傭兵団の仲間たち
幼いカイト……いや、数年前のカイトか?
「まあ今から三年位前だろうよ……」
後ろのグレイルが答え、俺の隣に立つ。深いため息を吐き、どこか浮かない顔だ。
「ここに来たって事は、少しはカイトの心に届いたって事だ……期待させてもらうぜ?」
俺は突然突き飛ばされ、足の感覚が失われる。
「待ってくれ、まだ聞きたいことが山程ある!」
「いや、ここでの説明はもう十分だ。続きは自分の眼で見て確かめな!」
取り付く島もなく、記憶の海が姿を現す。
喜怒哀楽が豊かで、元気に動き回るカイトの映像……その中で、グレイルと名乗った人物と一緒に映るシーンへと着水し、沈んで行く────。
────炎天下の砂浜の一角で、カイトは息を切し倒れ込む。
「無理だ……これ以上は体が持たない!」
肩で息をし、間隔の早い呼吸を繰り返す。それを笑いながらグレイルが木剣を地に刺す。
「粋がったってのに、こんなもんかねえ?」
その言葉にカイトは露骨に顔を歪め、起き上がる。木剣を突き刺し、立ち上がると反論するように構える。
「ちょっと休んだだけだ! もう完全に回復したから、何処からでもかかって来いよ!!」
グレイルは満身創痍のカイトを見つめ、笑いながら手を叩く。
「おうおういいね……じゃあ少しだけ本気で稽古してやろう────」
表情が引き締まり陽気な空気が一変する。カイトは表情を引き吊り、冷ややかな汗を流す。
「ちょ、待て待てーー!! やっぱりまだ休む!!」
カイトの言葉を無視し、グレイルは踏み込む。即座に木剣を引き抜き、砂が宙に掻き出されるほどの斬り込みで、振り下ろす。
必死に木剣を構え、力強く受け止める。
「上々──人の真価ってのは、限界を超えた先で試されるもんだ」
「ああもうヤケクソだよ!!」
カイトは突き飛ばすと同時に、力任せに振り続ける。
剣筋を見つめ、外側に弾きながらグレイルは力を逃して行く。カイトの動きが鈍り始めるとそこから一気に攻勢に出た。
「右、左、下、上、下」
方向を口にし、それとは真逆の位置から木剣を振る。
「へ? いや、それは卑怯だろ!?」
言葉に翻弄されながら太刀筋を見極め、引っ掛かりそうになりながらも、必死に食らいつく。
「お前は相手の言葉を、馬鹿正直に信じすぎなんだよ。もっと眼を駆使しろ────ほら、右、下、下、右、足、頭」
フェイントが混じり始め、更には方向はめちゃくちゃ、挙句は部位の名前も出し始める。
「あああーもう訳分からん!」
カイトの叫びと、乾いた音が一帯に鳴り響くと、宙で回転した木剣が砂浜に突き刺さる。
カイトは再び倒れ込み、肩で息を繰り返し、抵抗を止める。
「アノンは意地が悪い……きっとろくな死に方をしないな?」
アノン? その言葉に対し、グレイル? は頭を抱えながら反論する。
「あのな……戦いってのは、命の奪い合いなんだよ! 誰が馬鹿正直に戦ってくれる?」
今とは想像もつかない光景だった。剣の腕もまだ未熟……結局カイトは説教を受け、小一時間程の時間を過ごす。
カイトの過去にも驚いたが、そのあとグレイルは適当な名前で、アノンが本名だと判明する。
随分と捻くれ者のようだ。これではカイトの嘆きにも納得してしまう。
そうしていると、遠くから手を振り声を上げる影が見えた。
「おーーいお兄ちゃん! ご飯出来たよーーアノンさんも早く早く!」
髪は栗色で、髪の長さは肩ほど、獣人の猫耳の少女が現れ、二人を催促する。
「今日はバーベキューだからね? 早くしないとお肉無くなっちゃうよ?」
二人は顔を見合わせる。頬から汗が流れ、様子が明らかにおかしくなった。
カイトは喉を打ち鳴らし、決死の表情で口を開く。
「ミスティ……今日の料理当番は誰だったか?」
「んー? 私だよ?」
二人の顔が一気に青ざめる。二人は顔を見合わせると、再び木剣を握り直した。
「おうカイト! 傭兵ってのは兵糧が常にあると思うな!! 時には空腹時に戦い生き残らねばならない!!」
「流石はアノン!! あんたの修行は本当に為になるな!!」
ミスティは目を細め、呆れたように口を開く。
「いや……普通にご飯食べようよ? この後仕事だよ?」
二人は激しく打ち合い、話が聞こえていないようだった。
「上達したなカイト! やはり俺の見込んだ通りだぜ!」
「あんたのおかげだ! 毎日の感謝は尽きん!」
ため息を吐き、ミスティは小声で呟く。
「本当はタスカーさんだけどね」
ピクリと反応すると、次の瞬二人は同時に剣を放り投げ、大きく叫んだ。
「それを先に言ええええーー!!」
息をぴったりに、二人は足跡の方向に走り去って行く。
ミスティはふるふると体を震わせ、二人に負けず劣らずの声量で叫ぶ。
「もう二人とも知らないんだからねーー!!」
それは炎天下の砂浜に虚しく響き渡る。やがて諦めたように、同じ方角へ走って行くのだった。
────集まるや否や、食卓は戦場と化していた。
「カイトってめえ、それは俺が育ててた肉だぞ!」
「アノンがちゃんと守ってないのが悪い……食卓では肉を制する者が食事を制す」
訳のわからない持論が飛び交い、嵐のように進行して行く。
それに耐えかねたのか、ミスティが口を開く。
「もう二人とも食事の時くらい静かにしてよ!! それと喧嘩しない!!」
「ふふふ、二人は本当に仲が良いよね」
濃い緑髪の男が呟いた。それに反論するように、ミスティが口を開く。
「もうタスカーさんも何か言ってよ……私だけじゃ止められないよぉ」
泣きつくように悲願する。
さっき言っていたのはこの男の事だったか、落ち着いた様子で聡明な印象を受ける。
「ああ、ごめんごめん……ついつい二人の事を思い出してしまってね」
苦笑いをしながら言葉を返す。
「マーレとシファもよく喧嘩するもんね……」
別の問題児を思い出し、頭を抱えているようだった。箸は進まず、頬が引き吊っている。
その様子にタスカーは笑いながら、少しだけ真面目なトーンで口を開いた。
「だからこそ怖くなってしまう……こんな世界だから、明日は来ないかもしれない。この中の誰かが欠けて、笑いながら食事をするのだってもう無いかもしれないんだ」
ぱちっと木が弾ける音が鳴る。火に炙られ、薪が崩れた。
その言葉は俺の心にも痛く響き渡った。心の中で笑うカグラと重なり合い、どうしようも無く俺の心を掻き乱した。
カグラとセイヤ……カグヤ、カムイ、カンナたち、もし────俺が望んだとしたら?
そんな可能性の未来があった事を、俺に差し示しているようだった。
だからと言って、もう時は戻りはしない……だからこそ、今大切なものは守らなければならない。この光景のように失われてしまうのだから────。




