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ぶつかり合う信念

 相手の心に土足で入り込む行為。救う為とは言え、分かってるつもりだ。もしかしたらその考えそのものが傲慢(ごうまん)なのかも知れない。


 だが罪を背負い、戦い続けると決めた時、覚悟も決めた。


 もう、何も失わないように────救い導き、照らし出す。 


「救えなかった後悔はいくらでも尽くしてやる。だが、救わなかった後悔は死んでもしてやるつもりはない!!」


 刀身を弾き、カイトの腹部を力の限り蹴り上げる。顔を歪め、僅かに闘気が緩んだ。


 手加減が通用する相手では無い、しかし────足に纏わり付く嫌な感触が伝わる。


「……捕まえたぞ、覚悟しろ!!」


 俺は剣で斬りつけようと胴体を起こそうとする。それは力の暴力に屈した。


「うおおおおおおーー!!」


 カイトは唸り声を上げながら俺を力の限り円を描きながら振り回す。遠心力に引っ張られ、思うように動けない。


 体の平衡感覚が機能しない。今俺はどこを向いている? 剣を離さないだけで精一杯だ。


 背中に強い衝撃と共に、強烈な痛みが走る。次の瞬間は顔と胸部、次は後頭部────何度も叩き付けられていると理解するのに時間は掛からなかった。


 俺は手に魔力を込め、宙に多くの炎弾を生成する。


「燃やせ、ファイアーボール!!」


 俺の詠唱と同時にカイトに降り注ぐ。それに気付き、俺を盾にしようと回す方向を変化させる。数発が俺に命中し、煙が上がった。それでも多くの炎弾が残り、カイトに直撃する。


「この程度で離さないのは見えている」


 そうだカイトはこの程度では、何の問題もなく耐え切るだろう……。


 だが怯まない訳じゃ無い。


 俺は遠心力が僅かに弱まったのを確認すると、剣をカイトの腕に振り下ろす。


「俺とてこの状況想定出来ないと思うな」


 手を離し、身体中を地面に打ち付けながら、転がり回り何とか解放される。


 こんな事を続けていたら、命がいくつあっても足りないぞ……。


「いつまで寝ているつもりだ?」


 かかとで地面を蹴り上げ、紙一重で攻撃を回避する。そのまま飛び退き、距離を取ると、頬を嫌な汗が流れる。


「教えてくれるとは、余裕だな?」


 今のカイトに手加減と言う気概は感じられ無い。にも関わらず塩を送るとは、どう言う了見だ?


 その問いに眼を細めるも、決して答えようとはしない。先程とは真逆の行為だ。


 大剣を空高く振り上げ、剣に纏う海流が真っ黒に染まり、龍を形取る。


「演舞海ノ舞──大津波黒潮黒龍(くろしおこくりゅう)!」


 振り下ろすと同時に、黒い津波とそれに乗る黒龍が押し寄せる。俺は呼吸を整えて、眼を閉じ剣を静かに振り下ろす。


「演舞月ノ舞──花鳥風月(かちょうふうげつ)!」

 

 水滴の音がこだまし、世界は静寂に包まれる。全ての音は遮断され、時が凍りつき、風に舞う花びらと小鳥たちが黒い津波と黒龍を包み込んで行く。ソレは渦を巻き、水面に写る月の中にゆっくりと引き摺り込む。


 瞳を開くと同時に、世界は再び動き出す。


「全ては夢幻(むげん)の最果てへ……照らし輝く幻想歌」


 それを見たカイトの顔は顕著(けんちょ)だった。


 笑っていたのだ。とても嬉しそうに────。


 そのせいか、俺の反応も一歩遅れた。高い金属音と共に薙ぎ払う太刀筋を、二振りで受け止める。


「さっきの攻撃を意図も容易く捌くか……塔以来目を見張る成長速度だな」


 カイトは大剣を左後方に傾け、俺は滑るように懐に引き摺り込まれる。体勢を立て直そうとした瞬間、死角から右拳が胸部を捉えて、間抜けに口を開く。


「が……はっ────!?」


 このままではまずい! 早く距離を取らなければ────。


 後ろに飛び退こうとしても、読んでいたようにカイトが追従する。


「逃げるな、面白くなって来るのは────ここからだろ?」


 不安定な体勢から刀身を打ち合い再びバランスを崩す。俺はただ食いしばり、視線を向ける。


 ここまでか──これ程までに、力の差があるのか!?


