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置き物さんの魔法  作者: 榎本あきな
白粉さん、「待雪草」
16/16

16 白粉さんと居場所

「イゥ・二ゥ・オァ・ヌェ・スェ・エォ、ミゥ・サィ・イゥ・ホァ・イゥ・二ゥ・オァ。バィ・ン・オァ・ヌェ・スェ・エォ、アィ・ナィ・チゥ・ホァ・イゥ・二ゥ・オァ」


 小さく唱えると、地面から真っ白な建物の屋根の上に向かって、光の階段が伸びた。

 その階段を、コツコツと鳴る足音を、できるだけ出さないように慎重に歩きながら、上っていく。


 上った屋根の上から、2人で話し合っているレイトさんとイージスさんの姿が見え、魔法で見えないようにしているにも関わらず、咄嗟に、屋根についている、真っ白で煤の欠片もない生活感の感じられない煙突の影に隠れた。

 見えないのだから、隠れなくても大丈夫だと理解しても、それでも堂々と煙突の影から出て2人を見るのは、なんだか怖くて、煙突の影から顔を少し出して覗き見る。


 話している2人は、見えない私に気が付く様子はまったくない。

 その2人のそばに、モノさんの姿は、見えない。

 やはり、毒魔法でやられ、戦闘不能になってしまったのだろう。

 私があの時、モノさんを助けに行っていたら……なんて、そんなことを小さな罪悪感と共に考えてしまう。


 そんなことをしても、回復魔法を使えない私には、モノさんの毒魔法を治すことはできないのだから、結局同じ結果になるのだと、頭では理解しているけれど、やっぱり、私のせいなのではないかと、思ってしまう。

 暗い考えを頭を振ることでなくし、モノさんのためにも、勝利を持ち帰ろうと気合を入れる。

 ……私たちのチームが勝ったら、もれなく強制的にご飯を食べさせられるのだけれど、それを踏まえてでも、勝つことは純粋に嬉しいと思うし。


 そう思いながら、煙突の影から出て、屋根の上から2人を見据える。

 そして、大きく息を吸い込んだ。


「チゥ・パィ・イゥ、チゥ・パィ・ワィ・エォ、モァ・ボァ・セォ・ハィ・キゥ。サィ・ホァ・ヨァ・ホァ・ワィ・ヒゥ・ミゥ・サゥ・イゥ・ホァ・ヂゥ・ルェ・パィ・スェ・ウァ」


 私の唱えた魔法が発動し、イージスさんを捕らえた……が、レイトさんにも発動するはずだったそれは、失敗したのか、発動することなく、むしろ彼に警戒心を持たれてしまった。

 レイトさんが捕らえられているイージスさんと顔を見合わせ、2人が頷き、レイトさんが逃げようとする。

 その予兆を感じ取り、咄嗟に呪文を唱えようとするが、すんでで止める。


 ……私の呪文は長く、呪文を唱えている間に、彼には逃げられてしまうだろう。

 失敗するかもしれない、逃げられるかもしれない……けれど、ここでチャンスを逃しては、私が勝つときはもう訪れないだろうと思う。

 ……呪文を短縮すれば、なんとか間に合うだろうけれども、今まで呪文短縮なんてしたことがない私が、成功するのか。


 ……賭けるしかない。



「光の膜」



 私がいるところと逆方向に逃げようとしたレイトさんが、自らの周りを覆い尽くそうとしている半球体の光に反射する透明な膜に気がつき、上が覆われる前に逃げようとしたが、ギリギリで囲まれてしまう。

