33 血筋。
『ルーイ』
《ユノ、君と一緒になる為にも、改めて確認したいんだけれど良いかな。僕は人種だけど、人種だけの血で出来てるワケじゃないのは、理解してくれてるよね?》
『えっ?』
《戸籍上の区分けは、あくまでも外見のみ、そう教えたよね》
『けど』
《もし僕には魔獣の蛇の血、レオンハルトには蜘蛛の血が流れていたら、やっぱり嫌だよね》
『蜘蛛』
《例えば、だよ》
『ルーイ、でもアナタは』
《分類上は、人種だよ》
きっと、このままじゃ埒が明かないだろうね。
彼女はまるで被害者にでもなったかの様に目を潤ませ、黙ったまま、延々と答えに迷い続けるだけ。
今までなら、それで何とかなったかも知れないけど。
ココは違う。
ココは異世界なんだから。
《ルーイ様》
《あぁ、彼も、カイルもそうだよ。皆そうなんだ、純粋な人種のみなのは、来訪者様だけ》
コレでも、何も言わないか。
《今日は、ココまでで》
《いや、この際だから他にも確認がしたいんだ。君の居た世界は人種こそ食物連鎖の頂点だったらしいけれど、ココには魔獣が居る。つまりは、もう分かってるよね?》
直ぐに顔面を蒼白させた。
やはり察しが悪いワケじゃない。
《ルーイ様、これ以上は》
《カイル、まさか君、ユノが好きなのかい?》
《いえ、ですが》
《だとしても、理解してくれているかどうか、大切なら確認すべき事じゃないかな。ね?ユノ、あぁ、それともう1つ》
『もう、止めて下さい、嘘ですよね?そんな、怖い事を言って、どうしてなんですか?』
コレでダメ押しすれば、きっと彼女は泣いて逃げ出すだろう。
でも、今更何処に行くつもりなんだろうか。
侍女すら、魔族や魔獣の血を引かない者は居ないのに。
《残念だけど、本当の事だよ、だってココは君にとっては異世界の筈なんだから》
あぁ、やっぱり。
《一体、何処に行くつもりなのか》
《本当、誰に縋るんだろうね》
《誰を差し向けますか》
《やっぱり、幼い子じゃない?》
《アナタは》
《大丈夫、そう育てられてるんだし、あの子は賢いから》
《その事を言ってるんですがね》
《あぁ、そこも大丈夫だよ、自衛手段は持ってるし》
強くて賢い子だからね。
《どうしたの?大丈夫?》
『あ、私』
《落ち着いて、ココは安全だよ、どうしたの?》
お城に、こんな小さい子が居たなんて。
『あの、アナタは』
《エルだよ、アナタは?》
『わ、私は』
《来訪者様だって事は知ってるんだけど、お名前は?》
『私は、ユノ ナダギ』
《大丈夫、嘘は言わなくても大丈夫だよ、ココは魔獣は来ないし優しい者達ばかりなんだから》
『私の、本当の名は』
《誰かに虐められたから、怖いの?》
『ルーイが、酷い事を、怖い事ばかりを言って』
《向こうでも、虐められたの?》
『だから、私、怖くて』
《可哀想、でも嘘はダメだよ。大丈夫、本当の事を言っても大丈夫だよ。悪者は全部、聖獣が引き裂いてくれるから》
『聖獣が?』
《うん、もし処女だと嘘を言ったら、ユニコーンが角で八つ裂きにしてくれるし。酷い事をした事が無いって嘘を言えば、アヌビスの唾液で黒く塗り固められて、それでも反省しないとアメミットに噛み砕かれて食べられちゃうんだよ。だから大丈夫、本当の事を言って大丈夫だよ》
『ココは、本当に異世界なの?』
《僕はココしか知らないけど、うん、来訪者様にとてはそうだね》
『魔獣が人を食べるの?』
《だけじゃないから大丈夫、聖獣も食べるし、悪魔も食べてくれるから》
『天使は、天使は居るの?』
《天使?翼人なら居るよ》
『もう、ココに、居たく無いの』
《じゃあ、何処へ行きたい?それとも帰りたい?》
『元の場所に帰るのだけは嫌っ』
《なら、お城を出る?》
『でも、外は』
《大丈夫、少しだけ、ね?行こう》
