41 死生観。
コンちゃんを送り出した時には、せめて会えればと思っていた。
けれど、ココの当たり前は違う、その事をコンちゃんが帰って来た後で思い出した。
「ごめんなさい」
『何で、あ、間に合ったから大丈夫だよ。言ってくれなかったら会えなかったなって、その事だから』
「命を、奪いましたか」
『あぁ、その事で謝ったんだ。うん、でも大丈夫、誰も嫌な思いはしてないから』
「ココの常識が、頭から外れていました」
『俺も、人種の短命さを忘れてた、ずっと元気だったから』
「どう、お付き合いをされてたんでしょうか」
『最初は月の半分で、大きくなるとどんどん減って、でもアイツだけは毎月来た。それでももっと大きくなると会えない時が有って、そしたら子供を連れて来たから、会わないとどんどん変化するんだなと思って』
敢えて会わない様にしていたら探され、泣かれ、それがまた面白かったらしい。
だからこそ頻度も何もかも敢えてバラバラにしたり、敢えて約束をしてみたり、しなかったり。
《人が魔獣と契約するには、こうした事を頼むのが殆ど、どうせお前も》
『ううん、頼もうとしてたけど止めたから殺した。怖いって言ってたのに、一緒に寝ようって言ったから殺した』
影さんは多分、相当数の臨終に立ち会ったのだと思う。
中には取り入ってから、懇願されたりもしたのだと思う。
《なら、どうして暗い》
『ネネも、あっと言う間に死んじゃうのかなと思って』
「あの、アナタの平均寿命は」
『大体300年、まだ半分もいってない』
《私に寿命は無いが、子孫を得ると死ぬ事になっている》
「何故」
《不死は悪魔に与えられた呪い、とされている、不死とはつまり忌むべき事なのだよ》
「死にたいんですか」
《そう思える程の何かを得る、それが子孫なのかを確かめてみたくなった程度だ》
『あ、ネネ、ありがとうね』
「そんな、そんな覚悟も無いまま送り出してしまって」
『でも良い事だから大丈夫、ごめんね、ネネが違う世界で生きてたのも忘れてた』
《葬儀に立ち会ってみると良い、お前が思うよりも、遥かに悲壮感は無い筈だ》
「葬儀は大体、いつ行われるんでしょうか」
《亡くなり3日目には焼かれる事になるだろう、そして灰を墓と好む場所の2つに埋める》
「行っても良いですか」
『俺は顔を出さないけど、うん、大丈夫だと思う』
《だが人種には相談すべきだろうな、他人と幾ばくか関わる事になるのだから》
「はい」
《我々が行く、休め狐》
『うん』
そうしてコンちゃんが影に沈むと、人型になった影さんが。
《そう警戒するな、アレとは違いさして私に嫉妬心は無い》
「では何故変身しました」
《私も抱えていってやろうと思っての事、大した意味は無い》
それこそ嫉妬心では。
一瞬そう思ったものの、彼が経験したがりなのだと思い出し、嫉妬心案は消え。
本題を思い出した。
「かなりの数を看取られましたか」
《3桁もいかぬ、そう物好きでは無いのでな》
「何故、看取るのでしょう」
《最初は願われた故、ただそれだけだった》
断る理由も無く、ただ願われ、ただ叶えた。
単なる暇潰し、その暇潰しに対価を要求するなど、烏滸がましいとすら思っていた。
だが、同種に叱られた。
蛇となれば対価無しに死を賜われる、そう流布されればどうなるか、と。
考えてもいなかった、その事も見抜かれており、そのモノは即座に答えを出した。
「人種との関わりのバランス、でしょうか」
《そうだ、蛇だけに頼んでは蛇ばかりが人と関わることになり、時には人種を嫌う蛇に迷惑となる》
そして偏りが諍いを生み、平和を壊すだろう。
決まり事には理由が有る、例え愚かに思えたとしても、その決まり事が出来た理由を考えよ。
私は直ぐに対価を得に向かい、向こうも対価を差し出したが、そこで私の浅慮を更に思い知らされた。
彼の妻、後妻が自らの幼い子を差し出した。
私は正当な対価では無い事を悟り、悔いた、交渉とは実行前にすべき事。
一連の流れを軽視し、無視した事で、ある種の運命を捻じ曲げるまでに至ってしまった事に焦りを覚えた。
そんな中、忠告した者とは別の蛇が、人型となり家にやって来た。
そして正当な対価だとし、その女の美貌を奪い、家の権利を全て子供へと書き換え去った。
私は、解決したとは思えず、堪らなく不安になり子供を見守る事にした。
だが対価は正当だった、子は周囲に恵まれ、女には似ても似つかない者へと成長した。
そして母親が死に、彼が死ぬ順番になり、彼は安らぎを求めた。
今となれば譲られたのだと思う、彼は私の下へと来ると、しっかりと対価を提示した。
それは正当な対価だと、その頃には、私も判断出来る様になっていた。
そして彼の命を奪い、安らぎを与える事で、私にも安らぎが訪れた。
私は暫くして彼の家を離れ、次に異種が齎す死を観察し始めたが、それはあまり褒められたモノでは無かった。
苦痛を伴う事が多く、それは時に長く齎された、だがそれにも理由が有る事に気付いた。