 そのことに安堵しながらも、自らの媒体である短剣をつかい、膜を破ろうとするレイトさんを見つめる。


 ここで、仕留めるしかない。


 袋の鼠状態のレイトさんなら、普通だったら技術力が下という事でやられてしまう私にも、戦闘不能にすることができる。

 そうすれば、残りは光の鎖に捕まっているイージスさんだけになり、私だけでも容易く勝つことができる。

 そう思った私は、呪文を唱えようとして……やめた。


 失敗を恐れて、成功しやすい魔法を使うのは、全力で挑んでくるレイトさんに失礼だ。

 そんなことをするくらいなら、失敗してしまったら逆に私が倒されるかもしれないけれど“あれ”を使うほうがいい。


 小さく息を吸って、吐いて。


 覚悟を決めてレイトさんを見ると、私が何か行動に移そうとしているのに気がついたのか、こちらを見据え、短剣を構えていた。

 睨みつけるようにレイトさんを見たあと、小さく唱えた。




「線」




 体から、大量の魔力が抜けていくのを感じる。

 これは、失敗する時と同じ……でも、今回は失敗なんてできない、許されない。

 勝手に流れていく魔力を、それ以上の魔力を流し込んで無理やり馴染ませ、球体……媒体の、核と言えるべきその場所に、魔力をそのまま集めていく。

 一気に魔力がなくなったせいで、体が鉛にでもなったかのように重く、杖をもつ腕は小刻みに震えているが、それをこらえ、レイトさんに標準を合わせ続ける。



 そしてそれは、突然に放出された。



 糸のように細長く、針の様に鋭いそれは、まるで生きているかのように、核に収まりきらないと私が認識したと同時に、核からレイトさんに向かって、一直線に飛んでいった。

 放出した反動で、私は屋根の上で尻餅をついたが、痛みに呻くことも、ましてやレイトさんから視線を逸らすこともせず、ただ、私の魔力の行方を、目で追った。


 それは、私の作った光の膜を破壊し、レイトさんへと向かった。

 短剣を構えたレイトさんは、それに反応して受け止めるが……苦しそうな顔をして数秒後、勢いに負けて短剣が手から離れ、それはその勢いのまま、レイトさんの胸を貫通した。

 見た目は何も変わらないが、レイトさんの頭上にある赤い棒が、どんどん短くなっていき……やがて、何もなくなった。

 棒が何もなくなる直前、私を見てレイトさんはニヤリと口角を上げた後、鏡が割れて地面に落ちるかのように消えていった。



 その光景を見た私は、いつの間にか作っていた光の階段を下りていき、イージスさんの前まで来た。

 止めを刺そうとしたとき、何故か腕が動かないのに気がついた。

 杖を振り上げられない。

 ……これじゃあ、魔法を出すことも、何もできない。


「……本当に、似てる」


 私が疑問に包まれていると、動けないイージスさんが、そのままの状態で私に話しかけてきた。

 ……本当に似ているというのは、なんのことだろうか。

 一体、私と誰を重ねているのだろうか。


「人が怖いとこ、気を許した相手には笑顔を見せるとこ、こぼれ落ちそうな程大きな瞳、短い眉毛、鼻の高さ、耳の形、歩き方、杖の形……他にも、沢山」


 今、この場に全くそぐわない笑顔で、でも、まったく笑っていない瞳で、イージスさんは誰かと私の共通点を述べていった。

 これでも十分だというのに、思い出したかのように、イージスさんが付け足した。


「あっ、今回で言えば、相手のために全力を尽くそうとするとこ、土壇場に強いとこ、あと…………自分が勝ったら、どんなことでも、相手を思って泣くとこ……かな?」




 ほら、自分の頬を触ってみてごらん?




 言われるがままに自分の手で頬を触ると、確かに濡れていた。

 何故、どうして、と思う前に、イージスさんが言っているその誰かと私は、違うと感じた。


「……その人が誰かを思って泣くなら、私とは大違いですね」

「どうして?」

「何故なのか、どうしてなのか、私にもわかりません。でも、ただ一つ言えることは、私は違う理由で泣いているんです」


 だって私は、いつだって、自分の為だけに泣いてきたのだから。

 そんなに共通点があるのに、私とは全然違うその誰かが、私はとっても、羨ましい。

 私にも、誰かの為に泣ける心が、泣ける思いが、泣ける涙が、それらがあったら、きっと私は、もっと楽しく生きられたと思う。


 ……でも、そんな難しい事で悩むのも、今日で終わりにしよう。

 結局私は、そういう風にしか泣けないし、今、急に変わる必要はないのだから。

 未来で、そういう風に泣ければいいし、ルノ君の隣にも、焦って今やる必要もなくて、未来でそうなっていればいいのだから。

 ……そのための努力は、必要だと思うけれど。


 ―――だから、


「私とその人は、違うんです」

「別に、誰も君を代わりにしようなんて思ってないから、安心してよ。でも、5人の中で1番軽いとはいえ、君の意識をここまで変えさせるなんて、モノ君って凄いね」


 狂気を感じさせない、爽やかな笑顔でそう言われて、なんだか場に合わなくて、変なふうに感じた。

 私がその笑顔に怪訝な表情をすると、それを気にしないで、爽やかな、けれど、妙に暗さが残る笑顔で、私に言葉を投げかけた。


「……君と2人だけで話せる機会なんてそうそうないから、最後に、これだけ聞いておきたいんだ。……アイギス君のこと、知ってる?」

「……?女の子で、その方と同じ名前のいとこならいますけど……」

「…………そっか。ありがとう」


 元の、輝くような笑みに戻ったイージスさんは、にっこり笑って私にお礼を言った。

 ……今の質問に、どんな意味があったのだろうか。

 2人だけで話せる機会なんてそうそうないって言ってたから、たぶん他の人には聞かれたくない事だったのだろうけど……別に、聞かれて困るような質問では、なかったと思うんだけどなぁ……。