 おかしな状態も解けている……これはカイトの本気では無く、上がって来ているように思う……。


 生粋の戦闘狂……戦いを好み、強者との死合い(対話)を生き甲斐とする。相手が強ければ強いほど、そのうねりを増し際限なく押し寄せる。


 答える方法があるとすれば、討ち破り、納得の行く敗北を与える事だ。


「悪いな、ごちゃごちゃ考え過ぎた……もう辞める!」


 カイトが反応するよりも早く、俺は倒れ込む。足を絡めとり、胴の動きだけで剣を避けると同時に足を宙に浮かせた。


 大剣を叩きつけた地面から、土煙りが上がると同時に足を組み外し、2メートルの距離を取る。


 俺は前に踏み込み、土煙の先を目指すと同時に、煙の中から大剣が姿を現す。


「演舞日ノ神楽── ゆらり揺らめく日ノ虚い、踊り引き裂く見えざる刃、薄刃陽炎(うすばかげろう)!!」


 俺の幻影は土煙の中で揺めき、刀身が空を斬ると高い金属音が鳴り響き、剣を滑らす火花が散る。


 晴れた煙からカイトが顔を覗かせ、闘気を解放する。


「演舞海ノ舞──純然たる力の躍動、全てを飲み込み喰らい尽くせ! 海帝津波(かいていつなみ)!!」


 突き上げるような衝撃が、滑らす火花を掻き消し、刃を受け止める。カイトの神託から放たれた異質の光は色を戻し、暖かな光へと戻って行く。


 弾き打ち合い、受け流し、俺たちは何度でもぶつかった。闘気を最大限まで高め、更なる力を込めて行く。


「────闘気全開!!」


 俺たちの声が響き合い、自然と口元が緩んでいく。


 俺は求めていたのかも知れない……高め合うライバルを、一切合切(いっさいがっさい)全てを抜きにした心躍る戦いを────。


 複数の見えざる刃に対し、突き上げる海流の塊が衝突する。


 まだだこの程度では終わらせない。


 心の底から湧き出る高揚感と、この強敵に勝ちたい一心で勇気が答える。奇跡はその頭角を表す。


 混ざり合う炎と海流は膨れ上がり、再び大きな爆発が起こる。カイトから光が放たれると、水蒸気に飲まれ、俺たちは放り出されるように宙を舞った────。


 ────妙な感覚に眼を開く。ここまでくれば大方理解する。


「よう……テメエが双星の勇者様ってか?」


 背後からの声に俺は振り返る。


「背後に立つなんて人が悪いな、俺はユウセイ……アンタは?」


 そこには黄緑色の髪を持つエルフの男が佇んでいた。髪は意外と長めのポニーテイルで耳の長さは、半分程度と考えるとハーフエルフか?

 

「悪りーな、気配を消して忍び寄るのはスナイパーとしての癖だからよ。あー名前だったな、俺はグレイル……とでも呼んでくれ」


 名乗るのに少しの間があったが、態度は悪く無く、人柄に悪い印象を受けない。その後ろに剣を振りまわし続ける男の姿に気付く。


「おっとそのガキんちょ(カイト)には近づかないほうがいいぜ? 斬りかかられたく無かったらな────」


 俺は眼を疑う。その姿は身長170くらいの標準的な男性の姿だったからだ。


「強く……もっと強く強く強く!!」


 血塗れの手に剣を握り、豆が潰れようと振り回す様は、心に来るものがあった。



 

 

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