40 侵略。
ネネちゃんを休ませて、ルーイさんとエルちゃん、陛下にご報告。
レオンハルトさんはお仕事、だって。
《それで、ミモザはどう思う、ゲヘナの常夜について》
《スズランが言ってた通りなら、必要悪だと思います》
《なら、そうした場は、似たモノは有るんだろうか》
《いえ、無い、あ。大昔には姥捨て山が有ったそうですけど、現代には無いです》
『なら、差別や偏見はどうかしら?』
《実際に偏見や差別は有ると思いますけど。他と比べてどうなんだ、となると、言わない人が多いなと思いましたね。言う理由が無いですから》
『なら、言う理由が有るのね』
《はい、同族意識を高める為や、らしさを強調する為に》
あぁ、呆れてる。
分かる、私も呆れたもん。
『ごめんなさい、もう少し詳しく良いかしら』
《あ、はい》
男らしさ、女らしさは勿論。
その民族らしさ、を大事にしなければならない、しなければ除外されちゃう。
結局は差別を助長させる様な事でも、アイデンティティだからと、時には悪しき行いをしなければならない事も有る。
それは、他の民族を虐げる事、悪しざまに言う事。
そんなんじゃ、一生、差別は無くならないのに。
今でも、他国から嫁いで来てくれたお姫様を悪者扱いし続けてる。
今でも、話し方に一々文句を言う。
『では、アナタの国には無いのね』
《無くは無いです、訛りが有りますから》
大昔は、訛りに対して確かに批判的だったり、差別的だったりしてたらしいけど。
少なくとも私の周りには無い事だし、誂うにしても、気心が知れてる仲だけ。
それに、私にとっては羨ましい個性の1つ。
だって、真似しようとしても難しいし。
『そう、ある意味で既に越えた場所に居るのね』
《まぁ、ですね》
でも、君の国で偏見や差別に遭った、って言われた事も有った。
じゃあ詳しく教えてって尋ねると、信じないのかって論点をズラしてきたり、無視してそのまま被害だけを言うか戦争の事を持ち出して攻撃しようとしてくる。
コレって女だけじゃなくて、男の人も同じ目に遭ってる人が居るんだよね。
なら、どうするか。
逃げるが勝ち。
異国でこそ同郷の人と必ずコミュニケーション取る様になる、危ない情報を共有する為。
良い情報交換もするけど、真っ先にお互いに忠告し合う。
それこそ、どうして言ってくれなかったんだって、逆恨みを避ける為も有るんだけど。
旅行先で事件に巻き込まれるのも、死なれても凄く嫌だしね。
《差別や偏見を武器にする者が居るんだね》
《少し、侵略しちゃって欲しいなとは思いますよね、途中の土台から崩して欲しいって我儘付きですけど》
《侵略》
『ふふふ、してしまうかも知れないわね、とだけ言った事よ』
《どうか誤解しないで欲しい、帝国にそうした意図は》
《あら、お兄様には無くても、私には有るかも知れませんわよ?》
《エル》
《愚かな統治者に困らされている他国の存在を知ったなら、侵略するのが帝国の義務。例え異世界であれ、困っている者が居るなら統治すべきと考えて当然かと、それともお兄様は放置する利益が既に見い出せてますの?》
《エル、侵略、とは向こうにしても強い言葉なんだ》
《分かってますわ、侵略行為とは悪しき事だと思われている事も、ですけれどそれだけどうしようも無い国が有ると言う事。ですわよね?》
《はいー、正直、政治家は私腹を肥やす金持ち。程度にしか思われてない場所も有ります》
『それは本当に不幸な事だわ、どちらにしても、ね』
《はい、それこそ民が変えたくても軍が強かったり、そこに介入するにしても変な制約が有ったり。ココの帝国同等の国が、寧ろもう、がんじがらめだったりですから》
《で、お兄様は放置する利益について、どの様にお考えなのかしら》
《2人がこうして育った以上、無闇に刺激する事は避けたい》
『そうね、変化が全て良い方向へ向く、とは限らない。それに、そう運命にまで手を出す事は、不測の事態を招く事となる。間違ってスズランの姫を消してしまっては、後悔しか残りませんもの、ね?』
《ん?どう言う事でしょう?》
