51 罰。
ネネの発案により、元老院へ碌でも無い案を出した者達の言い訳は、全て悪しき見本として残る事となった。
そして処分は、身内に適切な処罰を進言させ、見合ったならその内容での処罰。
けれど、もし見合わぬ内容なら。
見合う内容が出るまで、一族郎党牢へ入り続ける事になる。
《ネネは甘いよね、殺しちゃえば良いのに》
『殿下』
《向こうの方が命が重いから、仕方の無い事なんだろうね》
けれど、本当に重い扱いなんだろうか。
ココでは生きるにはあまりに苦労するだろう場合、子を魔獣へと捧げる、それは老いてしまった老人でも同じ事。
如何に苦無く素早く死を齎してくれる者と、繋がりを持てるか、そしてその対価を支払えるか。
そうした事が重視される。
あまりに苦しむ者を放置すれば、魔獣では無く悪魔や精霊が、全てを取り換える。
そう、全て、苦痛も何もかも全て。
けれど、向こうでは生かす。
それは本当に、重い扱い、なんだろうか。
『ルーイ』
《良いよ、君だけで報告に行ってくれて構わないよ》
どうせ、必要な会話以外は切り上げられてしまうのだし。
そう接するネネは、とても辛そうなのだし。
『だが、改めて謝罪をと』
《ネネは拘らないから大丈夫、もう行った方が良いよ、待たせるのは余計に印象が悪くなるよ》
どうせなら、許されない方が良い。
少しでも、何かを話してくれるなら。
《折角、私の快気祝いも含めてなのに、拗ねてるんですかね?》
《まさか、あのお兄様が》
『ふふふ、有り得るわね』
「大人げない」
『あら、誰の事、かしらね?』
「勿論、ルーイ様だけです」
《凄いですよお姉様、あのお兄様が拗ねるだなんて、きっとお母様達は今頃大笑いしてますわよ》
《そこまで?》
『そうよ、ふふふ、だって完璧な愛想笑いの冷血ルーイちゃん。だったのだもの、ね、レオンハルト』
「本当ですか」
『はい』
『とある事件が有っての事、よね』
《詳しく》
《私も聞きたいですわ、レオンハルト様から》
「ダメなら他を」
『子供の頃です』
当時、エル様より少し上の、ご年齢の頃です。
婚約者がいらっしゃらない殿下に、言い寄る女性は大勢居ました。
皇太子である事は勿論ですが、既にあの容姿でしたので、中にはお相手が居る方まで陰で迫る始末。
そこで殿下は、自分を奪い合わせる催しを開催しました。
とある構造物を作らせ、その最も高い地点にお座りになると。
手が届いたなら、その相手のモノになる、そう仰り女性達を登らせました。
結果は、惨憺たるもの。
ですが、殿下は微笑みを絶やさず眺め続け、最後の最後まで煽り続けました。
《何故、こんなに簡単な事なのに、誰も来てはくれないんだろう》
以降、殿下は構造物にすら近寄らず平伏し続けていた者の中から、選んでは断る。
そうして候補を減らし続け、とうとう、候補が居なくなってしまったのです。
「何処かで、何か、聞いた事が有る様な」
《何処でこんな、浮雲た〇し城?》
「古くない?」
《良く分かったね?》
ネネちゃん、脳内データベース検索中の顔。
真顔だから、ちょっと機械っぽい。
「あ、クッカーニャだ」
《クッカーニャ?》
「カーニバル、パレードの原点とも言えるお祭りなんだけど、一時期変異しちゃったんだよ」
《ほう?》
「お菓子や肉で出来た家、滑る棒の先に食べ物を刺して取らせるの、貧しかったり餓えてる人達に」
《誰が?》
「王侯貴族」
《王様も?!》
「カルロス3世、またはスペイン王・ナポリ王、ナポリ公とも呼ばれた人。1776年にはサド伯爵でさえビビったとされてる、中には真剣で食べ物の奪い合いさせてたから」
《え、マジ?》
「うん、日本語でも殆ど記事が無いんだけど、お兄ちゃんがね」
《お兄ちゃん》
「いや、パレードの原点って何だろうって言ったら、解説してる映像と記事を見せてくれた」
《また、噛み合わない》
「いや、知れて良かったと思ってる、何処の国でも隠したい事は有るんだなと」
《あぁ》
「で、大当たりでしょうか」
『あぁ』
「ふふふ、クッカーニャ」
あ、もしかしてネネちゃん、ルーイさんやレオンハルトさんにさせる気じゃ。
《あ!お姉様!ご協力させて頂きますわ!》
「いえいえ、エル様は綺麗な事だけ手掛けて下さい、折角の遊園地が穢れてしまいます」
《ぅう、面白そうですのに》
「では遊園地に生かして下さい、安定安全なクッカーニャ、本来のクッカーニャの姿を私に見せて下さいませんか?」
《お姉様、ちゃんと見てくれます?》
「勿論、私も責任者の1人ですし、遊園地は大好きですから」
この笑顔。
絶対、何か企んでるよぉ。
《ネネちゃん、何をお企みで?》
「最初は、2人にさせようか、と。でも、マジで何とかしそうだし、また策略に巻き込まれても困るなと思いまして」
《て?》
「悪魔さんに助力して貰おうかと」
《おぉ、振り切れ方が凄い》
「習うより慣れろ、お願い事をすると親密度が上がるので」
《あぁ、アレね》
「ぶっちゃけ、悪魔さん達の方が正直なので」
《確かに》
ユノちゃんと共に、暫く地獄に滞在して気付いた。
更に違う常識だけど、却って楽。
基本的に本当に全てが善意。
しかもコチラをか弱い認定してくれているので、策略に巻き込もうとすらしない。
実質、天国。
しかもヒナちゃんの執事、めちゃんこツンデレで超可愛い。
ユノちゃんからも、第3の癒し認定入りました。
第1はモフモフコンちゃん、第2はヒナちゃんとエル様、そして第3にツンデレショタ。
完璧な布陣。
マジで天国。
けど、東の国がコチラをかなり心配しているらしく。
どうしても顔見せをしなければならないんですが、ちょっと、億劫ですら有る。
けど、でも、遊園地を広めるにはコレしか無いワケで。
「はぁ」
《頼むつもり、あんまり無いんだ?》
「答えが出ちゃうので、ですね」
地獄が楽だった、もう1つの理由。
誰も宛がおうとしないし、誰も声を掛けて来ない。
ヒナちゃんですら子供扱いなのに、コチラはもっと子供扱いと言うかもう、珍獣扱い。
食べ物は奢られるわ服は贈られるわ、なのに遠くから手を振って終わりか、軽く励まされて終わり。
姫プって、この事か。
と何度思った事か。
それに、偽ユノが幸せそうな姿も遠くから見れたし。
《ネネちゃんを任せられる人が現れるまで動かない》
「あー、えーっと、それはそれで」
《意地でも探して?じゃないと心配で離れられないー》
「それは、ごめん」
《半分冗談だってば、あの地獄が有るんだし、陛下も居るし。けどお姉ちゃんとしては、そう欲張りたいじゃん?》
「ですよね」
地獄ではもう、姉妹と言う事で一緒に行動していたんだけど。
ユノちゃんがお姉さん認定されてたので、そのままにした。
そう年も変わらないし、ユノちゃんの方がしっかりしてるし。
でも、だからこそ甘えてばかりは確かに申し訳無い。
出来るなら、安心して旅だって貰いたいけど。
もう少しだけ居て欲しい。
《また策略に巻き込まれそうな匂いがしたら、次は一緒に地獄に逃げよう》
「うん、お願いします」