悠久の果てに何度でも
一歩を踏み込み、刀身に闘気を伝えた。俺は限界まで引き、切っ先を突き立てる。
「演舞日ノ舞……烈火!」
打ち付けるように何度も刺突を繰り返す。炎は燃え上がり、力を強める。
タウラスは落ち着いた様子で、左手を上げ、口元を緩ます。
「良い太刀筋だ。でも些か乱れている」
刺突に合わせ手を振るうと、鈍い金属音と共に刺突が外側に弾かれて行く。何度繰り返そうと、涼しい顔で払い続け、全てを弾いた。
「何が起こっているんだ!?」
俺は思わず言葉を漏らし、弾かれた軌道を見つめる。
「難しいことはないさ、君と僕で違うもの……純粋に“星”としての格だよ」
こいつは何を言っている。勇者よりも格上? そんなものがいるとすれば、それは神ーー。
一層警戒心を強め、剣を握る。隙を感じない、異質な何かが体から溢れ、背筋を寒気が撫でた。
「勘違いしないで欲しいんだけど、僕たちは神ほどの高尚な存在ではないよ」
そう言いながら薄く笑い、続く言葉の声が重くなる。
「君の敵じゃない、救いに来たんだ。その紛い物の女神からね」
手を差し出し、俺に向けてくる。それに対し、先程まで沈黙していたルナが、取り乱したように口を開く。
「ユウセイ、騙されてはなりません!」
しかし、それを許さないと言わんばかりに口を挟む。
「裏切り者がよく言うよ、お前に価値なんて無くなった。真実を知れば、彼もお前に幻滅するに決まってるのにね?」
ルナを嘲笑い、釘を刺すように視線を向けた。
真実という言葉を聞き、明らかな動揺を見せる。口を開くのを恐れるように瞳は揺れ、その先の言葉を躊躇う。
しかし、決意をするように口を開いた。
「ユウセイ逃げなさい。時間は稼ぎます」
「逃げるのは、ルナと二人でだ」
ルナは目を見開く。口元を震わせ、つむぐ。
タウラスは理解出来ないと言わんばかりに、首を横に振る。
「一から説明するから、少し待ってもらえるかな?」
「必要ない」
俺は即座に返した。
「話したくなったら話せば良い、俺はいつまでも待ち続ける」
ルナは俺の話を黙ったまま聞き続けた。
「部外者が我が物顔で、入り込むな!」
多分俺は怒っているのだと思う。俺たちの誓いに横槍を入れられ、あまつさえ一緒に来いなどと言われ、静かに闘気を燃やしている。
口を開いたのはルナだった。掠れた声で、必死に言葉を繋ぐ。
「罪でしょうか、役目を放棄し、人に溺れ、何者でも無い私は……願う事さえ、許されませんか?」
拳を握りしめ、思いの丈を吐き出す。
そこに深い事情があれど、俺が知ることは限られる。俺は何も言わず聞き続けた。しかし、タウラスが不快感を露わにする。
「この期に及んで、まだ隠したままか?」
ルナは大きく首を横に振る。覚悟を決めたのか、見開いた目は力が宿る。
「私は世界を巻き戻し、何度もユウセイに会いました」
記憶を辿りように、笑み、悲しみ、怒り、様々な感情を覗かせ語る。
「億を超える年月で、利用することしか考えていない私に、何度も語りかけましたね」
表情を豊かに変化させ、無表情の面影はどこにも存在しなかった。
もしかしたら、ルナなりの覚悟……心を殺し抑えることで、防衛線を張っていた?