 そんなことを考えていると、イージスさんが言葉を発した。


「じゃあ、俺はこれで。っていっても、すぐに会うだろうけどね」

「え?それって、どういう……」

「また後で!」



「ハイアイヒール!」



 イージスさんがそう言った途端、目の前が真っ白になった。

 光が一気に視界に飛び込んできたかのような白さに、思わず瞼を強く閉じる。

 瞼の裏からでも感じる光の強さに、急にどうなったのだろうと頭の混乱が治まらない。

 それでも、徐々に落ち着いてきた光に、ゆっくりと瞼を開けると……そこに、イージスさんの姿は、影も形もなかった。

 未だ眩しくて、見えにくい視界の中、もしかして逃げ出したのかとも思ったが、彼はレイトさんが使ったような重力魔法は、一緒に来なかったことから使えないだろうし、自己紹介の時も、回復魔法以外はダメダメだと言っていたから、逃げたということはないと思う。


 ……ということは、自分で戦闘不能になったのだろうか。


 その事実に、混乱した頭と心が追いついた途端、私は杖を支えにして、真っ白な地面へと座り込んだ。


 私一人で、できたんだ。


 その事実に、なんだか目の前が潤んでいく。

 ここまで私ががんばれたのも、私があんな風に前向きに考えられるようになったのも、全部、モノさんのおかげだ。

 彼には、感謝しても、したりない。

 そう思いながら、ほとんど感じたことのない、魔力が少なくなった時に起こる倦怠感に、なんだか舞い上がっていた。




 胸が、焼けるように熱くなった。

 それは、一瞬のことだった。

 何が何だか、わからなかった。




 重力に従って、体が、世界が、ゆっくりと倒れていく。

 杖が、音を立てて地面に転がり、空気に溶けていくかのように消えていった。

 赤い棒が、短くなって、消えた。

 視界がどんどん暗く、狭く、小さくなっていく。

 ぼやける視界の中で、4つの足と、浮いている2つの足が見えた。


「何事も、油断大敵……ってね」


***


 顔を照らす日の光の眩しさに、思わず瞼を押し上げる。

 ゆっくりと目を開けると、そこには、黒い髪の毛の、心配そうに私を覗き込む少年……モノさんと、その背後に広がる、青空が見えた。

 私が目を開けたのに気が付くと、ほっとしたような顔をして、モノさんは私から少し離れた。

 上半身を起こし、何故色がついた世界に戻ってきているのか辺りを見回すと、腕を組んでいるレイトさんと目があった。


「……お前は、イージスを倒したあと、リリィのチームにやられたんだよ」

「ほら、だから言ったでしょ?すぐに会える……って」


 イージスさんとレイトさんの言葉に、血の気がどんどん引いていくのがわかる。

 どうしようと考える前に、モノさんへと向き直り、立ち上がって頭を下げようとして立ち上がり……足元が覚束なくて、地面へと座り込んだ。

 慌てて私を支えてくれた優しいモノさんに、私は視界がぼやけていくのを感じながら、口を開いた。


「モノ、ざん……っ!ご、べんなさいぃ……!!勝てっ、勝てなく、て、せっかく、モ、ノ、ざん、が、づぐっでぐだざっだちゃ、ちゃ、チャンスなのにぃぃぃいいい!!!」


 次々と溢れてくる涙もそのままに、モノさんに謝罪を伝える。

 モノさんが、自らの命をはってまで私を救ってくれたのに、私は、そんなモノさんに報いることができなかった。


 最後の最後で、油断して、倒されてしまった。


 向こうにはアンスさんがいるから、いくら巨大な魔力をもつ私といえども、勝てることなんてなかっただろうけれど、それでも、一撃だけでも、相手に攻撃を与えることだってできたはずだ。

