Ver.……エンディング
昔。
少女を一人、買った。
女という生き物は嫌いだが、駒として役立つ教育をされているなら、いいだろう、と。
顔をいじり、発信機を埋め込み――ちょっと融通の効く、アンドロイドくらいに考えていた。
彼女は、よく働いた。
犬のように忠義を示し、想像以上の結果を出したのだ。
だが。
予想外の存在が、忠犬の心を乱した。
既に、この世にいない存在。
その女の謎の死を手繰り寄せたバカ犬は――最悪のカードをくわえて帰ってきた。
織田の描かれたカード。
そして。
彼の予定は、めちゃくちゃに引きちぎられた。
立場的に、自分が犬一匹守れない人間だと、思い知らされた。
そして。
馬鹿なことをした。
たった一度だけ。
犬のために、あらがったのだ。
本当に、馬鹿なことだった。
おかげで、痛い思いどころか、生死の境をさまよう羽目になったのだから。
同じ頃、犬も三途の川の手前をうろうろしていた。
たいした忠犬だ。
先に、この世に還ってきたのは彼の方で。
犬の魂はまだ、どこかをさまよっているようだった。
その額には、大きな傷が残っている。
犬は、傷など気にしないように思えた。
逃げなかった証の、向こう傷。
そんな――忠犬が、欲しかったわけではないのだ。
ただ、いうことをきくロボットであればよかったのに。
額の傷跡を、きれいに消してやったら。
犬は、目をさました。
なんら変わらない、彼に向ける瞳。
ああ。
自分の近くにいることを、誰よりも誇らしそうにする瞳。
無機質な駒を買ったのではなく、自分は犬を飼ってしまったのだ。
「ボス、準備できました」
いまも。
犬は、そこにいる。
「では、出かけよう」
女は、とても愛せない。
「楽しみですね、チョウさんのバースディ」
だが。
「そうだな」
犬なら――愛せる自分を知った。