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クズ*ギブ~人間ギライの紙さま。~  作者: 稲穂 実


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12/22

★第十話 相次ぐ失踪事件

今回、ちょっと惨たらしい表現あります。

苦手な方はご注意ください(o*。_。)o


作者は相撲五月場所を楽しんでいます。

上位力士の休場ラッシュ、霧島、今優勝せずいつするのか!!!

「いや~、今日のもド派手だったなあ。一面、真っ赤でさあ」

「当然の結果ですよ。【ゴミ】は処分されるべきですから」

「おお、シン君。【被害者】じゃなくて【ゴミ】か! そういう台詞がスッと出てくるのは、まさにジェネレーション・ギャップだな。圧倒的な若さ! 羨ましいな、テット!」

 肩に丸太(無駄に堅くて太い腕)が降ってきたので、俺はすぐさま体を捩って逃れた。空振りしたザインは、片足でおっとっとと跳んでいる。

「だってザインさん、こいつ、何の罪もない女性を攫っては切り刻んでたんですよ? ザインさんだって見たでしょう?」

「おう、まさに外道、鬼畜の極み、死んで当然だ!」

 二人がギャーギャー云っている横で、俺はデスク上のノートパソコンにもう一度目を戻す。タッチパッドを操作して、画面に映った映像を最初から流す。

 今日の昼に訪れた、あの部屋。その中央に男が立っている。あの奇妙な【もの】に成り下がった男だ。家具もなくやたらに殺風景なのは、あの部屋が男の【お楽しみ】の為に用意された部屋だったから。

 しばらくすると、画面の中にミニスカートを履いた女性が映り込む。女性は戸惑うように周囲を見回しているが、男は終始にこやかに取りなしている。そして、何か飲もうかと云いながらキッチンの方へ体の向きを変えると……次の瞬間振り返り、女性の首に紐状のものを巻き付けた。

 首に手をやり、必死で男から逃れようとする女性。酸素を求めて呻きながら、手脚を懸命にばたつかせている。しかし体格差で劣る彼女にはどうしようもない。

 この女性は、死ぬ瞬間、何を考えていたのだろうか。

 どうして、こんな男に付いてきてしまったのか。

 そういう後悔だろうか。

 あるいは、どうして、自分がこんな目に遭わなければいけないのか。

 そんな理不尽への怒りだろうか。

 それとも、判断を間違えた自分への怒り?

 生きたいという強烈な渇望、死への恐怖、痛み、苦しさ……。

 一体この一瞬で、どれほどの想いを抱え、その渦に巻き込まれているのだろうか。

 やがて女性は、人形のように手脚をぶらんと投げ出した。男はその細い肢体を、荷物のように引きずり、床の中央に据える。

 胸の前で奇妙な印を組み(恐らくオリジナルの儀式なのだろう)、天井を見上げて制止した後、キッチンへ入り、ステンレス製の工具箱を提げて帰ってきた。それを女性の横に、神経質にまっすぐにして置き――女性の肉体を扱う時よりも、ずっと丁寧な所作で――蓋を開いた。

 中には、無数の刃物や工具が……これが何に、どのように使われたのかは、映像の続きを見れば事細かに分かる。この男に関する同じような映像は、他にも無数にある。その数だけ、被害者がいるのだ。 

 生命への冒涜の一部始終が終わると、映像の画面は一度暗くなり、今度は【神様のはたらき】の様子が流れる。部屋の中央に寝かされているのは、今度は女性ではなく、彼女たちを惨殺した男自身だ。秘部にさえ何も身に着けず、生まれたままの姿を晒している。

 男の目ははっきりと開かれ、意識はあるようだった。特に縛られていないが、体の自由が利かないらしく、目だけが忙しなく動いている。そんな男のすぐ傍らに、もやもやとした白い影が揺れている。影というより、細長い光の塊と云う方が適当かもしれない。

