表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クズ*ギブ~人間ギライの紙さま。~  作者: 稲穂 実


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
21/21

★第十九話 赤い幻影

遂に交わる!!!

「あの人がなんだって云うんですか?」

 とある日の午後。

 陽が一番高くなる時間帯に、僕は例によってメムさんに引っ張り出されていた。

 直射日光に旋毛が焼かれ、禿げそうだと文句を云ったところ、手近な喫茶店に入れたのは良かったのだが……。

「あの男は絶対怪しいだろ。なんか盗んだり人殴ったりしてそうだろ」

「なんすか、その偏見」

 僕らの視線の先には、窓際の咳で、貧乏ゆすりをしながらコーヒーを飲んでいる男性がいる。丹念に撫でつけられた髪。ピンストライプの細身のスーツを着て、サングラスを掛け、口ひげを蓄えている。この喫茶店は喫煙が可能らしく、灰皿には吸いかけのタバコが何本も押し付けられている。

 確かに、柄が良いとは云えない。

 この人はきっと、小さな子どもを抱きかかえることも、女性に笑いかけて薔薇の花束を贈ることもないだろう。そういう偏見が僕にもあるのは否定しないが。

「奴を今のうちに確保しておかねば」

「ちょ、ほんとやめて下さい。ほら、パンケーキ来ましたよ」

 今にも飛びかかっていきそうなメムさんを制し、食べ物で気を逸らせる。

 先日、メムさんは云った。

『俺達で事件を未然に防ぐ』のだと。

 あれ以来、そんな話はしていなかったのに、深夜にまた、ぎゃーっと叫んで、それに関してとんでもない秘策を思い付いたとかなんとか。

「『事件を未然に防ぐ方法』ってまさか、怪しげな人をとっ捕まえるってことですか?」

「そだよ?」

 メムさんはホットケーキを口いっぱいに頬張りながら、それしかないだろうとばかりに頷いた。なに小悪魔みてえに首傾げてんだてめえ。

「まさか、今までもこういうことを……」

「神様伝いにやってるんだよ。ヌンとかと一緒に」

「神様伝い?」

「そ、ヌンとかベートとか、俺とか、なんか神様センサーみたいなのがあってさ。なんか『はたらき』があると分かるんだよな。全部じゃないけど」

 早くも自分の分を平らげたヌンさんは、当然のように僕の皿に手を出して来たので、フォークで手の甲を刺してやった。

「くっそ、暴力反対!」

「見知らぬ人を搔っ攫おうとしてる人が何云ってんすか」

「すいません!! クリームソーダ!!」

「うわ、もう、うるさいなあ」

 俺はオーダーを取りに来てくれた店員さんに謝りながら、続きを促す。

「神様はさ、犯罪者をすぐに殺すわけじゃないでしょ。ま、殺人犯以外は」

「つまり、まだ生きてる犯罪者を監視してるってことですか?」

「ま、そんなとこ。犯罪者だってさ、改心する奴はいるよ。少ないけど。でも、俺達にビビッと届く奴らは、そういう奴らじゃない。またやる……可能性の高い奴らだけ」

「でも、それでもすごい人数でしょう? どうやって監視なんか……」

「そこで登場するのが【神様を見守る会】よ!!」

「はあ?」

「メンバーの中には、ネット? 機械? に詳しい子たちもいるし、探偵やってる子とか、肉体労働で体力と持久力には自信のある子とか、色々いて、監視にも全面協力してくれてて……」

「え、え、いや、ちょっと待ってくださいよ。【神様を見守る会】は、ただ神様のファンクラブみたいなものだって……」

「それは嘘じゃない。自助会みたいな感じでもあるし」

「だってこないだ、僕の仕事は、【神様を見守る会】じゃないって」

「そうは云ってない。あの時、君は、『神様を見守る会で神様を愛でることが僕の仕事なんですか』と問うたから、俺は違うと云っただけ」

 いや、その時に説明しろよ! 