 けれど私は、レイトさんとイージスさんを倒した満足感で一杯で、周りに目を配ることを怠ってしまった。

 最初に索敵を行った時に、場所は分かっていたのに。


 私の怠慢で、モノさんのくれたチャンスを、モノさんの努力を、モノさんの思いを、不意にしてしまった。

 モノさんには、謝罪してもしたりない。



「なんで泣いているんだ」



 ふと、耳慣れない女性の声が聞こえた。

 俯いていた顔を上げると、艶やかな長い黒髪と、宝石のような輝きを放つ真っ赤な瞳を持った、眼鏡をかけた綺麗な女性がいた。

 呆然としていると、レイト君から嫌そうな声が聞こえた。


「げ……フリュウさん……。なんでここに……」

「げってなんだ。っていうか、なんでここにいるのかは、情報収集が得意なレイトなら……って、あいつらいないのか」

「そうだよ。あいつらバラバラにして外の情報集めてるから、ここにいねーんだよ……。で、なんでフリュウさんがここにいるんですか」

「解析魔法士だから……っていえば、頭のいいお前ならわかるだろ。それで、なんでお前は泣いているんだ」

「ふぇっ」


 呆然とレイト君と綺麗な女性……フリュウさんとの会話を聞いていたら、突然話をふられ、驚いて変な声が出てしまった。

 それと同時に、呆然としていてどこかへ飛んでいたモノさんへの申し訳なさが戻ってきて、止まりかけていた涙が再び溢れ出してくる。


 それにぎょっとしたような顔をしながらも、私が話し出すまで待ってくれているフリュウさん。

 口調から私が苦手な感じの人だと思っていたけれど、案外いい人だな……なんてことを思いながら、呼吸を整え、フリュウさんに言う。


「……私は、モノさんがくれたチャンスを、無駄にしたんです。あと少しで倒されるって時に、自分が戦闘不能になってくれてまで、モノさんが私を助けてくれたんです。なのに、私はレイトさんとイージスさんを倒せたことに安心して、油断して、残りの2人に倒されてしまった……。私は、モノさんの為にも、倒さなくちゃいけなかったのに!!」

「……それは、本当にモノって奴が望んだことなのか?」

「え」


 モノさんを見ると、彼は困ったような微笑みで私を見て、そして、首を振った。

 ……じゃあ、私が頑張ったことは、無駄だったの?私の、勘違いで、私は、ずっと、頑張ってたの?

 再び零れそうになる涙の粒に、止まれと強く思う。

 ここで泣いたら、モノさんをもっと困らせるだけで、私が、勘違いで大泣きしちゃったんだから、また迷惑をかけるわけにはいかないわけで。

 ……でも、涙は止まらない。


「……人間ってのは、切羽詰まった時に咄嗟に考えるのは、自分の1番大切なことだ」

「大切な……こと」

「こいつの顔を見て、勝ってほしいなんてことが1番大切だと考えると思うか?」


 そういわれてモノさんを見つめ……私は、首を振った。

 モノさんは、そういうのにこだわらなそうだ。

 ……じゃあ、何を考えたのだろう。

 そう悩む私に、フリュウさんは呆れたようにため息をついた。


「……ここまで来たら、わかりそうなもんだけどな」

「ご、ごめんなさい……」

「別に、怒ってるわけじゃない。……お前のことだよ」

「……え」


 私の、こと?


 ……モノさんは、私が戦闘不能になると思ったから、私を助けたいと思ったから、ただそれだけで助けてくれたの?

 ……私の魔力が多いから助けたんじゃなくて、私が、仲間だったから、咄嗟に助けないとって思ったの?

 化け物と呼ばれた私を、対抗策を持っているルノ君以外が、ましてや、魔力を持たないモノさんが、勝つため以外に私を助けるはずがないと思いながらも、心が、それを否定する。


 モノさんは、私を仲間だって認めてくれた人で、そんな人が、勝つことだけにこだわるとは思えなかった。

 考え込む私に、再びフリュウさんの声が聞こえた。


「それに、もし残りの奴らに気がついたとしても、お前のその状態じゃ、ろくに攻撃なんてできなかっただろうな」

「……そう、ですか」

「今のお前の状態を、解析させて貰った。勝手にすまない。けれど、今のお前の魔力は、お前の基準で言うとあまり残っていない。それに加え、魔力が多いやつはその感覚に慣れてないんだ。そのまま残っても、今より体調を悪くさせて、お前の仲間達をさらに心配させる結果にしかならなかっただろうな」


