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惚れた相手は敵国の英雄だった  作者: おじゃっち
3章 少女の時辰儀
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56話 子の望み

講和会議の二日後、キメラ第二次災害を取り扱う第二審の判決が下された。

ヴォク・ラテクの軍事記録を確認したところ、裁判時の総帥の発言は嘘偽りなく、関与はないと判断した。キメラ第二次災害は、第一次災害の放置による偶然の産物である。

しかし、第一次災害が軍部によるものであるならば、第二次災害の軍事責任も軍部が取らなければならない。

被害を受け、三十二年間苦しみ続けた国民の苦しみ。大切なものを奪った代償は重く、到底許されるものではない。

セーヌ条約における国民の尊重に則り、軍部唯一の幹部である五十四代軍部最高司令官ラジュネスに帝国追放刑を言い渡す。婚約者、総帥の地位、参政権、あらゆる財を剥奪する。

これはキメラ第一次災害の軍事責任であるキメラ討伐を完了したのち、執行する。


賢者リュイヌ卿の判決は、大陸全土に広まった。各国の新聞社が報道し、ヴァンジュレス未解決事件の真相と、それに対する厳粛な判決に、国民は歓喜した。


「ふざけんなっ!」

スィエルは新聞を叩きつけた。裁判の判決が報道され、判決に国民が大いに喜び、賢者リュイヌ卿へ称賛の声が贈られている。だが、新聞には、五十四代軍部最高司令官ラジュネスを悪女だとして、軽視する内容もあった。

戦争を引き起こす極悪人。人殺し。エテルネル卿を惑わした悪女。人の皮を被った悪魔。

蔑みの単語が連なっている。中には、今まで甘い蜜を吸ってきた罰が下ったという旨の声が上がっている。

それがより一層、スィエルの怒りを買った。

「何も知らない奴が勝手なこと言いやがって…今まで、ラジュネスがどれだけ苦しんでたかも知らないくせに!」

スィエルは激昂し、急いで外出の準備をした。一刻も早く、ラジュネスの下に向かうためだ。

「スィエル!」

突然、部屋のドアが開いて、レーヴが突撃してきた。その後ろにアルカンシエル公爵が控えている。

「なに?」

「何処に行く気だい?」

「ラジュネスのとこ」

返答の予想が出来ていたレーヴと公爵は顔を見合わせた。

「さっき、ヴォク・ラテクの貴族と話してきた。アバンチュールの属国でも構わないから、国民を守ってくれと直談判してきた」

「…ラジュネスがいんじゃん」

「ラジュネスは刑事軍事責任を取るために、地位と資産を手放すことが決まった。今、ラジュネスに白羽の矢が立っている。ヴォク・ラテクとしても、ラジュネスと関係を絶って、国として潔白を主張したい。

オレ様も、ヴォク・ラテクの意向には賛成派だ。それで、アバンチュールとヴォク・ラテクの国民が救われるんなら」

「話してきた?…救われる?」

スィエルは意味が分からず、レーヴの言葉を一つ一つ口にしていった。

「ねえ、まさかとは思うけどさ。ラジュネスを捨てるとか、言わないよね?」

スィエルの憶測。彼の切望した淡い希望の眼差しに、レーヴは目を背けた。彼女の行動で全てを察したスィエルは戦慄し、無意識のうちに空間魔法を展開しようとした。

だが、アルカンシエル公爵が彼を取り押さえた。

「放せって!」

抵抗するスィエルを暴力でねじ込む公爵は、酷く疲れた顔をしていた。

「意味わかんねえって! だって、三十年も前の話でしょ? その責任をなんで、ラジュネスが取らなきゃいけないんだよ!」

「最高司令官だからだ」

「普通に考えてみろよ。ラジュネスは十五歳だ。関与できないし、する気もないでしょ。そもそも、総帥も最高司令官の地位も無理矢理やらされてたんだよ!?

ラジュネスが苦しい思いをしてたの、知ってるじゃん。なんで、否定してくれないの!?」

スィエルは怒りを、大人にぶつけた。

「守るって約束してくれたじゃん。せめてさ、婚約破棄はやめてよ! ラジュネスは本気でエテさんのこと、愛してるんだよ。信用して、生きる理由にしてるんだよ。奪わないでよ!

生きていいって言ったくせに、理由を与えたくせに、勝手に希望を持たせたくせに、危なくなったら捨てるなんて…今まで会ってきた大人の中で一番最低だよ!」

「…」

「ラジュネスは大事なヒトの傍にいたくて、嫌な総帥に戻ってくれたし、嫌いな戦場の前線で頑張ってくれたんだよ?

エテさんでも、グロワール様でもいいから…誰か、ラジュネスの傍にいてあげて…これ以上、一人にしたら…もう、ラジュネス壊れちゃうよっ」

激昂していたスィエルが大人しくなり、涙ながらに訴えた。

「ラジュネスは、まだまだ…子供だよ?

助けてあげてよ…もう、頼れるのはここの大人しかいないんだから…」



第一・二次災害の判決が下され、軍部解体が一番に執り行われた。そして、ヴァンジュレス未解決事件の刑事軍事責任を取るため、ラジュネスが単騎討伐に出陣した。


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