にふ~? よんけん~?」
……それは近畿だよ。歩は同じ縦列に二個置いちゃダメなんだ。大体その王手意味ないよ。
「はい、ヒシャびゅーん。今のなに? わざわざフぅくれたわけー? アハハハハ!」
「むむむむむ~ぅ……!」
煽られてぷくぷく・ぷりぷりむくれる。……毎回それかわいい。ちょっと指で突いてみたい。
昨日は異常な・大変な一日だった。なんていうか向こう十年分くらい大声で怒った気が……。英くんたちから借りて今日こそ昼休みに将棋やってる。ギャルvsお姉さん、対極の対局だ。
「ク~マ~くぅん! クマくんクマくんクマくんクマくんク~マ~くぅん!」
互い違いに横に腕振って駄々こねないで……。大丈夫、まだいけるよ。桂馬を出撃させよう。
「けいま~? 拓真は~?」
「……そんな駒ないよ」
「ふふっ、ここにあるものね~」
抱きついてきた! さらさらの髪から色香が・芳香が! 香水もシャンプーもいい匂い!
「人に言っといてイチャイチャしてんじゃん!」
「するわよ~。だって私〝は〟・私〝が〟彼女だもの~」
抱きついたまま見返す・言い返す。争わないでって言おうとしたら、あっちで争いが起きた。
「フォロー外してブロックまでしてどういうこと!?」
竹田がスマホを見せて松本に詰め寄ってる。もうひとり梅原がなだめた。なにがあったのか。黄島と緑原が仕切ってる・威張ってる2軍+の面々で、松がソフトボール部・竹梅が陸上部。1軍とは交流がなくて黒川とも接点ない。男でいう石田・岩田レベル。あくまで僕の見立てで。
「あんたになんかした!? あれ!? あれ恨んでんの!?」
「どれよ! ブロックなんかしてない!」
「見ろよ! ほら! してるから!」
ツイックーをブロックした・してないで揉めてるらしい。……アホらしい・今の女子らしい。
「ちょっと待って――あたしもされてる……!」
梅原も自分のを確かめてブロックだったのか、打って変わって一緒になって松本を責めだす。
「あんたどういうつもり!?」「友達やめるつもり!?」
僕ら三人もほかの連中も動向を眺める。巡条さんを見たらやっぱり〝あのふたり〟も見てた。
「チッ……うっざ・うっさ。うちのクラス、ここんとこモメるヤツばっか」
前赤破局事件に左右岩石の二千円事件――あれももしかして? 僕もモモも勘づいてきた。
「カレン。アンタには悪いけどさ――はっきりさせよ」
席を立って小林・佐藤のところまで行った。読書中のふたりに、小の机にグーの横でドンっ!
「メガネ。テメーのシワザだろ?」




