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第40話 バレなければ嘘ではない

 トレイシーがエイルの部屋の扉を開ける。

 タイムや時子にはできない芸当だ。

 開けるだけなら時子にもできる。

 だが開け続けることができないため、入りきる前に扉で挟まれてしまう。

 だから素直にトレイシーに頼ることにした。


「トレイシーさん、ありがとう」

「お安いご用よ。終わったら呼んでください」

「分かりました。お願いします」

「トキコさん、ご飯は残しておきましょうか?」

「あー。いえ、ご馳走様でした」

「はい、お粗末様でした」


 タイムと時子が部屋に入るのを確認すると、トレイシーは茶の間へと戻っていった。


 タイムが自分の身体ほどもあるランタンを何処からともなく取り出し、明かりを灯す。

 タイムの手を離れたランタンは、部屋の中央上空までゆっくりと浮かび上がる。

 ランタンの明かりは、部屋全体を優しい光で包み込んだ。

 その様子を、時子は口をポカンと開けて、魅入っていた。


「タイムちゃんはこんなこともできるんだ」

「時子さんだって、慣れればできるようになるよ」

「えー、無理だよ」

「……そんなことじゃ、マスターは助けられないよ」

「え?」

「なんでもない」


 時子はベッドに座り、タイムは机の上に立ち、お互い向かい合っている。


「それで、時子に話ってなんですか?」

「その前に。これから話すことをマスターには内緒にして欲しいの」

「モナカくんに?」

「うん」

「分かったよ。言わない」

「ありがとう。それで、その」


 タイムは話そうと思ったことを、1度飲み込んだ。

 しかし話さなければダメだと思い、勇気を奮い立たせた。


「時子さんは……お姉ちゃんとか、居る?」

「ううん、時子は一人っ子だよ」

「だ……よ……ね。でも、本当は違うの」

「違うって?」


 これを言ったらもう戻れない。

 けど進まなければならないと、握りこぶしを震わせながら、言葉を紡いだ。


「時子さんには、お姉ちゃんが居たんだよ」

「え?! ウソ、ホント? 時子、聞いたことないよ」


 時子にとって、寝耳に水の話だ。

 結婚をして出て行った姉も、生き別れになった妹も居ない。

 正真正銘、親子3人家族なのだ。

 それが時子の認識である。

 ましてや姉が居たことを何故タイムが知っているのか。

 いくら時子でも、そのくらいの疑問は感じられる。


「そうだよね。聞いたこと、あるわけないよね。でも居たの」

「〝居た〟?」

「死んじゃったんだよ、生まれる前に」

「生まれる前に?」

「バニシングツインって知ってる?」

「ううん」

「本当は双子で生まれてくるはずだったんだけど、片方は栄養不足で大きくなれなくてね」

「双子なのに?」

(かたよ)ることがあるんだよ。だから栄養不足で死んじゃったの。そしてそのまま子宮に吸収されちゃったから、死体も残ってないんだよ」

「え?!」

「生まれた証を残せなかったの。だからタイムはこんなにもちっちゃいんだよ」

「えっ?!」

「ゴメンね、生まれてくることができなくて」

「タイムちゃんが……お姉、ちゃん?」

「そうなる、かな。あはは」


 時子に〝お姉ちゃん〟と言われ、複雑な気分のタイム。

 目を合わすことができず、そっぽを向いてしまう。

 もう、後戻りは出来ない。


「だからソックリなの?」

「そうだね」

「でもなんで、その……タ、タイム、お姉ちゃんがここに?」

「う……なんか照れるね、あはは」

「そうだね。急にお姉ちゃんができるとか思わなかったから、ちょっとドキドキしてる」


 時子は自分の胸に手を当て、心臓の鼓動を感じ取っている。

 しかしタイムが同じ事をしても、心臓の鼓動を感じることはできない。

 それは決して鼓動が高鳴っていないから、ではない。


「……タイムがお姉ちゃんって、信じてくれるの?」

「あれ、本当は妹だったの?」

「そうじゃなくて」

「信じるよ。だってお姉ちゃんの言うことだもの」


 姉の言うことだから姉を姉だと信じる、という。

 時子らしいといえばそうなのだが、理論が破綻している。


「そっか。そうだね、はは……」


 タイムはその思考を理解できてしまう。

 だからこそ、後ろめたい気持ちが強くなった。


「タイムお姉ちゃん?」

「ううん、なんでもない」


 例え嘘でも、嘘だとバレなければそれは真実になる。

 タイムの言うことを嘘だと否定する証拠は、こちらの世界にはない。

 本当だと肯定する証拠もないが、それは〝姉の言うこと〟が証拠になってしまう。

 タイムには、それが分かっているのだ。

 A.I.として生きた1年が、それを利用することを思いつかせたといってもいい。


「本当はそのまま消えてしまう魂だったんだけど、管理者に捕まれてさ。それでマスターのサポートとして生まれ変わったんだよ」

「そっか。じゃあ管理者さんに感謝しないとね」

「どうして?」

「だって、会えるはずもなかったお姉ちゃんに会わせてくれたんだもの。感謝しかないでしょ」

「あ、そっか。そうだね、はは……」


 こうも簡単に嘘を本当だと信じ込ませることができると、それはそれで良心の呵責(かしゃく)(さいな)まれる。

 だからその部分を切り取り、隔離した。

 自分自身でも、先ほど言ったことが嘘なのか本当なのか分からなくなるくらいに。

 すると、霧が掛かっていたような気分が綺麗に晴れた。

 こういうところで、もう人間ではないのだと実感させられる。

 それを分かっていて実行してしまう自分も嫌だった。

次回、タイムがマスターとしか言えない理由が判明

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