少し不安だったけれど、ココに居るよりは良いと思って。
私は、小さな王子様と一緒に、抜け穴からお城を出る事にした。
でも、直ぐに兵士に見付かってしまって。
『エル!』
《真っ直ぐ行けば道に出るから!大丈夫!行って!!》
私はそのまま真っ直ぐ走って、けれど先には人影が。
『お願い、見逃して』
「大丈夫?誰かに追われてるの?」
『わ、私、お城の兵士に』
「逃げているんだね、大丈夫、匿ってあげるよ」
私を抱えたかと思うと、真っ白で綺麗な羽根が彼の背中から生えて。
強い風が吹いたかと思うと、もう地面が遠くなっていて。
『きゃっ』
「大丈夫、けどしっかり捕まってて、まだ風が寒いだろうからね」
こうして、私は素敵な男性に助けて貰い、彼の家で暮らす事になった。
「うぅ、まだボーっとする」
《私も、初めて知恵熱出したぁ》
「コレ、やっぱり知恵熱なんだ」
《多分、お兄ちゃんが良く出してたから、そうだと思う》
「風邪じゃないよね?」
《多分、喉とか平気だし、関節とかも平気だし》
「けど怠い」
《うん、ボーっとするねぇ》
「考えなきゃいけない事が」
《コレ多分、キャパオーバーなんだよ、しっかり休もう?》
「はぁ、言い返す語彙が無い」
《分かる、風が気持ちいしか浮かばないもん》
「アイス食べたぃ」
《魔法で作れそうだもんねぇ》
「確かに」
《けどお煎餅はなぁ》
《伝えに行かせるが、どうするネネ》
あぁ、だから食べ物の事を考えろって。
そうか、慣れてるんだ。
「お願いします」
《ついでだ、お前のも頼まれてやろう》
《思い付かないんで、美味しい物でお願いします》
《分かった》
そう言って影さんは影に頭を突っ込むと、紙を咥えて顔を出し。
『はいはい、俺が伝えに行くワケね』
どうやらコンちゃんも影に居たらしく、影の中からせり上がって来た。
不思議、本当にアリスみたいな世界。
《お前は冷えた日に重宝されるんだ、持ちつ持たれつだろう》
『はいはい、行ってきます』
「お願いねー」
《ネネ、コレも冷やしてやるか?》
「うん、お願いします」
《仕方無い、少しだけだぞ》
《助かりますー》
「いえいえ、持ちつ持たれつですよ」
《私が怖く無いのか》
「今更、ねぇ」
《しかもネネちゃん、してるんだもんねぇ》
「何かもう、逆に、蛇とは思えない大きさだったので」
《あー、似た違う生き物感、分かる》
《大きさの問題か、成程な》
《あ、妖精さんは?》
「あぁ、ね」
《アレは人里で暮らす為に人の形を得た、ネネ、逃げ出すには良いとも言えるな》
「えっ、そんな配慮を?」
《ついでだろう、飽きれば家すら捨てる、アレらは気紛れなモノだからな》
《あー、でもウチの子は違うからね?》
「あー、真面目そうだもんね」
《でしょう、可愛いよねぇ》
「真面目が可愛いは、分かりません」
《健気ーとか、何か、そう言うの》
《狐が来れば教えてやる、目を閉じろ》
硬く柔らかな動く冷えピタ。
不思議、どうして怖くないんだろうか。
《ご苦労様、エル》
《お兄様こそ、お疲れ様です、あんなアバズレをお相手なさってたなんて本当》
《エル様、お言葉は美しくお使い下さい、仮にも姫様なんですから》
《カイルが私と結婚してくれるなら、淑女然とするわ》
《年の差を考えてくれませんかね》
《エルが結婚出来る年頃まで待たせるのは、流石にカイルが可哀想じゃないかな?》
《ですわよねぇ、初恋は叶わない、その方がよっぽど身に染みておりますわ》
《まぁ、僕は意地でも長続きさせるけどね》
《早く会わせて下さいませ?》
《生憎と知恵熱を出してね、今日は難しいんだ》
《まぁ、まぁまぁ、では本当にお姉さまになるやも知れませんのね》
《あぁ、ただ君と僕の家族の縁が切れる可能性も高いけどね》
