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第39話 間接キス

 しかし久しぶりにタイムが時子さんに噛み付いたな。


『タイム、ちゃんと手加減するんだぞ』

『……』

『タイム?』


 ダメだ、返事がない。

 そこまで怒らせてしまったのか。

 ……そりゃそうか。

 他の女の子に〝大好きです〟とか言っているところを目撃してしまっては、当然の反応だろう。

 あー、折角来てくれたのに、振り出しどころか悪化しているじゃないか。

 いや、クヨクヨしても仕方がない。

 きちんと誤解を解かなきゃダメだ。

 もう逃げてばかりじゃダメなんだ。

 そう決意したところで、トレイシーさんが戻ってきた。


「モナカさん」

「はい」

「ご飯、食べてくださいな」

「あ……そうですね」

「全部食べても大丈夫ですからね」

「はい、分かりました」


 正直、あんなことがあった後では食欲が湧かない。

 それでも折角トレイシーさんが作ってくれたものを残すのは申し訳ない。

 なのでおかずと共にご飯を食べる。

 食べる、食べる、食べて食べてとにかく食べる。

 食べている間はなにも考えずに――


「モナカさん、トキコさんの分のご飯も食べてくださいね」

「はい」


 とにかく黙々と食べ続けた。


「モナカさん、トキコさんはもう要らないそうなので、その残っているご飯も食べてくださいね」

「はい……………はい?!」


 なにを言われたのか一瞬理解に苦しみ、箸が止まってしまった。

 聞き間違いか?

 それはつまり、時子さんの食べかけのご飯も食べろと?


「えっと、時子さんのお茶碗に残っている、このご飯……のことですか?」

「そうよ」

「それは……その」

「モナカさん、人との距離を測るのに、1つの基準があるの」

「え?」


 突然なにを言い出すんだ?


「その人が口を付けたものを食べられるか、食べられないか。それが基準なの」

「はぁ……」

「モナカさんは、トキコさんが口を付けたものを食べられないほど嫌?」

「いえ、そんなことはありません」

「そう、ならよかった」


 それはつまり、俺が時子さんの食べかけを食べないといけなくなったということか?

 なんか、誘導尋問に引っかかったような気分だ。

 食べるのは問題ない。

 問題はないが、別の問題が発生するような気がするんだが、気のせいだろうか。

 それとも、俺が意識しすぎているだけか?

 トレイシーさんが俺の動向を見つめている。

 ここで食べなければ、俺が時子さんを嫌っているということになるのか?


「どうしたの? 嫌ならおばさんが食べるわよ」


 だったら最初からそう言ってくれればいいのにっ!

 とは言えず、かといって今更〝お願いします〟と言うのも男らしくない。


「いえ、大丈夫です」


 意を決して時子さんの使っているご飯茶碗を手に取った。

 普段使っているものと比べると、結構小ぶりだ。

 俺はいっぱい食べないといけないのに、時子さんは普通に一人前だ。

 むしろ少なめなのではないだろうか。

 茶碗の中には少しだけご飯が残っている。

 そうか、俺は時子さんとトレイシーさんの食事の邪魔をしてしまったんだな。


「トレイシーさん、食事の邪魔をしてすみませんでした」

「え? ああ、いいのよ、気にしないで。子供の夜泣きに起こされるので慣れているわ」


 その子供というのは、エイルのことなのだろう。

 あいつも子供らしいところがあったんだな。

 というか、ターナー家は〝何々で慣れている〟が口癖なのだろうか。

 やはり親子というのは似るのだな。

 ……なら俺は?

 気にしても仕方がない。

 後で時子さんにも謝っておこう。

 茶碗の中のご飯を箸でつまみ上げる。

 何故だろう。

 いつもよりキラキラして見える。

 とても(つや)やかで(あで)やかで、とても同じご飯粒には見えない。

 神々(こうごう)しいまでに輝いているような気にさえなる。

 時子さんも今の俺と同じように、この茶碗からご飯を箸でつまみ上げている。

 そしてそのつまみ上げたご飯をパクついている。

 時子さんの唾液が、箸を通して、ご飯粒を通して、今目の前のご飯粒に付いている。

 意識しないようにしても、意識するなという方が難しい。

 時子さんの唾液が汚いなんて、これっぽっちも思ってはいない。

 それを体内に取り入れるということは、ある意味特別な繋がりができてしまうのではないか……

 そんな風にさえ思えてしまう。

 タイムとキスをしたとき、そういったものは無かった。

 タイムは汗をかかない。トイレも行かない。血も流さない。

 それっぽく見せる演出(エフェクト)はある。

 しかしあくまで演出(エフェクト)だ。

 唇は柔らかかったし、決してカサカサなんてしていなかった。

 むしろプルップルだった。

 それでも、唾液は出てこなかった。

 だからこれが初めての、他人の体液摂取になるのではないだろうか。

 ……体液って思うと、なんか生々しいな。

 時子さんの体液、か。

 こんなの、意識しないわけがない。

 とはいえ、トレイシーさんが見ている。

 あくまで平常心を装って、箸を口に運んだ。

男子諸君、クラスメートの女子の食べ残しは食べられるかい?

女子諸君、クラスメートの男子の食べ残しは食べられるかい?

男女仲良しグループは、回し飲みとか普通にするんだろうな

あちしはみんなで喫茶店に入ったとき、周りの人が普通に回し飲みしているのを見て驚きを隠していました(隠せなくもなかったので)


お待たせしました

次回はタイムと時子のシーンです

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