「あの人はじゃあ、どんな罪を?」

 僕はピンストライプの男性を横目で見て、ごくりと喉を鳴らす。

「知らない」

「は?」

「今回は俺の勘だから」

「はああ?」

「神様なしでもイケるんじゃないかって思って」

 怒鳴る言葉も思いつかず頭を抱えている僕の横を、店員さんが通り過ぎる。僕は店員さんに釘付けになる。何故ならその手に持ったトレイには、巨大なパフェが乗っていたから。

 本当に巨大としか形容のしようがないパフェだ。あんなの誰が、どうやって食べるのだろうと、思わず目で追っていると、一番奥の、窓際の席に座る二人のテーブルへと運ばれて行った。

 大柄な男性の背中と、その向かいに座る目つきの鋭い男性の二人……。

 確か僕らの後に入ってきたお客さんだ。

「あ! 見て、奴が去ってしまう!」

「は?」

 メムさんが指さしているのは、先ほどのピンストライプの男性。もう帰るらしく、レジで会計をしている。

「ああでも、こんなタイミングでクリームソーダが来たあああああ」

「何に苦悩してんすか」

 自称犯罪捜査よりもクリームソーダを取ったメムさんを置いて、僕は手洗いに立った。例の巨大パフェテーブルの横を通る時、ちらりとテーブルを見ると、目つきの鋭い方の男性が無表情で黙々と巨大パフェを食べている。

 普通はシェア用なのだろう、カレー用サイズのスプーンはあと一つあるのだが、向かいに座る大柄な男性は手を付けず、彫りの深い顔でニヤニヤその様子を鑑賞していた。

 どういう関係? 

 などと訊ける訳もなく、トイレに向かう。

 さっさと用を足して出ようとしたところで、ちょうど入ってくる人とかち合った。こちらの胸と、相手の肩が軽く接触する。

 その瞬間。

 視界いっぱいに、赤色が広がった。顔に、ホースから出る水を当てられているような感触。赤い液体が、水しぶきのように降り注いでいるのだ。

 何とか目を開こうと努力する。けれどどこかで、事実を把握したくない、何も見たくないという裏腹な気持ちもある。

 やがて、赤一色の世界に、黒い亀裂が入る。その周辺だけ、赤い液体が掻き分けられるように移動し、肌色が覗いた。それはどうやら、円柱形をしている。

 そう、きっとこれは……。

「大丈夫ですか?」

 声に、引き戻された。

 赤色が引き潮のようにスーッと引いていく。

 代わりに目の前には、鋭い目があった。

「あ、パ……」

 パフェ、と云いそうになって慌てて口を抑え、

「すいません」

 と謝る。

 それはあの巨大パフェを黙々と食べていた男性だった。

「体調、悪いんですか?」

 男性が肩と腰を支えてくれているのに気付いて、僕は再び謝り、立ち直した。

「大丈夫ですか?」

 男性は繰り返し尋ねる。慣れた感じがするのは、こういう対応が多い職種だからだろうか。

「大丈夫です。ちょっと立ち眩みが……」

「ああ、気温差がありますから」

 気遣ってくれているのは分かるのだが、表情は厳しいままなので、ちぐはぐな感じがする。

「あ、えっと、」

 僕は段々と気恥ずかしくなってきて、

「パフェ」

「え」

「完食、頑張って下さい」

 と、謎のガッツポーズまで添えて、そそくさと退場した。

 何云ってんだ、僕。

「メムさん、帰りますよ」

「え、俺次は、ステーキでもキメてやろうかなって思ってんだけど」

「なんでデザートの後にメイン行くんだよ。じゃなくて、良いから帰りますよ」

 あの人とまた鉢合わせるの気まずいから。

「ええ~~い~~や~~だ~~」

「ワガママ云わないの!!」

 メムさんを引きずって会計カウンターへ行くと、何故か店員さんにお支払いは済んでいますので、と云われた。まだ食べる気満々だったメムさんが、というかそもそもメムさんという生き物が、僕がお手洗いに行っている間に支払いを済ます等というスマートなことができるはずないので、僕は首を傾げる。

「こんにちは」

 その声は、僕の首筋をぬるりと撫でた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