 私が俯くと、何かが私の頭に乗った。

 何かと思って上を向くと、フリュウさんの手のひらが私の頭に乗っていた。

 驚いて固まっていると、手のひらはそのまま、私の頭を、まるで慰めるかのように優しく撫でた。


「次がある。これは、次に活かすための戦いだ。だから、また次に活かせばいい。そのために、今回負けて、学んだんだ」

「っ…………はいっ……!」

「……来るな……。じゃあ、私はそろそろ帰る。こっちでの仕事は終わったから、城に帰って今回の解析結果を書類に纏めないといけないからな」


 そういうとフリュウさんは、「喚」と一言だけつぶやき、その場から一瞬にして帰っていった。

 その直後、何もないところからリリィさんとメレーテさんとアンスさんが現れた。

 結界の部屋から出た彼らは、私のように色のついた世界に目を細めていたが、アンスさんだけは、大きい瞳を鋭くして、何かを探すかのように辺りを見回している。


《……傲慢……いや、色欲かな……。ちょっと薄いのが気になるけど……》

「どうしたのよ、そんな顔して」


 アンスさんの様子に気がついたリリィさんが彼に問いかける。

 リリィさんに声をかけられたのが嬉しいのか、一瞬嬉しそうな顔をしてから、真剣な顔で彼女に告げた。


《気配も匂いも薄いからわかりにくいけど、ここにさっきまで、色欲の悪魔がいた感じがする。薄いところから、ハーフの人か劣等種……該当するとしたら、フリュウさんかなって思うんだけど》

「悪魔?悪魔がなんでここに……」

「あの人は解析魔法士だ」


 真剣に話し始める2人の間に、レイトさんが入っていく。

 敬語ではあったけれど、親しげに話していたし、前から知り合いのようだったから、口を出さずにはいられなかったのだろう。

 面倒くさそうな、けれど、少し鋭い視線で2人を見つめながら言う。


「悪魔も、人間も、関係ない。あの人は、ただの解析魔法士としてここに来た。それに深い意味はねぇよ。あるのは、国と学校からの仕事だってだけだ。馴染みの俺が保証する」

《ふーん……。まぁ、悪魔の気配がしたから気になっただけだし、お姉さんに被害がないなら、僕は別にいいよ》

「あんたがそういうなら、信用できるんでしょうね。なんせ、特大の猫を常日頃から被ってるんだし」

「うるせぇな……」

《え?何?お姉さんに口答えするの?》

「なんだこいつ面倒だな……」


 そんな会話をしていると、メレーテさんがリリィさんの服の裾を少し摘んで引っ張った。

 それに気がついたリリィさんが、不思議そうな顔をしながらメレーテさんに向き直ると、彼は小さく呟いた。


「……先生の……」

「……あぁ!忘れてたわ。えっと、結界の部屋の中で、最後に残った私たちのところに先生が来たんだけど、私たちのチームが勝った事への祝いの言葉と、あと、解析魔法士に私たちの能力を測るように頼んだらしくて、来てるだろうってことを言われたわ。最後は、これからも精進しましょう……みたいな言葉だったわ」

「次回の、この時間、は……おって、連絡、する、って……」


 先生が言ったってことは、レイトさんの言葉を信じていなかったわけではないけれど、やはり、フリュウさんが解析魔法士なのは確かなのだろう。

 悪魔、というのが気になるけれど……と考えていると、リリィさんが悪巧みでもしそうな目つきで、楽しそうに言った。


「……そして、ここからは、“報酬”の時間よ!忘れてないわよね!!」

「ああ。覚えている」


 リリィさんのその一言で、レイトさんも口角が上がり、なんだか悪そうな顔になった。

 ……この2人、悪そうな顔になること多いな……。

 そんなことを思いながら、私は2人をみた。


「レイトとイージスのチームは負けたからなしだけど、メレーテのデッサンは絶対。残りは、モノのところだけど……勝利が、1位じゃないといけない、とか指定してないから、どっちでもいいのよね……」

「俺は、強制的に食わせたほうがいいと思う。戦ってみてわかった。細い。細すぎる。折れるんじゃないかとやってるこっちがヒヤヒヤしたからな……」

「そう……アンセちゃんは、どう思う?」

「ひゃいっ!?」


 レイトさんにそう言われて、青ざめた顔で精一杯首を振るモノさん。

 それを見ていると、突然リリィさんに話を振られて、またまた変な声で返事をしてしまった。

 恥ずかしいな……と思いながらも、モノさんを見て考える。


 彼は、強制的に食べさせられるのが嫌なのか、懇願の眼差しで私を見つめている。

 ……その様子を見ると、申し訳なくなっちゃって、思わず「やめたほうがいい」と言いたくなってくるけれど……モノさんの為なんです、ごめんなさい!!


「私は、ありだと思います」


 その途端、モノさんの顔が諦めの顔になった。

 そして2人は、さらに悪そ……楽しそうな顔になって、両側からモノさんの腕を掴んだ。


「善は急げ!さぁ、とっとと行きましょうか!」

「簡単に逃げられると思うなよ?」


 ……あれ、これ、選択間違えたかもしれない……。

 そんなことを考えながら、先に歩き出した3人を残りの3人で追いかける。




 ただいまって言える場所はまだだけど、賑やかな私の居場所が、できました。




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