《あら、カイル?説明して頂戴?》
《皇太子妃には自分は相応しくない、そう仰ってるんです》
《まぁ謙虚な方、ですけどアレよりは遥かに相応しいでしょうに》
《既に厳しい目に晒され続けてきたそうだから、もう嫌だそうだよ》
《あぁ、ですが、であればこそ》
《僕もそう思ったんだけど、やはり彼女には彼女の道を歩んで貰った方が、国益にも繋がると思ってね》
《では、何某かの専門家でらっしゃるのかしら》
《と言うか、好きが高じて、だね》
《そして危険の無い事、ですわね》
《そこに少し問題が有ってね、建築に関する事なんだ》
《成程、それも有って私ですのね》
《少し頼めるかな》
《勿論ですわ》
《先ずはコレだけなんだけど、どうかな》
《ふふふふ、何て素晴らしいの、この構造物は何て仰るのかしら》
《木製のローラーコースター、だそうだよ》
《木製、となれば鉄製も、いえ今はコチラですわね。直ぐにも悪用方法を検討させて頂きますわ》
《うん、頼りにしてるよ、エル》
《はい、お任せを》
彼女の仲間は、数学や建築に関する悪魔が殆どだ。
数字に惹かれ、彼女が自ら選んだ仲間達。
そして彼女こそ、未来の最高位。
敢えて高等な知識に手を出し、敢えて最高位になると宣言し、禁忌とも言える領域に踏み込んだ。
数学、力学、物理学。
彼女はそれらしか知らない、他の事はもう、それこそネネと同程度。
補佐は兄弟姉妹がしてくれるだろう、そう甘え、好きな事だけしかしていない。
けれど、それで構わない。
類稀なる最高位は、大概こうらしく、父も母も既に継がせる準備をしている。
それは兄弟姉妹も同じく、彼女を最高位に据える事こそ正しい道筋だと考えている。
間違っても彼女を他国に出せば、いつ技術革新が起こり、いつ兵器が齎されるか分からない。
最も国から出してはならない者に、彼女は自らなった。
天才とは、彼女の事だと思っている。
好きな事の為には時間を惜しまず、些末な事は他に任せ、時には大役を担う。
僕は単に器用貧乏なだけ。
少し腹黒く、少し器用なだけ。
なのに、ネネは僕を誤解している。
今は良いけれど、いずれは誤解を解かないと。
でも、それと同時に呆れられてしまわないか、少しだけ心配もしている。
もし見合わないと判断されたなら、僕はネネから身を引かなければならないのだから。
《カイル、エルを頼むよ》
《はい、畏まりました》
ネネにもユノにも、安静にと言っていたんだが。
『ネネ』
「2度手間になるかも知れませんが、ついでです、もっと何か聞かせて下さい」
『ダメだ』
「一晩抱かれます、それでもダメですか」
『ダメだ』
「一瞬迷いましたね」
『あぁ、だからこそ部屋に帰す、抱き抱えて構わないか』
「イヤです、ココで知恵熱は良く有る事ですか」
『あぁ、無い方が愚か者を疑われる』
「では良い事ですか」
『あまり頻発するのは良くないが、神々の祝福だとされている』
「風邪かも知れない」
『なら薬湯が旨く感じる筈だが、不味かったんだろう』
「美味しかったです」
『ネネは可愛い嘘ばかりだな』
「不安なので抱いて下さい、庇護が欲しい」
『そんな事をしなくとも、既にネネは十分に守られる立場だ』
「2号は、無事ですか」
『あぁ、無事だ』
「何か有ったら、先ずは私に教えて下さい」
『そうする』
「気付けませんでした」
『そう誘導した』
「以降は、違う対処法をお願いします」
『分かった』
「自分の足で帰ります」
『なら抱いて後悔する』
「卑劣ですね」
『ネネには仕方無い』
「好意に甘んじます」
『あぁ』
例えどんな思惑が有ったにせよ、ネネに不信感を与えてしまったのはコチラだ。
もっと上手く接っする事が出来ていたなら、こんなにもネネを不安がらせる事は無かった筈だ。




