95 地区分け。
『あー、まぁ広いからねぇ』
《上の方、つっても何処だって話だしな》
「便宜上ってヤツだな」
「成程、そう言う認識なんですね」
《まぁ、昔はちょっと諍いは有ったらしいけど、今は小さな事だけだしな》
『大昔に、アホが何処に線が有るんだ、って言って』
「で、地表断裂だろ。いや、逆に過ごし易くなったって言うし、俺らはコレが当たり前だけどさ」
『クソ大変だったろうよ、物資を運ぶにも陸路だろ?』
《本当にな、少し酔うが船の方が早いし、景色も良い》
「アレだ、今度観光船乗ったらどうだ、運河沿いは最高だぞ」
「はい、ありがとうございます」
求めるべき生の情報って、コレですよ。
いや、ココまで計略通りならアレですけど。
気楽。
こちとら庶民ですよ、王侯貴族と関わるとかマジでストレス。
『鼻歌が出そうな程にご機嫌ですね』
「なんせ元は庶民ですから、庶民最高」
そして今はゲルに泊まり、ココの庶民の暮らしを堪能中。
マジエコ。
歓迎にと羊を屠殺して頂いたが、血を地面に垂らす事無く捌き、余す事無く使う。
糞は燃料や断熱材として使われ、匂いは直ぐに慣れる程度。
塩ミルクティーの塩味は殆ど無し、コレで水分補給を行い、料理に何でもぶち込むしお菓子もぶち込む。
お世話代とは別にお土産を渡すと、入れて飲んでみろ、と。
確かに美味しかった。
料理の基本は塩のみ、茹でるか焼くか蒸すか。
なのに美味しい。
男は放牧に出掛け、女は乳搾りや糸紡ぎ、刺繍をする。
複雑さの無い、シンプルな暮らし。
お風呂は毎日では無いので、そこが問題だが。
正直、全然、ココで過ごせる。
ただ、侍女ズは不慣れだろうからと、3日で終了。
お客様扱いなのは大前提だが、現実逃避や帰省の感覚で非常に過ごし易かったので、何か有ればまた来たい。
《ココも、性に合いますか》
「はい、かなり」
チベット地区では、小麦と乳製品とお肉が等分に出る。
モンゴルはもう白い食べ物の時期の中、来客用にと生かしていた羊を頂いたが、チベット地区は肉類が更に豊富で調味料は塩と花山椒。
そしてココが、最も調味料も料理の種類も豊富。
中華料理と中東料理が混ざった様な、と言うか現に混ざって独特の食文化となっており。
中でもナッツ類や果物を良く摂取し、特にバランスを気にしながら食事を摂り、お茶の飲み方も豊富。
お風呂は毎日、トルコ式蒸し風呂だけれど問題無し。
ある意味、最も都会的な暮らしに近い。
基本的には3日間滞在し移動、となったが。
やっぱり最初のゲルが恋しくなった。
《ネネ、何で構ってくれないの?》
「すみません、満喫して忘れてました」
《何だ、お風呂の事を気にしてるのかと思ってたのに》
「最初は気にしましたけど、楽しかったので」
《楽しかった?》
「はい、おもてなしは十分でしたし、向こうでも観光資源になってるそうですから」
《もしかしてネネは、田舎の暮らしがしたい?》
「何処までの田舎かによるかと、流石に不便は、魔法が有るんですもんね」
《ウチの方にも安全な田舎も有るからね?》
「大変ですね、世界を知るって、こう実地も行ったんですよね」
《管理されてたからね、遊ぶ道具は全て知育玩具、言語は本場の者を雇用して世話係となって貰って。その国の料理が出されれば文化の話に繋がり、生地が有れば同じく文化や歴史が語られる》
「なのに庶民出の女に惚れてスライムになるとか勿体無い」
《知識だけじゃ成り立たないのは分かるでしょ?》
「まぁ、ですけど、確実に国には必要かと」
《知識を探求する欲が無くて、策略に向いたも同然なんだけどね》