 その光が、ふっと、男に寄りかかる様に動いた。

 同時に、男の絶叫が響く。筋肉の境がくっきりとした腕から、炭酸飲料を思い切り振って開けたように赤い液体が噴き出した。次に額、次に腹、次の足の裏、口から、鼻から。

 眼球から。

 液体の飛び出す、ブシュ、という音と共に、部屋は瞬く間に、深紅に染まっていく。

 体中の血をバケツに溜めて辺りに撒いたように、壁、天井、窓、四方八方すべてが赤に染まっていく。

 白い光は、踊っていた。

 左右へ、上下へ、男の周りではしゃぐように、男の絶叫の中で、自由に、楽し気に、動き回っていた。

 歌でも唄うように。この世界のすべてを祝福するように。

 そして祝祭の終わりには、綺麗に切り取られた肉体によってできた、あの井桁型のオブジェが出来上がっていた。

 この映像は、今日の捜査会議――と云っても、形だけのものだが――で流れたものだ。

 誰がどんな方法で撮ったのかは分からない。表情はやたらに鮮明。映像と云うより、自身の脳内の記憶を掘り起こされているような気持ちになる。

「やっぱり、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 不意に、後ろからシンが顔を出した。

()()()()()()()()()()、映像だけ見たら、こいつの一人芝居だよなあ」

 反対側からザインの顔も出たので、俺は床を足で蹴って、回転椅子ごと後ろへスライドする。

「まあ、声なんか聞こえた日にゃ、眠れなくなるね」

 ザインは勝手に椅子を引き出して、壊れそうな軋み音を立てて座る。

「いつも思うんすけど、この動画って、どこから送られて来てるんすかね?」   

「さあな。いつもお偉いさん宛にメールで届くんだよ」

「でも差出人のメールアドレスの欄、空欄らしいすよ。そんなことシステム上可能なんすかね?」

「もう、アタシ知らないってば~」

 気色の悪い声だ。

「それよりテット、例の失踪事件、なんか進展あったのか?」

「ない」

「ええ~困る困る~俺の出世に響く~」

 ヒゲの巨体が折った両腕を左右に振って迫って来たので、俺はまた床を蹴って回避しようとしたが、机のひしめき合った狭い部署の中では、もう逃げる場所もない。非常に無念だ。

「失踪事件ってあれっすよね。あの、年代とか職場とか、とにかくあらゆる点で共通点のない人たちが、一斉にいなくなってるっていう」

「おお、もう皆の噂の的だねえ」

「でも、俺はあれだと思うんすよ。神さまが、悪い奴らを消していってるんすよ」

「つまり、失踪者たちはみんな何らかの加害者ってことか?」

「だって、防犯カメラにも何も映ってないし、ほんとに跡形もなく消えてるんすよ? 人間には無理っす」

「加害者だという事実はない」

 俺は立ち上がり、ノートパソコンの電源を切った。

「え、じゃあ、なんで消えるんすかね? もし失踪が誰か悪い奴が関わって起こってるなら、とっくにそいつらは神さまに消されて終了してるだろうし」

「逆ってことだ」

「え? それってどういう」

「帰る」

「あ、おい、テット! 何か情報を得ているなら、上司である俺に――」

 ゴリラに追われる前に、足早に部署を出る。閉めたドア越しに、「この甘党やろうー!」と罵倒なのか罵倒じゃないのかよく分からない叫びが聞こえる。

「被害者」

 切れかけた電灯が点滅する廊下で、思わず呟いた。

 失踪者は、加害者なんかじゃない。全員ではないが、失踪人の中には過去に被害届を出している人物が何人かいる。それに、被害は必ずしも表に出るものばかりではない。法律で裁けないものもある。それがどんなに残酷で卑劣な行為でも。

 外に出ると、粘つくような空気が肌に纏わりつく。

 どんなに不快で、どんなに追い払っても、消えることはない。

「神はいる」

 きっとそうだろう。

 だが何故、神は俺にだけ聞こえるように、自分の姿を光として見えるようにしたのだろう。

 そこにはどんな意図があるのだろう。

 ……。

 まあ、いい。

 どっちだって関係ない。

 俺の瞼の裏には、いつだって血しぶきが飛んでいるのだから。


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