49 最悪最凶の偽ユノ。
「ユノちゃん、何で」
まるで事後に見える、けれど匂いは何も無かったと分かる。
何で、こんな事を。
《ネネちゃんが羨ましくて、ちょっとした意趣返しだよ》
単語の意味は分かる、でも、全く意味が分からない。
「ユノちゃん」
《2人も居るんだし、1人位は譲ってくれても良いと思うんだ?》
全く意味が分からない。
ユノちゃんがこんな事を言うワケが。
いや、寧ろ今までが偽装で、コレが本性なら。
「最初から」
《だって、どんな人か分からないじゃん?でもネネちゃんが試してくれたお陰で、良い人だって分かったし、ルーイさんは譲るんだし別に良くない?》
譲る。
「譲るって」
《大丈夫大丈夫、目覚めたら私を好きになる筈だから》
全く意味が分からない。
「ユノちゃん、だよね?」
《あはは、本物って、どう証明すれば良いんだろうね?》
「まさか、本当に偽者って事」
《向こうが何回も異世界を移動してたなら、私も出来て当然じゃない?しかも、ユノの次に私が異世界に行って、情報を補完してたら、ね?》
躊躇ってしまった。
即座に殺すべきだと考えていたのに、有益な情報を逃す事になるかも知れない、その事に躊躇ってしまった。
甘かった。
殺そうと思った瞬間、彼女の腕が枝の様に伸び、首へ。
「くっ」
《次はアナタの名前も姿も使わせて貰うね、あはは》
なんて、不完全な世界なんだろう。
安全装置もカウンターも無い、誰かが無双出来てしまう世界。
なんて不幸なんだろう。
コレから蹂躙される人々は、無辜の民。
善き民で、善人がこれから不幸になる。
なんて失敗をしてしまったのだろう。
物語ならどんなに良かっただろう。
夢なら、どんなに良かっただろう。
《ネネちゃん、ネネちゃん》
「ひっ」
《ひっ、って、大丈夫?凄い魘されてたよ?》
今さっきのは、夢だったんだろうか。
「夢と現実の区別を付ける方法」
《んー、その夢の始まりとか、何処まで遡る事が出来る?》
確かに先程迄の出来事は、ドアを開ける前を思い出せない。
けれど、今は眠る前に何をしたか、覚えている。
そして、どうしてこんな悪夢を見たのかも。
「はぁ」
《凄い悪夢っぽい感じだったけど》
「偽ユノちゃんが出て来た、しかもユノちゃんが訪れた後の異世界で情報収集してて、こうして偽ってたって聞かされて。枝みたいに伸びた腕で絞め殺された」
《凄い悪夢じゃん》
「本物の証明って難しいよねって、魔道具とか魔獣の存在が無かったわ」
《わぁ、私も見そう》
「悪夢過ぎる」
《ショックだった?》
「絶望した」
《盟約魔法しようか?》
「えっ」
《互いにしよう、うん》
「いや、でも」
《だって私が逆だったら不安だし、私は全然平気って言うか、寧ろしたい》
「いやでも」
《お願い、証明させて》
「ごめん、ありがとう」
《ううん、いつかしなきゃなって思ってたし、丁度良い機会だから》
正直、信じて貰えてるって、改めてそう思える何かが欲しかったんだよね。
「じゃあ私からで」
《ネネちゃん、悪夢の事でまだ何か黙ってる事有るでしょ》
「拒否権」
《ダメー》
多分、どっちかに関わる事なんだけど。
どっちだろ。
「レオンハルト氏のベッドで、裸で寝てて」
寝取り宣言したって。
《夢でも偽者でも、ごめんね》
「いえ、コチラこそ、変な夢を見てしまって」
《ううん、アレ、強烈だもんね》
虚言癖が居るって知ってる筈なのに、信じて貰える割合って少なかった。
それってつまり、防衛反応なんだって、教授が言ってたんだけど。
ネネちゃんは信じてくれたからこそ、コレだけダメージを追った、って事は。
やっぱり、信じない人って、それだけ弱いって事にもなるよね。
「正直、身近に居たらと思うと恐怖でしかないし、子供の頃で良かったねって思う」
《それはそう、うん、今もやってたらマジでヤバいと思う。あ、私はユノ・ナダギです》
「私はユノ・ナダギです」
《わっ、赦す。もー、不意打ち過ぎ》
「えへへ」
《真顔、逆に可愛い。音一 音々です》
「赦す、はぁ」
《魔法、マジ便利》
「向こうでも簡易の噓発見器が実用化されまくってくれれば、かなり平和になるのに」
《そこはアレじゃない?ほら、踏み絵的なのはマズい、みたいな》
「あぁ、そう利用されたら大戦争か、成程」
《はぁ、安心した》
「そんなに疑ってる様に」
《ううん、信じて欲しいけど、本当に信じて貰えてるか確信が欲しかったんだ》
「あぁ、アレは言う相手を選びますもんね」
《そうそう、でもネネちゃんになら何でも言える、けどネネちゃんは?》
「整理が、難しくて」
《だよねぇ、全然、常識が違うし好かれちゃうし》
「ぅう」
《どうだったら、受け入れられた?あ、解除しようか》
「うん」
《よし、このまま話し合おう》
私も分かんないんだよね。
どうしたら良いか、どうすべきか。
「最初から、間違っていたんです」
