戦禍の中心地
壊れた教会の跡を見下ろす。タウラスが追いかけて来る様子は無い。
逃げられるとは思っていなかっただけに、僅かながら安堵の息を漏らす。
それにしても考えることが多すぎる。あの化け物を撒きながら、カイトとヴィーナスを倒して、最後にあいつを倒さなければならない。
それで戦争が終わり、本当の意味での勝利になる。
「ルナこれからの事だが……」
俺が視線を向けるとびくりと体が跳ねた。
目を泳がせながら、表情を目まぐるしく変化させる。その様子に思わず口元が緩んだ。
「この戦争が終わったら、少しずつで良い……俺に話してくれないか?」
「……私の隠し事の話ですか?」
申し訳なさそうに、俯く。
「それもそうなんだが、ルナのこと、俺のこと……知らない思い出を俺に教えてくれないか?」
消えた過去は戻って来ない。だが同時に、思い出は消えはしない。
ルナが覚えている限り、俺たちの旅路は心の中で永遠になる。俺はそれを知りたいと思う……どれだけ時間がかかろうと、全てを聞き遂げる。
「面白い話では無いですよ」
「他でも無い、俺が知りたいんだ。それにーー」
俺は体の力を抜く。闘気の流れが戻り、肉体の変化が治まる。
「話すことで、楽になる事もあると思う」
「……やりたいことが有るのです。二人で火を囲み、星を見て、温かいスープを飲みながら、朝が来るまで語り尽くしたい」
記憶をなぞるように、一つ一つの話を繋いでいく。
「それじゃあ約束だな」
「はい、約束です」
そんな気分ではなかったのだが、話した事で少しだけ肩が軽くなる。
束の間の1ページ、実際にどれほどだったかは分からないが、かけがえのない時間を過ごした。
ある程度落ち着いて、今は作戦会議をしている。
「やはり戦いの中心地に行くべきでしょう」
「カイトとヴィーナスを一度に相手に出来るのか?」
急ぎ過ぎているでも無さそうだ。何か理由があるな?
「この際です……導きのかけらを2つ手に入れましょう」
「良いことなんだろうが、全く隠さなくなったな」
そう言っただけなのに、呆れるような顔をされてしまった。表情も喜怒哀楽が当たり前のように表現されているため、大きな違和感を覚える。
「この状況を乗り切るには、全てをフル活用するしかありません。行きましょう合間見える場所は決まっています」
「大群を相手にすることは出来ないし、選択は限られるか」
俺の突拍子もない発言に頷く。
「ソウル、分かっていますね?」
「任せるがいい、既にその方角に飛んでいる」
二人で話し合い、大筋の行動を決めていたか……なら任せるとしよう。その他に気になっていた事を思い出す。
「ルナに聞きたいんだが、親友だったか……一体何者なんだ?」
ピクリと眉を動かし、未だ目覚めぬ少女に視線を向ける。銀髪は肩まで伸び、赤色の羽衣を体に纏う。
ぱっと見活発的な印象を受けるし、ルナとは対極的に見えた。
「彼女は、負の女神アルテミス……タウラスにより囚われてから、ずっと眠り続けています」
ルナ以外の神と会うことが有るとは思ったが、今その時が来るか?
何も考えずにルナが助けたとは思えないが、庇いながら戦うのにも限界がある。
「目覚めるのに、まだ時間がかかりそうです。私の力が失われている以上……彼女の力を借りなければなりません」
ルナの決意は固い、すべき事が定まっている……俺も答えは出ている。ならそれぞれ全力を尽くそう。
「そろそろ到着する」
俺が下に視線を向けると、2つの大きな力がぶつかり合う光景が見えた。1キロは離れている位置で、闘気と闘気の弾け、轟音が鳴り響く。
ルナは険しい顔で見つめ、指示を出そうとする。
「ソウル……無闇に近づくのは危険です。あと少し近づいたら、低空飛行で近づきてください」
「うむ、了解したぞ」
地上付近まで降下すると、周期に大群同士の衝突が見える。
血と肉の焼ける匂いが、上空まで充満し“地獄”がそこにあった。
「今なら戦いに集中していて、一気に距離を詰められます」
合図と共に一気に加速をする。時折振り返るような動作をする者もいるが、置き去りの突風が吹き付けるだけだ。
人の塊を突き抜け、焼け焦げた大地でぶつかり合うカイトとヴィーナスを捉える。
これから一つでも間違えば俺たちは終わる。だと言うのに、心が感覚が研ぎ澄まされていく。
闘気が体内を循環し、研磨され、注ぎ込まれて行く。
「ルナたちはカイトの牽制を頼む」
「任せてください、そちらの手出しは絶対にさせません」
俺はソウルから飛び降り、土煙を上げながら2人の間に割り込む。2人は手を止め、煩わしさを含む視線が突き刺さった。
「あらあら、終わるまで我慢できなかったのかしら?」
「我慢……そうだな、いい加減終わりにしよう」
ヴィーナスは理解できないと言った顔で、首を傾げる。カイトも不可思議な視線で口を開く。
「いきなり現れて何のつもりだ。こんな事をさせるために見逃した覚えはないぞ!」
「この勝負は俺が貰い受ける。ヴィーナスは俺が倒す!」
「ふざけるな、そんなもの答えでも何でもない」
怒りを露わにし、一触即発の空気が流れる。それを断ち切ったのは、ヴィーナスだった。
「ふふふ、私を取り合うのを眺めているのも悪くありませんけれど、倒せる前提と言うのも、面白くありませんわ」
笑みを浮かべ、口に人差し指を当て、悩むような仕草を見せる。
「アンタは本当にヴィーナスなのか?」
「……どう言う意味ですの?」
カマをかけるつもりだった。しかし、本気かどうかが表情から読みづらい。
「いや、忘れてくれ……真剣勝負に、余計な雑念を挟んで悪かったな」
俺たちのやり取りにカイトが不満を露わにする。
「勝手に話を進めるな」
「貴方の相手は私たちです。出来れば、向こうの集団を止めて欲しいところですが」
ソウルとルナがが立ち塞がり、カイトの前に立つ。
両手を握り締め、深く地面を蹴り上げた。間合いを詰め、闘気を込め振りかざす。
やると決めた。
今どれだけ罵れれようと、怨恨を残す戦争にしてはならない。そのために何度でも挑み続ける。




