第41話 禁忌事項
女の子にとって、少しデリケートな話が含まれています
人間ではない偽物ではなく、人間である本物がモナカには相応しい。
モナカも時子が〝大好きだ〟と言っていた。
「だからね、マスターのこと、時子さんに――」
「時子は妹なんだから、〝さん〟付けはおかしいよ」
「――え?」
「前みたいに〝時子〟って呼んで」
「それは……」
対等な立場ならばそれも良いと思っていた。
だがタイムは自ら舞台を降りている。
だから対等ではない。
しかし先ほど自ら語った嘘を盾に取られてしまった。
こうなったときの時子は、融通が利かないのを知っている。
「ふぅー。分かったよ。時子」
「なぁに、お姉ちゃん? ふふっ」
「……マスターの前で〝お姉ちゃん〟とか呼ばないでよね」
「大丈夫だよー。時子、そんなこと――」
「しそうだから言ってるの」
タイムは自分に禁忌語句が掛けられる。
管理者によって禁忌を掛けられていたり、別名が掛けられているものもある。
タイムが〝モナカ〟と言えず、全て〝マスター〟になってしまうのも、この所為なのだ。
しかし時子に禁忌語句などというものは、存在しない。
だから〝お姉ちゃん〟に禁忌を掛けられない。
ポロリもあるのだ。
「えー、じゃあなんて言えばいいの? お姉ちゃん」
「今まで通り〝タイムちゃん〟でいいよ」
「えー、お姉ちゃんなのに?」
「お姉〝ちゃん〟って呼んでるからでしょ」
「ぷぅー。じゃあ〝お姉さん〟にするから、〝タイムさん〟でいい?」
「それはマスターが変に勘ぐるからダメ」
〝ちゃん付け〟が〝さん付け〟になると、印象がガラリと変わる。
しかもタイムは〝時子〟と呼び捨てに戻った。
これではタイムが時子になにかしたと誤解されかねない。
「いっそのこと、時子も〝タイム〟って呼べばいいじゃない」
「うえぇ?! い、いいの?」
「お姉ちゃんの命令です」
「あー、こういうときだけ〝お姉ちゃん〟使うのはズルいよー」
「気にしないの」
「もう。ね、タイムちゃ……こほん。ね、タイム」
「なぁに、時子」
「モナカくんのことは、引き受けられないよ」
「なんで?!」
「知ってるでしょ。時子には先輩が居るんだから」
「だからそれは……」
言いかけて、禁忌語句によりそれ以上言うことができなかった。
肝心なことはなにも言えない。
それがもどかしくもあり、ホッとしてもいた。
「タイムは最初、時子とモナカくんの間に入って引き離そうとしてたよね。なのになんで今はくっつけようとするの?」
「タイムはマスターの子供を産むことができないんだよ」
「まだ来てないってこと?」
「まだももうも永遠に無いんだよ。タイムはそういう存在なんだよ」
「だからって、どうして時子に生ませるの?」
「タイムと同じ遺伝子を持ってる時子にしか頼めないの」
これは嘘ではない。
時子とタイムは、別れた時期が違うだけだ。
子宮の中か、外かの違いでしかない。
「だからこの前、エイルさんやアニカさんじゃダメって言ってたんだ」
そもそも元素世界の人間と魔素世界の人間の間で、子を生すことはできない。
しかしタイムにとって、それは些細な問題でしかなかった。
「分かってくれた?」
「それは分かった。でも子供を産むだけじゃないでしょ。モナカくんと一緒に生きていくことはできるよ」
「無理だよ。マスターの身体は、もう時子無しでは生きていけないんだから」
「ふぇ?!」
時子が顔を真っ赤にしてあたふたした。
それを見たタイムは、自分の言った言葉の別の意味に気づいてしまう。
そして自らも顔を真っ赤にして慌てふためいた。
「あ……じ、充電的な意味だからねっ。マスターで変なこと想像しないでよっ。時子のエッチ」
「タイムが紛らわしい言い方するからだよっ。モナカくんで変なこと想像してるのはタイムでしょ。タイムのエッチ」
「むぅー。とにかく、マスターは時子が居ないと死んじゃうんだよ」
「それでもダメだよ」
「どうしてっ!」
「幾ら〝お姉ちゃん〟のお願いでも、それは無理。タイムがモナカくんの子供を産みたいように、時子だって先輩の子供を産みたいもの。だからいつまでもモナカくんの側に居ることはできない」
「薄情者!」
「そうだよ。時子は薄情だよ」
感情的なタイムとは対照的に、あくまで冷静に淡々と思いを述べる時子。
この気持ちが揺るぐことはない、という意思表示だった。
「でも人を好きになるって、そういうことでしょ」
「人の命が掛かってるんだよっ」
「それでも、だよ。大体さっき〝マスターで変なこと想像しないでよっ〟って言ったのは誰。タイムは時子に想像じゃなくて、それ以上のことを実際にしろって言ってるんだよ。分かってる?」
「分かってるよっ。だからお願いしてるの!」
「それ、矛盾してない?」
「してないからお願いしてるの!」
していない理由を告げることはできない。
説得力の欠片もない言葉。
だからその思いが時子に届くことはない。
「時子の気持ちを無視してまでさせたいことなの?」
「だからそれは……えっと」
無視している訳ではない。
しかしそれを言うことができない。
言えないというのもあるが、心の奥底では言いたくないという気持ちも残っている。
「……タイムもなの?」
「え?」
「タイムもエイルさんと同じで、モナカくんが先輩だって言うの?」
「言わない言ってないっ!」
「あはは。そうだよね、モナカくんは先輩じゃないよね」
「……」
タイムにはそれを肯定することも、否定することもできなかった。
どちらを答えても、禁忌に触れてしまうから無理だ。
ただ沈黙し、視線を逸らし、話を逸らした。
「エイルさんはタイムと時子と、どっちをマスターとくっつけたいのかな」
「エイルさんて、本当は自分がモナカくんとくっつきたいんじゃないの?」
時子が話しに食いついてくれて、タイムは内心ホッとする。
「あ、時子もそう思う?」
「モナカくんは自分のことを〝検体だ〟って言ってるけど、どうかなー」
「〝検体だから大切にされている〟って思ってるよね」
「そうそう。分かってないよね。ちょいちょい気持ちが漏れてるのに」
「多分エイルさん自身気づいてないよ」
「そうなのよねー。だからタイムと時子をモナカくんにくっつけようとするんだよ」
「ホント、困ったちゃんだよねー」
「ねー」
完全に話題を逸らすことに成功して安堵するタイム。
心に余裕ができたことで、モナカの身体の変化に気がつくことができた。
恋は盲目
好きな人以外、要りません……みたいなぁ
次回は久しぶりにタイムが変身します