「向き不向きが有るかと」
《じゃあ引き取ってあげて?》
「いや国には所属してて下さいよ、じゃないと後悔しそうなので」
《ココまでで何処が良かった?》
「暮らすとなると難しいですよね、ただ田舎の方が良いのは間違い無いかと」
《庭付きが良い?》
「程々に、出来れば中庭ですね、洗濯物が干したいので」
《早く一緒になりたい》
「新しい衣装が見繕えたら披露しますね」
そうして西側へ。
先ずは上のアルタイ。
ココにも名は違えどゲルが存在し、馬を食べ乳製品が主流の文化。
行った事は無いけれど、トルコとモンゴルを合わせた様な食事や文化。
そして下のペルシャは名の通り、ペルシャ絨毯から始まり、音楽だ芸術だとかが進化を遂げている。
非常に凝った品物が多く、目が楽しかった。
けれど、ココでも其々に3日間過ごし。
トルコへ。
トルコは永世中立国の1つ。
向こうで争いの多い場所はソロモン王国に一括管理されており、土地が接続している緩衝地帯でも有る。
今回はトルコで3日、過ごす事に。
『ネネ』
「民族衣装は特に無いんですが、何かご要望は有りますか」
『いや、直ぐに触りたい』
我慢大会の名称は変更となり、トルコでの3日間は皆さんの休暇と言う事になり。
最後に王様へご挨拶に戻り、次は緑の怠惰国へ行く予定です。
「とても楽しかったです、個人的に再び訪れたいと思います。遊園地なる案です、少しココに合わせ改良したので、後は帝国とご相談なさって下さい」
「何か、不便やご不満な点は」
「いえ全く、特に兵の方に良くして頂いたので、どうか宜しくお願い致します」
「そうですか、良かった、ありがとうございます」
何故、王は泣いてらっしゃるのだろうか。
「あの」
「楽しんで頂けました事、ご不満が無い事、誠に安心致しました」
「そんなにご不安が有ったのですか」
「元老院の策に巻き込まれた事は、甚だ遺憾でした、さぞ疑心暗鬼でらっしゃるだろうと。ですが、気兼ねなくお楽しみ頂けた様で、本当に、安心致しました」
だから姫様はコチラの様子を伺いたかったのか、純粋に心配して。
何てこった。
「超多民族国家ともなると、気苦労は絶えないかと、ですが大変素晴らしい国かと」
「あぁ、本当に、ありがとうございます」
王様と言うか、一企業の社長が本場の方に査定され、安堵した感じか。
申し訳無い事をした、後でちゃんと遊びに来よう。
「お忙しいとは思いますが、次はもっと、対話が出来たらと思います」
「はい、是非にも、はい」
流石にコレが策略なら、本気で潰す事を考えるわ。
『警戒しなくても大丈夫だったみたいですね』
「はぁ、ですね」
『ふふふ、僕や殿下の様な者ばかりでは無いんですよ』
「ですね、申し訳無い事をした」
『そこはご心配なさらないで下さい、警戒してしかるべきだと納得して下さっていたんですし。最も悲観的であり、現実主義的な方が、王として選ばれるんだそうですよ』
「なら、帝国の王は」
『そこは僕は知りません』
「どう思いますか」
『絶倫』
「あぁ、子孫繁栄は要ですしね」
『私見ですけどね、では、一休みしたら参りましょうか』
「へい」
そうして緑の怠惰国へ。
《どうも、来訪者様》
次は若い王様。
どうしたものか、疑った結果悲しませてしまったし、かと言って若いのは警戒したくなるし。
「スズランと申します、宜しくお願い致します」
《どうぞ何も無い所ですが、ごゆっくりお寛ぎ下さい》
「はい、ありがとうございます」
情報無しに考えるより、取り敢えずは勉強しましょう。