『世界を変えるなら、そもそも、過去を変えた方が早いでしょう?』
《あっ、成程》
『そして例え過去を変えなかったとしても、その時を変えてしまった時点で、新たな因果律を生んでしまうかも知れない』
《で、私もスズランも、ココから向こうに引き戻されてしまうかも知れない?》
『それだけでは無いわ、因果律の清算の為、アナタ達は死ぬかも知れない』
《だから侵略はしない、って事ですか?それとも前例が有る?》
『ふふふ、その両方、ね』
《おー、教えて貰えますか》
『簡単に教えるけれど、1度だけ有ったそうよ、魔法を根付かせ世界を改善しようとした。けれど魔法が根付いた頃、その世界への行き来は叶わなくなり、そこに留められてしまった者が居た』
《あ、だから帰る術は有るかもなんですね》
『それこそ行き来の術も、けれど人種には失われた術、それらを主導したのも人種なの』
《それも、善意だったんですよね?》
『その世界には、自然崇拝しか無かったそうだけれど、変わってしまった』
《あー》
そう言えば有ったなぁ、未だに未開の地とされている場所に行って、恐らく亡くなっちゃってるだろうって事件。
『ふふふ、そこまで分かっていても、ココでも排斥しようとはしないのね』
《はい、そこはスズランと合意してます、信仰するだけで他者を巻き込まないなら放置。って》
『寛容ね』
《良い部分も有りますし、悪い部分に関しては良く知らないので、専門家にお任せしたいって所も有りますね》
『そう、ありがとうミモザの姫、もうお休みになって』
《はい、お疲れ様でした、失礼しまーす》
簡単に済ませて貰えて助かった、詳しく聞いてたら、多分だけど知恵熱出てたと思う。
うん、ネネちゃんには明日聞かせよう。
『ねぇねぇ』
「はい、何でしょうか」
『エッチしようか?』
「何故」
『だってほら、嫌な事を忘れるには良いかもって言ってたから、俺がメスになっても良いよ?』
配慮の仕方が異次元、と言うか異世界。
確かに異世界ですが。
「男でしても、今だと余計に嫌な気持ちが後から襲って来そうなので、止めておきます」
『アレがあのゴミ捨て場に来てたら、気が晴れる?』
「あぁ、確かにそうですね」
『ネネは良い子なんだし、幸せになって欲しいんだけど、何をすれば喜ぶ?』
「脚のマッサージ、歩き疲れました」
『してあげる』
「なら影さんで」
『えー』
《お前は撫でられていれば良いさ》
『そっか、じゃあ顔を舐めるのは?』
「却下で」
『えー、分かった』
「何でこう、常識の差異が有るんでしょうかね」
《コレは野で100年生きていた程度、人と関わりが少なかったのだろう》
『関わってたよ、大人になると減るけど、親友も居るし』
《ほう、だとしてソレと幾ばく会っていない》
『んー、5年とかだけど』
「おい待て、その親友と出会ったのは何年前ですか」
『確か、80年位前かな』
「影さん、人種の平均寿命」
《ココでは90程度だが、性別次第だな》
「コンちゃん、何で人型になりたかったんですかね」
『ソイツとご飯を一緒に食べる為だけど、まだまだ元気だし』
「会いに行きなさい、コレは命令です」
『でも明日も』
《人種の短命さを侮るな、そして未だに息災ならば、飯でも食って来るが良い》
「そうしなさい、送らせます」
『分かった、直ぐ帰って来るから』
「はいはい、心配しないで、無茶はしませんから」
『じゃなくて、他のを受け入れるならちゃんと相談してね?』
他の。
そうか、良き心根チートで仲間を増やし放題なのか、成程。
《余計な事を》
「いえ、大変有意義なご意見でした、ご相談については必ずさせて頂きます」
『うん』
「さ、行きましょうか」
『乗せてあげるよ、疲れたでしょ?』
ダメだ、脳が死んでる。
コレで暫く会えないかもと思うと、大きな狐の背に乗るのもアリかも知れないと思っている。
いや、寧ろアリなのかも知れない。
出来るなら平和に怠惰にと思っているのだから、甘えたり情けない格好を曝す事にも慣れるべきで。
「お言葉に甘えます」
『うん』
ネネちゃんの死体が、大きくなった狐さんによって運ばれてる?