「禁忌を犯すほどに、心は揺れました。目的も入れ替わっていたのですから、女神失格と罵っていただいても構いません」
呆れるように笑うとゆっくりと瞳を閉じる。
空を見上げ、空いた扉の隙間から風が入り込み、壁のステンドグラスから入り込む光で、揺れる髪がきらきらと輝く。
「貴方が描く理想の先を私も歩みたい、貴方の優しさも、悲しみも、憎しみさえ共に分かち合いたいのです」
こちらを向き、瞳を開く。
差し込む太陽の光に照らされた蒼い瞳から、一筋の輝きが流れた。
「さようならーー私の英雄」
ルナは話を終えると、手を翳して魔力を込め始めた。照準をタウラスに合わせる。
「遺言がそれって、まあ僕の関与する事じゃないけど……」
呆れながらルナに近く、考えるより先に体は動いていた。
「勝手なことばかり言うなよ、剣の誓いは安いものじゃない!」
カグラのクレイドルに、手を当て蒼い光が溢れ出す。その奥にある刀を引き抜いた。同時に闘気を解放し、全身を駆け巡る。
「お前の英雄は、約束を裏切ったりしない……誓いも思いも時を超え、魂へと受け継がれる」
時間の流れが緩やかに感じる。開いた瞳に力が宿るのが分かった。実力の差を理解する。
タウラスがピクリと反応し、俺に視線を向けた。
「神託が2つで辿り着いたのか、この高みに!」
ルナが手を下ろし、顔を俯く。感情を必死に堪えて、口を開いた。
「期待しても良いのですか……“いつかの夜明け”を、この想いを隠さなくても良いのですか!」
俺は苦し紛れに笑う。
「今まで俺を守ってくれてありがとう……ここからは、俺の番だ!」
ルナにはソウルの元に走って行った。それを確認し、標的に向き直る。
俺は床を蹴り上げ、二つの剣を振りかざす。それを手の甲で剣の腹を弾き、左右に軌道をずらされた。
刀身を振り回し、炎が逆巻く。刀身の軌道から月明かりが軌道を描く。
「演舞日ノ舞…… 火輪、演舞月ノ舞……月虹」
刀身を突き合わせ、一歩を踏み込む。したから刀を振り上げ、円を描く炎が襲いかかる。光を放つ刀身が横から切り掛かる。
「うん、仕方ない……僕も武器を使うよ、牛頭の矛」
手を振り上げると、教会の奥に飾られていた槍が宙を舞い、手に飛び込む。
槍の先が牛の頭そのもので、悪趣味な作りをしている。
「安心しなよ……今の君に、技は必要ない」
槍を一振りすると、演舞の全てが吹き飛ぶ。振りかざした剣が弾かれて、足元がぐらつき、大きく後退した。
「器だし、こんなものかな」
さっきから器だの何だのと、人を見下すような発言が目立つ。
俺は床を蹴り上げ、円を描くように走り出す。照準を外す為、後方に回り込む。微動だにせずただひたすらに行動を伺っている。
「無意味だよ……そんなことしても、僕には勝てない」
両手をかざし、魔力を込めて行く。
「燃え盛る太陽よ、優しき月の光よ…… サンライズバースト! ムーンフォース!」
太陽の光が焼き尽くすように突き進み、月に光が包み込むように降り注ぐ。
それすら嘲笑うように、槍を使って振り向きざまに弾き飛ばす。
「いい加減学習しなよ。君では僕には勝てない」
それでも俺は剣を振り続ける。1本の槍で左に右へ、流され弾かれ、振り上げるように弾かれて行く。
タウラスは不可解な顔をし、疑問を抱く。
「何回か言ってるんだけど、もしかして聞こえてない?」
俺は刀身に炎を揺らめかせ、闘気を一気に解放する。
「演舞日ノ神楽…… ゆらり揺らめく日ノ虚い、踊り引き裂く見えざる刃、薄刃陽炎!」
わざと近づき、矛の一突きを誘った。
一撃は空を切り、揺らめく炎に俺が消えて行く。つぎの瞬間無数の不可視の刃が、同時に斬りかかる。それでも余裕は消えず、笑みを浮かべながら矛先で全て弾いた。
「なるほど、面白い技だね」
息一つ乱さず、俺に言葉を投げかける。
勝ちが見えない、だが可能性が無いわけではない。ルナに託した可能性に賭け、俺は戦い続ける。




