死力を尽くせ
町を覆い尽くす魔族の集団を遠くに見つめ、俺は無力を噛み締める。届きはしないその景色に手を伸ばしては引き戻す。
ルナが俺に近付き、両手を掲げ薄らと淡い光が俺を包み込む。
「奇跡の光……アークキュアライト!」
全身に光が満ちて、痛みが遠のいて行く。目蓋を薄く閉じ仰向けになり、曇り空を見つめた時だった。
上空から急降下した影が猛スピードで俺たちに近づく。
「演舞金ノ舞……無音の対律曲!」
俺は聞き覚えのある声に眼を見開いた。警戒していなかった訳じゃ無い、だがどうしてここに!
腰の剣に手を伸ばし掴むも、ヴィーナスは頭上でギターを回転させ、その勢いのまま鋭く振り下ろす。
「避けろソウルーー!」
俺の声にソウルが体を左に捻るも、『ズブリ』と鈍い音を立て、ソウルの体を貫く。その苦痛に大きく仰反る。
「ぐう……おおおぉぉーー!」
その衝撃により、俺たちは上空50mの空に放り出される。風の抵抗により上手く体制を直すことができない。
どうする……体の傷は殆ど回復していない、これを狙っていたのか!?
「ソウル! お前はルナを頼む」
「それは構わん……貴様はどうするのだ!」
ヴィーナスと向き合い、俺は素手で構える。
「俺の心配はいらない、策はある。地上で合流しよう」
ヴィーナスはギターの音を出そうとしない。おそらく落下のスピードに付いて行けず、発動できないと見ていい。
「策があるなら私に見せてくださいまし」
振り上げたギターを振りかざし、叩き付けるように俺の肩に直撃する。俺は痛みで顔をしかめた。しかしニヤリと笑い、ギターを掴みヴィーナスの腕を掴んだ。
そのまま翼の付け根を掴む。片方にも手を回し、動かぬよう押さえつけた。
「……捕まえたぞ、お前はこのまま俺と地上に落下してもらう」
先ほどまで余裕だったヴィーナスの顔は引きつる。挙動を乱し、振り払おうと動き隙が生まれる。
「正気ですの!? 放しなさい! このままでは二人ともタダでは済みませんのよ!」
あいにく俺は意見を聞く気などない。
どれだけ必死に抵抗しようと、しがみ付き、拘束を維持する。
20m、10mと地面への距離が詰まって行く。残り数メートルの地点で、俺は羽から手に拘束を移す。
「貴方は本当に意地が悪い男ですわ」
すれすれのタイミングで急反転頭上へと一気に飛び上がる。俺は手を離し、放し地面に転がり落ちた。
「無様ですわね、お望み通り……不意打ちをして差し上げますわ!」
俺を正面にギターを掲げる。弦を鳴らそうと指をかけるーー。
「ーーそうですね、ここで終わりです!」
頭上からのルナの声に大きく眼を開く。ルナが手を振り下ろすと、頭上に待機していた光の四本槍がヴィーナスに降り注ぎ、次々と貫いて行く。
しかし『バキバキ』と異様な音が鳴り、機会音のような声を上げる。
「ギギギギギ、ギギ」
プルートの時のような違和感……何より、手応えが無さすぎた。それが指し示す答えは、一つに結びつく。
「爆発するぞ! ルナたちは離れてくれ……」
俺は足を踏み込み剣を引く。刀身に炎を纏わせ、こちらに迫ってくる偽のヴィーナスに剣を突き立て懐に飛び込む。
恐らく特別な技は必要ない、奴の狙いは一つしかあり得ないとなれば、それを崩すのにに全力を尽くす。
「演舞日ノ舞……陽炎」
カチっと音が鳴った時だった。大きな炸裂音と共に、揺らめく俺が爆風に飲み込まれてた。遥か後方に着地し、攻撃に備える。
ルナとソウルが地面に着地し、ルナは練り上げた魔力で、魔法を発動させる。
「守れ……ライトプロテクト!」
攻撃が当たる直前で、ギリギリ展開が間に合い、なんとか攻撃を凌ぎ切った。結界に擦り付けるような音とが引き金となり、それに気付き、遠くから魔族部隊が迫り来る。
「さすがにアレを相手にしながら守るのは難しいぞ? ソウル……行けるか?」
俺は後ろを振り返るも、攻撃が当たった場所が悪く、ルナの回復が間に合っていなかった。
「すみませんユウセイ、もう少し時間がかかりそうです」
ルナに謝られてもどうしようもない。少し考えれば分かったはずなのに、余計な思考が頭を鈍らす。
俺たちの会話に、辛そうな顔でソウルが起き上がる。なんとか口を開き、言葉を発した。
「3分でいい、奴らが来るのを遅らせることが出来るか?」
「問題ない……それくらいの時間なら、稼いで見せる」
とは言ったものの余裕がある訳じゃない、逃げようとした罰というなら潔く受けるのもいい……ただしそれは、俺が一人の場合だったらだ!
俺は心を燃やし、再び敵の集団に敵意を向ける。
「魔王ヴィーナスは討ち取った。来るなら来いよ、ただでやられるつもりは無いぞ?」
残りの少ない闘気と、やけ気味の言葉を吐き、俺は地面を蹴り上げる。
怯んでくれるのも期待したが、そんな様子は微塵もない。なら全力を尽くそう、守ると覚悟すれば後は単純明快だ。
左手に刀を握り右手に剣を、息を吸い込み吐き出し、酸素を巡らすように全身に闘気を巡らせて行く。何とか白髪の維持を保ち、中心部に飛び込む。
ここぞとばかりに魔族が大声を上げ、部隊に鼓舞する。
「殺せーー! ヤツは弱っているぞ、数で押せば討ち取れる」
刀身が揺らめき、魔族の攻撃が俺の幻影を突き抜ける。次の瞬間に、周囲に陽炎の炎が立ち込めた。
「演舞日ノ神楽…… ゆらり揺らめく日ノ虚い、踊り引き裂く見えざる刃、薄刃陽炎!」
隷属印を破壊しながら、周囲を吹き飛ばして行く。
俺は一歩を踏み込み、次いの剣を放とうとした時、それは現れたーー。
頭上からの物凄いスピードで、人らしき影が落下し、クレーターとその衝撃で、一瞬気圧されるものの、地面が大きく陥没する。
見覚えのある巨体と、青い眼と蒼髪、その姿に俺は眼を奪われた。
「報告と状況が少し違うな、俺は誰と戦えばいいんだ?」
蒼海の勇者カイト、その登場と共に遠くの方で海王軍が押し寄せてくる。
戦況がの変化が、もたらすは救いか破滅かーー俺は唾を飲み込み、冷ややかな汗が頬を伝たった。