《ネネちゃん?》
「あ、お疲れ様、お戻りで」
《うん、どうしたの?》
「送り届ける為、運ばれてました」
『親友の事を言ったら会いに行けって言うから、ちょっとだけ行ってくるから、ネネを宜しくね?』
《あぁ、成程、勿論ですとも。ゆっくり楽しんで来て下さい》
『直ぐ帰って来るし、本当に宜しくね』
《はい、じゃあ同行しても?》
『乗せてあげないからね、今日はネネだけだから』
《はい、是非ご堪能下さい》
ネネちゃんは驚いた後、ちょっと気まずそうだったけど、直ぐに諦めて背にもたれたまま運ばれ始めた。
何か心境の変化が有ったんだろうけど、どうすればこうなるんだろ、不思議。
『あれ、何で寝てるの?』
日暮れだけど、まだ早い。
いつもなら仕事をしている筈なのに。
「あぁ、君か、分からなかったよ」
『ねぇ、具合が悪いの?』
「そうとも言うが、まぁ年だ、人種は短命だからな。だが、コレでも長生きな方だぞ、もう100だ」
『俺達にしてみたら、まだまだ若いのにね』
「だろうな、君の若さには驚いたよ、あの頃は本当に小狐だったと言うのに」
『もっと長いのは長く生きるんでしょ?』
「それもなぁ、才能だとか、そう出来る者だけだよ。僕はね、コレで良いと思うんだ、欲張ると天罰が下るって言うしね」
『そんな古い事、まだ気にしてるんだ』
「親の因果が子に報いる、なら、欲張らない事で少しは帳尻が合うかと思ってね」
『一緒にゴハンを食べようって言ったのに、遅くなってごめんね』
「そこまで老いてはいないから、困るんだよ。1つ、頼まれてくれないだろうか」
『痛いんだね』
「アチコチな、それにもう、かなり耳も遠くなった。けれど、死よりも衰える事の方が怖い、呆けてしまう事が何より怖いんだよ」
『どうしたい?』
「先ずは食事をしよう、孫娘のオムレツは絶品なんだ。もう少ししたら帰って来る筈だ、それまで君の事を聞かせておくれ」
『うん』
それから今までどうしてたかと、ネネの事を少し話してると、似た匂いが帰って来た。
良かった、ちゃんと血が繋がってるし、濃さもちゃんとしてる。
《あ、あの》
「彼は例の狐だよ、オムレツを頼めるかな」
《うん、待ってね!直ぐに作るから》
うん、愛されてる、良かった。
『良かったね、良い子で』
「やらんよ、孫娘以降にしてくれ」
『いらないよ、やっぱり、同種が1番だよ』
「とある神話では、神が美しい娘の方を選んだからこそ、人種は短命だとされている。けれど、僕としては、丁度良い長さだと思うよ」
『そんなに嫌な事が多かった?』
「いや、十分だったと思える長さが、ココまでと言う事なんだよ」
『俺には足りないのに』
「短命には意味が有ると思うんだ、それこそ蝉には、短命でいてくれて有り難いと思うしね」
『そんなに五月蠅く無いよ』
「それは短命だからこそ、かも知れない。ココに長い命を与えられたら、僕はきっと、違う生き物になってしまうと思う」
『それでも、俺はもう少し長生きして欲しい』
「ありがとう、君は良い友人だよ、ありがとう」




