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惚れた相手は敵国の英雄だった  作者: おじゃっち
3章 少女の時辰儀
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45話 太陽のごとく

船に波打つ波。大海原を駆けると、鼻を僅かに突く潮風。アバンチュール領海の重要地カタラクト要塞へと船を進める。

『風が気持ちいいのぅ』

甲板に蓬莱の賢者アヴニール卿が立ち、大海原を眺めた。


時は数日前まで遡る。

神帝教との全面戦争に向けて、ヴォク・ラテク主導の作戦会議が執り行われた。

総帥による指揮官ラジュネス。アルカンシエル公爵、レーヴ、賢者アヴニール。神人グロワールと、彼女の側近ロクザン。

『まずは、アバンチュールの重要地領海のカタラクト要塞の奪還。ル・モン山脈で隠密活動を確認した神帝教の一派の捕縛。神人ジュレ様の保護。ジュレ様は現在、海洋国家メル・オセオンの監獄で軟禁されています。場所は異なりますが、神人アンフィニ様もメル・オセオンで治療を受けています』

ロクザンの報告を聞いて、神人グロワールが発言する。

『ジュレとアンフィニは、恐らくじゃが洗脳状態にある。でなければ、戦闘狂のジュレが大人しくしているわけがない。保護次第、我は空の上で治療する』

『…ほう、貴様の腕なら傀儡にできるじゃろう』

賢者アヴニールが突っかかる。

『側近が怒るからのぅ…何より、ジュレを洗脳したとばれれば、あやつを慕う国民が反旗を翻す。安全策じゃ』

『ふん!』

賢者はそっぽ向く。世界地図を見ていたラジュネスが作戦を発令する。

『まずすべきは、神人の保護と捕獲。季節の変わり目で、アバンチュール領海とメル・オセオンの領海の海流が変わる頃合いでしょうし、海の利を最大限引き出せるのは我々の軍です。そして、ソレイユ殿は必ず海戦を率いるはず』

『…!』

『アヴニール様、お任せしました』

『うむ。そこな魔法使いも連れてゆくぞ』

アヴニールはレーヴを指名した。ラジュネスは二つ返事で承諾した。

『ソレイユ殿の出兵に伴い、手薄になったメル・オセオンを私とヴォク・ラテクの戦力…そして、アルカンシエル公爵で攻め入ります。ル・モン山脈の渓谷から進軍し、かの国の領土を占領。各地方の暴動で中央区の衛兵を分散』

『ジュレ様は都市部の監獄に収監されています。私とラジュネスで必ず奪還します』


とても実用的な戦術をラジュネスは持っていた。海流を利用するならまだしも、海流に乗って移動する海の魔獣サーペントを手懐けるという策略は予想もしていなかった。

(荒くれ者のサーペントを味方にできる交渉術。ロクザンも、流石はヴォク・ラテクの最高戦力だっただけはある。にしても…)

レーヴは甲板に身を乗り出して、船を満喫する賢者アヴニールに目線を送った。可憐な見た目であるから錯覚してしまうが、世界を知っている御仁だ。神人相手には、まあ、ラジュネスの采配も納得している。

だが、賢者の側近として、魔法特務隊隊長レーヴが出動することになったのは、どうも腑に落ちない。

「アヴニール卿」

『ん~~?』

「オレを責めないのか…?」

真剣な面持ちで問いかける。賢者は逆に問いかけた。

『叱咤の理由があるのか?』

レーヴは沈黙した。別に、ヴェリテの正式な保護者でもないし、魔法特務隊の後継者と言っても、何千年と先の話だ。守る道理はなかった。けれど、大人として守らなければならなかった。最終的には危険に晒してしまった責任がある。

『誤解しておるようじゃが、朕が出たのは、朕の意志じゃ。ヴェリテと一番に誓いを結び、今までソレイユから守ってきた。時の刻か、朕だけでは生まれを変動させることはできん。量産的に生まれた子供の一人になるとは思わなんだ。朕が与えた魔力を買われ、人間兵器になるとも…』

(アルカンシエル公爵から、ラジュネスの出自を聞いた。まだ詳しく聞いたわけじゃないが、スィエルの出自も量産的じゃなかった。ヴェリテだけ…そうなら、もう…)

『親がおらぬことに問題はない』

賢者は言った。

『生まれ、言葉、価値観、容姿…変化していくヴェリテじゃが、あの子の優しさはずっと健在じゃ。可憐な少女を朕は愛す。親がおらんでも関係ない。朕が愛していれば、ヴェリテは一人ではない。お主が愛想をつかしたとて…責める必要もない』

「それでも子供を泣かした責任はある!」

レーヴの気迫に、賢者は驚いた。

「オレはエクラとエテルネルくんみたいに、子供たちに熱心な方じゃない。だが、ヴェリテには生きてほしいとは思っている」

『そうじゃなあ…お主はそう言うと思っておる。あの子は、お主の話を心底楽しそうに聞いておった。もしやすると、此度の人生で、新しい軌道に乗るやもしれん。そのために、過去の因縁を断ち切りに来た。お主にヴェリテを守る心意気があるならば…と思うてな。お主を指名した』

アヴニールは空を仰いだ後、向き直る。

『殺す手もあるじゃろう。じゃが、ヴェリテは殺しを否定しておる。ソレイユとはいずれ交渉をする必要があった。それが今なのじゃ』

「話し合い…危なくないか?」

『ゆえに、指名した。ここに来たのは、ソレイユを一発ぶん殴るためじゃ。五体満足で捕縛しろとラジュネスには言われたが、まあ…数発殴っても問題なかろう』

賢者アヴニールは拳を握る。

その直後、正面に大船が見える。立派な帆には、メル・オセオンの印が縫われている。

『ソレイユのお出ましじゃな』

賢者アヴニールが不可思議な能力を使い、遠く離れた神人ソレイユの姿を捉えた。賢者の目に映るソレイユは怒りに満ち、口を動かし、詠唱を施している。途端に、海が荒波を立て、津波を生じさせた。船を飲み込むであろう津波を見て絶望する船員を横目に、レーヴは冷静に持っている戦力を発動させた。

「サーペント、今だ!」

レーヴの声が届いたのか、彼女らに味方している海の魔獣サーペントが海面に出、咆哮を上げた。超音波で津波を振動させ、荒れた海を凪ぐ。

海上戦に特化した神人ソレイユの先制攻撃を計画通り、無効化できたことに、レーヴは安堵する。

「敵の総数は?」

正面を凝視し、偵察を行っているアヴニールに尋ねた。すると、アヴニールは声を上げて一頻り笑うと、楽しいと満更でもなさそうに、レーヴの質問に答えた。

『一人じゃ』

「!?」

『船は一艘。そして、乗組員はソレイユのみ。若造め、随分舐め腐りおって!』

「おい、勝手に動くんじゃねえ!」

アヴニールは再度、能力を発動し、レーヴの制止を振り切って単騎突進した。


アヴニールが動いたことを察知した神人ソレイユは煩わしいと愚痴をこぼして、権能を発動した。すると、海は彼の意志を尊重し、彼の手足となった。

『殺して差し上げますよ、アヴニール』


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