その者達は罪悪感を持ち、敢えて死の最後に苦痛をと、そう言わずともそう願う者達だった。
私には既に受け入れ難い願い、そうした者達を避ける為に住処を移し、人種を避けた。
だが移動した先で、奇異な噂を耳にし、人種に会う事にした。
その男は来訪者の親を持ちながらも、既に親離れをし、独自の方法で糧を得ていた。
「全く予想もつきません」
《安楽死だ》
親の罪は子が、子の罪は親が背負う、そんな歪な教えから抜け出す為だと言っていた。
だが、死を齎す基準に間違いは無かった。
死を望む事すら烏滸がましい、そう思う者の家族から安らかな死をと願われ、幾ばくか苦しんだ後に死ぬ様な毒を齎した。
そればかりでは無く、時に家族が死を阻む者にも、私に願い対価を差し出した。
それは彼の命。
多くに死を齎す事を目指していた彼の対価としては、差し出した時点で最早、対価を渡したも同義。
私は数秒の命を対価とし、彼に助力し続けた。
けれど、人種にも決まり事が有る、彼は捕まり処刑された。
そして私は、相変わらずそこに住み着き、彼の代わりを務める事にした。
彼の寿命が尽きる筈だった歳月まで、選別し、死を齎し続けた。
「同種が忠告には来なかったんですね」
《あぁ、私の事を口外せぬ様にと、人種に忠告するのみだった。それに私は、東の魔女として死を齎していたに過ぎぬ》
「そして最近、その歳月が終わる事になった」
《あぁ、そして死を体験すべきではと思う日も増えての事、きっと年なのだろう》
「まるで私が死神の様に思えてしまうんですが」
《お前は、苦痛に喘ぐ死にたがるモノを生き永らえさせる、その事の方が余程残酷だとは思わないのか》
「思いますが、生きて欲しいと願うモノの事も理解しています、もう少し生きれば何か少しは」
《その道すら無いだろうモノにとって、死神は寧ろ歓迎するモノ、死神とは決して悪しきだけの存在では無い》
理屈も分かっているのに、理解が難しい。
「もし、近しい者がそう願ったら、私は抗ってしまいます」
《それは道筋が定まっていない場合だろう、既に緩やかな死と苦痛しか待っていないとすれば、死こそ救い》
あぁ、きっとココには抗がん剤が無いからこそ、コレが受け入れられる事になる。
なら、もし、齎されてしまったら。
いや、多分、結局は同じ事。
寧ろ、抗う苦痛は酷くなり、より死を望むかも知れない。
「死に方を、皆さんがしっかり考えている」
《そして周囲の者にどれだけ理解されているか、如何に人種の領分では無いか、それだけだ》
「人種に興味を持ち、出来る事をしているに過ぎない」
《少なくとも、私と狐はそうだな》
「彼は、東の魔女は処刑を納得していたんでしょうか」
《裁かれる事も理解しての事、そうして齎される何かを、世の者が得られるだろうと。彼は私よりも先を見ていた、お前に、少しは何かを与えたろう》
「子を産み育てる恐怖と、相手、全て整えなければやっぱり子は不幸になってしまう」
《稀有な問題だ、歪さが過ぎた事、もう同じ事は起こってはいないと聞いている》
「それでも、抜け漏れが」
《短命な上に多産かどうかは個体次第、だが、私は多産にもなれるぞネネ》
彼は賢く物知りで、気配りも出来る。
しかも多産になると言う事は、産む側になってくれると言う事。
「ですが、産後直ぐに死なれたら困ります」
《余命は産後15年程、成人の少し前までは生きられる》
思春期真っ盛りで大変そうでは有るけれど、彼の子育てなら、そこまで心配する必要は無いかも知れない。
しかも、どちらかと言えば気に入ってくれての事。
彼となら、平穏な生活が。
《スズランの、何か用事かな》
「あ、失礼しました、諸用で葬儀に出たく申請に伺った次第です」
《そう、陛下なら中に居るよ、どうぞ》
「どうも、では失礼致します」
不信は不信を誘う。
ネネは迂闊にも廊下で重要な話をしていただけか、敢えてなのか。
僕なら敢えて行ったとしても、ネネは、分からない。
僕への復讐、レオンハルトへの牽制に絶対しないのかと考えると、しないとは言い切れない。
それは僕の欲目から、だろう。
それ程に未練が有るのだ、と思い込みたい欲目。
ネネが居なくても困らない、死なない。
そう分かっていても、いや、だからこそ死んでしまいたい。
誰かと一緒になるネネを、認識すらしたくない。
けれど、僕には役目が有る。
エルを支え、国を支え、人種の役割を全うするのが王族皇族の当然の役目。
繁栄と、償い。
自制し、過去の清算をし、人種を守る。
どうして僕は人種なんかに生まれたんだろうか、しかも皇族。
そうでなければ、今でも少しはネネと居られたかも知れないのに。
でも僕は人種で、皇族。
そう育てられた、人種の税によって育てられ、そう生きる定め。
死んでしまいたい。
そして直ぐに生まれ変わって、ネネの傍に行きたい。
きっとネネなら、そこまですれば許してくれる筈、受け入れてくれる筈。
どう、死のうか。
あぁ、そうか。
その手が。
《お兄様?》
《あぁエル、良い朝だね、おはよう》




