第18話「あり、がと……」
「逃げんならハナから来んなや。ダサいねん」
「誰か呼びに行ってたりしないよな? シュ、シュウ……やばくないか? やっぱ犯罪じゃ?」
「元カノ相手にやばいも犯罪もねーよ。そりゃぜんぜん関係ねー女にこれはレイ――なんだ!?」
『火事です。火事です。三階で火災が発生しました。落ち着いて避難してください』
「火事!?」「三階!?」
「ここじゃねーか! やべーな、すぐあっちでジリリリ鳴ってんな! 行くぞ・死ぬぞ!」
「…………。フっ、やっぱ頭いいじゃん……」
全力で・全速力で戻ってきたら前左右はもういない。よし……勝った・助かった。
「モモ! 無事か!?」
「おかげさまでー。まー手×ンはされたけどー」
「そ、そういうこと言うな……。あいつら戻ってこないとも限らないから、どっか移動しよう」
手を差し出して引っぱって立たせた。階段を駆け下りる。けたたましい音が響き渡るなか。
僕は非常ベル(火災報知器)を押した。1年の廊下の真ん中、1‐3の教室前にあった。それから1‐1の隣の階段を下りて、2年の廊下を突っ切って、階段を上がって舞い戻った。奴らと鉢合わせたらどうしようも抗しようもないから一周した。50m走より本気で疾走した。僕が逃げたと思ったんだろう、タイミングよくこんなそうそう鳴らないものが鳴っても信じた。奴らにも普通に危機感・恐怖感があってよかった。「火事だ? 情事だ!」とか無視もありえて。
「ふぅ……ここなら……見つからないだろ……」
生徒がいる・教室がある棟の反対側、職員室とかなんとか室とかばっかりの棟の屋外の階段。
その1階から2階に上がる部分の裏側の隙間に身をひそめた。ベルも放送もまだ聞こえる。
「アンタ……やばくない……? ゼッタイ怒られるわ……」
「だよな……イタズラで押したのと……一緒だよな……」
「しょうがないから……アタシも……共犯ってことでいいわ……」
ふたりして息を整えた。騒然としてるのがここでもわかる。録音音声じゃない校内放送も。
『全校生徒の皆さん、至急グランドに出てください! 繰り返します、全校生徒の皆さん――』
大事になってきた……! 申し訳ない・申し開けない……。
「迷惑系ニューチューブ撮ろうとしたーでいいじゃん。激イタ男女クソコンビってことでさー」
「現代的で説得力あるな……それでいいか」
ちょっと笑ってそれきり沈黙に。手狭い・薄暗い地べたに体育座り。肩・脚が当たってる。
「で……大丈夫か?」
「へーきへーき、あんなのなんでもないしー」
「なんでもないことないだろ……泣きそうになってただろ」
「はぁ? なってないし!」
頭バシっ! とりあえず元気だな・勝ち気だな。さっきのこと……先生に言うか?
「先生に言うとかダっサいからやめろっての。べつにいいから。アワレんでくんないでくれる?」
「……哀れむわ。あいつらにいいようにされて……おまえらしくない。ボっコボコにしろよ」
僕がボコられないために自分がパコられるの選ぶなよ。あんな倫理も人心もない元カレに。
「レンちゃんに怒ったとこだろ……自分に優しくしろって。簡単に体許すなよ・差し出すなよ」
「アンタがザコいから守ってやったんだけど? 悔しいけどアイツボっコボコにできないし」
「…………」
ほかに手はなかった――のか……。先生が嫌なら巡条さんに言おう。本気で怒ってもらおう。
トモダチなら・カレンならいいけどーって了承した。ふとスカートのなかに片手を突っ込む。
「まだ濡れてるわー。ヤるー?」
「アホか!」
アハハハ笑って肩にもたれかかってきた。いつかレンちゃんにこて~んってされたみたいに。
「な、なんだよ」
返事はない・色気はある。ウンコだションベンだ当たり前に言うけどこいつ自身はいい匂い。レンちゃんには劣るけど年相応に十分セクシーで、剥き出しの脚のなまめかしさったらない。
「ヤる?」
さっきと違って静かに・まじめにまた言った。真剣さは伝わってきたけどきっぱりお断り。
「ヤらない」
「チ×チ×おっきくしてんのに?」
……わかるのか。悪いけど興奮した・反応した。男の愚かな機能なんだ・本能なんだ……。
「ごめんごめん、忘れて。それより……その……」
肩に頭を乗っけたままもじもじしはじめる。気持ち悪――くない。……不覚にもかわいい。
「あり、がと……」
ダサかっこよかったじゃん。いやいや、かっこよくなんか……。ダサザっコかったよな……。
「っ……ぐすっ……」
泣きだした! え、ど、どうした?
「ううっ……怖かった……イヤだった……! タクぅ……!」
抱きついてきて号泣しだす。こいつも人の子・女の子、あんなのなんでもないわけがない。男三人に押さえつけられて……怖かったよな。嫌いなクソ男に手でされて……嫌だったよな。
「ごめんな……ごめん……」
ひたすら謝るしか・なでさするしかできなかった――
◎
泣きやむまで結構かかったけど、グランドのみんなが戻らないうちにふたりで出て行った。




