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クズ*ギブ~人間ギライの紙さま。~  作者: 稲穂 実


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1/8

この世界の終わりに。

 平凡。

 普通。

 その言葉を、僕がどれだけ欲したことか。

 僕の人生は、クズでカスで、ゴミ以下だ。

 産みの親は知らない。

 育ての親は殴る蹴る罵詈雑言しか知らない、養護施設の大人たち。

 歪んだ環境は歪んだ人間を作る。元々まともな人間でも、長時間そこにいれば、自ずとその世界の常識に染まる。水を型に入れて、氷点下で固めれば、型の通りの形になる。それと同じだ。人間の場合は固める要素が、周囲からの圧力だったり、肉体的あるいは精神的な暴力によるものであるというだけだ。

 僕を取り巻く世界と、そこに現れる出来事はすべからく醜悪で、その腐臭で周囲までドロドロに溶かしてしまいそうだった。

 そんな僕の頭にも、先日、ようやく天啓なるものが訪れた。

 そうだ。死んでしまおう。

 どうしてもっと、早くそうしなかったのか? 今となっては、本当に疑問でしかない。

 だがその理由をあえて探すなら、僕はきっと怖かったのだ。

 死ぬこと、その瞬間の苦痛、前後の恐怖。

 それ以上に、【希望】が怖かったのだ。

 何ひとつ良い事のなかった人生。

 愛だとか、思いやりだとか。

 そんな作り物の世界でしか触れたことのないものが、もしかしたら、一万分の一の確率でも、自分の人生に訪れる時が来るのかもしれない。

 そんな【希望】が、自分の死んだ一秒後に来る予定だったのかもしれない。

 ガラス越しに見る家族たち、恋人たち、友人たちが浮かべる、あのどうしようもない笑顔。そんな笑顔を、自分が浮かべる時が、死んだ後にもし来る予定だったなら?

 それを受け取り損ねることが、死ぬことよりも怖かった。

 だが、そんな情けなく震える日々からも今日でおさらばだ。

 ヒュウ、っと。

 冷たい風が通り過ぎる。

 時刻は丑三つ時。

 ネットの掲示板で見た、廃工場の屋上。

 度重なる侵入者たちのお陰で、入り口を塞いでいた門もチェーンも見事に破壊され、簡単に入ることが出来た。

「幽霊が出るには、ぴったりの時間と場所だな」

 楽し気な声を出した。自分が一番、嘘だと分かっていても、最後くらいは笑ったっていいと思った。誰かの為でなく、自分の為に。

 フェンスも何もない、真っ暗な空間で、まるで世界にただ一人だけになった気分だった。それはどこか小気味よく、もう誰にも、何にも傷付けられない、護られた世界だと感じた。自由で、気ままだった。

 不思議な高揚感に押されるようにして、屋上のへりに足を掛けた。ひとつ。次にふたつ。両方の足裏が、綺麗に並ぶ。ボロボロの、底に穴の開いたスニーカーも、ライトひとつない暗闇では見えない。何より、誰よりも憎悪している、自分自身の姿を見なくて済む。

「でも、やっぱり……」

 やっぱり、寂しいよな。

 力ない笑いと共に、真っ暗な穴へと、吸い込まれた。


『じゃあその命、もーらった』


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