先ず、隔離です。
今回の様に疫病を持ち込む可能性は幾らでも有る、暫く隔離の後、少数から引き合わせを行う。
そうして相性次第で、男女を世話役とし、先ずは段階を踏みココを知って貰う。
そして世話役には、適切な距離を保ち、過剰なまでに接触はさせない。
常に専用の侍女や侍従を用意し、同じく教育係も揃える。
尚、勤務の無い場合は、本来就いていた仕事に従事し続けて頂く。
『だが、約180年』
「お言葉ですが、人種が杭を殺してから、そもそも周期が乱れたのでは」
《だとして》
「記録が確かなら、定期的に来訪者様は来ていた。ただ悪しき者も含まれていた、そして杭を打倒した事で、確かに人種は認められましたが。新たに正しく杭が穿たれるまで、アナタ達には何も出来無かった。それどころか、悪しき者を掃き溜めに現れる様に仕向けたのも、人種では無かった」
掃き溜めへの仕分けは、悪魔とされてしまった豊穣神、バアル・ゼバブ王。
天使での名は、ヴェフイヤ。
王とも話したけれど、実に優しい方だった。
アレから更に勉強した。
黒の強欲の国での歴史、地獄での歴史。
まだまだ、知るべき事は有るけれど。
《それは》
「何百年も安定を乱した分際で、たった180年の空きから、ココまで事を疎かにした。恥ずかしくないんですか、先人達に顔向け出来無い、そうは思わないんですか」
《確かに行き違いが有ったが》
「その行き違いから国が滅ぶかも知れない。幾ら安全装置を付けていようとも、人の恨み、憤りは防ぐべきでは無いですかね」
『では、どうすべきだったと』
「はい、コチラです」
来訪者用の省庁。
まだ骨組みしか出来ていない書類だけど、それは敢えて。
今度はコチラがテストする番だ。
コレだけ悩まされたんだ、無能は死ね。
『本当に、申し訳無かった』
《直ぐにも人員整理をさせる、直ぐにも》
あっけなかった。
既に想定していたのだろう早さで、議会に次々と人が集められると。
コチラを見る度に、ギョッとしていた。
何故、どうして集められたかが分かったのか。
直ぐにも青くなり、言い訳を始めようとしていたけど。
魔法で声を封じられており。
更に慌てふためくだけ。
「待つ間、言い訳をお聞かせ頂きたいのですが」
『では、1人1人、僅かだが弁解の機会をくれてやろう』
《お優しい来訪者様に、感謝しなさい》
うん、凄いつまらない言い訳だった。
《良かれと思い~》
「悪意は無かったー」
《そんなつもりは~》
「ちょっとした行き違いがー」
《男だから女心が分かるワケが無い》
「王子達が余計な事をしたからだ」
《ソッチの倫理観が可笑しいんじゃないか》
「どうせ捻じ曲がった者だから失敗したんだ」
《非を認めない》
「謝らない」
《対処法が出ない》
「はぁ」
『すまない』
「いえいえ、向こうにも沢山居ますから」
《そうそう、気にしない気にしない》
「いや、気にして欲しい、まるで膿み出しをさせられたみたいで不信感しか無いんですが」
あ、えー?
《ごめんね、ネネ》
「ほらー、だって最初から困り顔なんですもん、何ですかアレは。単なる茶番じゃないですか」
《あ、そうだったの?》
私はネネちゃんとは違う場所に居て、元老院の方々の顔が見えなかったから。
ネネちゃん頑張れ、ネネちゃんカッコイイ。
とか心の中で応援してたんだけど。
「やっぱり、元老院万歳、流石帝国」
《キレてるキレてる~》
「クソがー、だから嫌だったんですよ、こう上と関わるのって。もう、本当に嫌、人を箒や塵取りだとでも思ってるんですか。便利グッズですか、お掃除要員ですか、そのついでに見極めですかそうですか。良かったですね思い通りになって、はいはい、偉い偉い、凄い凄い」
ネネちゃん、マジ切れした。
で、電池切れた。
ソファーにゴロンってしちゃった。
《一緒に次に行く?》
《それは》
『本当にすまなかった』
「知ってたんですか、知らなかったんですか」
《知らなかったけど》
『薄々は、だがしっかり報告も進言もしていたんだ』
《ネネは賢いから、いつか気付くし、その時はきっと挽回も難しいって》
「なのに、続行したワケですか」
『どう言おうとも、反応を得られなかったんだ』
「そこはもう謀反起こす勢いで何とかしてくれれば、まだ、見直す機会も有ったと思いますけどね」
『それは、確かに、俺がすべき事だったかも知れない。だが』
《この計画を無駄にするワケにもいかないのは》
「分かりますよ、だから余計に腹が立つ。しかも気付いたのはさっきですしね、どうせ大した事は無いですよ、皇太子妃失格で清々しました、地獄へユノちゃんと行きますさようなら」
コレはちょっと、私も気付かなかったし。
擁護しようが無いかな、と思ってたんだけど。
《少し宜しいか》
『すまない、来訪者様、少し良いだろうか』
元老院の方が来た。
大丈夫かな。




