世界を飲み込む戦禍
狂乱する兵士と町の人々が暴れ回る。少なくとも何かしらの“条件”が有り、制約もなく狂乱を行使できるとは思えない。
俺はクロウたちの狂乱を止めた事を思い出し、剣を引き抜く。左手に刃を突き立て、隷属印だけを貫くイメージを浮かべる。
一歩後方に下がり、踏み込みと同時に刀身は闘気により大きく燃え上がり、切っ先を突き出す。
「あの時と同じなら、演舞日ノ舞……烈火!」
放たれた一撃に、神託のある手が撃ち抜かれて行き、意識を取り戻す。俺は地面を蹴り上げ広場に入り乱れる人混みへと突っ込む。
正気と狂気の者が入り乱れ、刃の軌道を遮っている。
「そこをどけええーーーー!」
俺の叫びに、正気の者たちが左右に道を開ける。隙間を縫うようにすり抜け、突き立てた剣を次々に振りかざす。隷属印の破壊を成功させて行くも、別の者が次々に襲いかかってくる。
いくら捌こうと、終わりが見えない。単純な数の暴力……次第にヴィーナスの魔族部隊が広場に到達し、
武装した集団の先頭に立つ者が前に出て、口を開く。
「お前たち魔族は殺すなよ? まあ、人族は見当たらないから構わんか」
指揮官らしき男は、部隊に指示を出し抜剣する。それに続くように、後方の部隊も各々の武器を構える。
「隊長、それは奴ら次第でしょう? うっかり殺しちまわないよう注意しますよ」
一人の男が絵に描いたような舌舐めずりで、周囲を見渡して行く。
「全軍……突撃せよ!」
隊長の切っ先が振り下ろされると、広場を埋め尽くすほどの軍勢は一つの波のようにうねり、飲み込むように押し寄せる。
逃げ回る人々を追いかけ、広場は悲鳴の叫びと笑い声に包まれる。
「大人しくしろ、言うことさえ聞けば危害は加えん」
俺は照準を定め拳を握り闘気を込めて行く。地を蹴り、一歩を踏み出し、波いる軍勢の正面に立つ。
「なんだお前は? いや、蒼眼!?」
先頭の一人が怯み、それに反応するように周囲も侵攻スピードを落とす。
月ノ舞で隷属印が砕ける保証はない……なら、日ノ舞を中心に戦うしかない。
眼前に捉えた対象に一歩踏み込み体を横に回転させ、闘気を練り上げる。終え上がり、弧を描くように追従する炎を切っ先から放つ。
「演舞日ノ舞……火輪!」
大きな火の輪が広がり、周囲の魔族を吹き飛ばして行く。隷属印は多少割れたが、多くが残る。
「双星の勇者か!? 何故こんな所にいる」
「それは俺のセリフだ! 今すぐにこの国から立ち去れ!」
闘気を込め、剣を握り、再び体を横に振る。円を描きながら切っ先の刃を振り抜く。
「演舞日ノ神楽……火輪飛輪」
飛び出した横に回りながら切っ先を離れた炎は、勢いを増しながら軍勢をのみ込む。
「ぐう、ああああーー!」
たかが数百程度屠ったところで、戦況に大きな変化は訪れない。いくら俺が頑張ったても、押し寄せる軍勢は群がる蟻のように全てを飲み込む。
闘気が身体中から溢れ出し、左手、刀身、切っ先へと移動して行く。噴き出すように燃え上がり、心血を注ぎ込む。
「演舞日ノ神楽……烈火旭!」
打ち付けるように炎は何度も繰り出され、周囲を巻き込んでいく。1突きで5人が吹き飛び、100を超えてきた頃には腕の感覚がなくなってくる。
「まだだ! この程度で根を上げるようでは、導きの双星は名乗れない!」
最後の刺突により、爆炎が巻き起こり、突き抜ける衝撃が広場の端から端まで貫き、なおもその先へ突き進む。
起き上がった兵士が、俺に指差し大きく息を吸う。
「奴を止めろーー! あいつさえ消えれば、この町は陥落する!」
掛け声と同時に、周囲の魔族が俺に襲いかかる。剣を右手に持ち替え、揺り籠に左手をかざす。
「眩しい、何をしている!?」
青い光に包まれ、刀を引き摺り出す。神託に光が宿り、視界の髪が白く染まって行く。右眼の紅と相まって、その光景に怯み出す。
闘気をそれぞれに注ぎ込み、左の刀身が燃え上がり、右の刀身が淡い輝きに包まれる。一歩を踏み込み、振りかぶる度に突き進む。
「演舞日ノ舞……華炎!演舞月ノ舞……十六夜!」
燃え上がる炎が花開き、灼熱が焼き尽くす。弧を描く光は軌道を辿りながら、切っ先から放たれる。
今ので多くの隷属印が破壊できた。このまま続ければ、チャンスはある。
「ぐう……な、なんだ、後ろからーー」
鈍い塊の衝撃に、思わず後方へ視線を向ける。
「効いているぞ! 魔法部隊は引き続き放て!」
岩石のように岩の塊を生成し、絶え間なく打ち出してくる。仲間に当たるのもお構いなしに、衝撃が体を突き抜ける。
炎を撒き散らし、姿が揺らめく。刀身からの光が屈折し、姿をぼかして行く。
「演舞日ノ舞……陽炎!演舞月ノ舞……朧月!」
次々に放たれる攻撃全ては交わせない、姿が不可視になっても、実体が消えるわけではない。
俺は剣を振りかざし、鈍い金属音の中弾き落として行く。別の属性の魔法も混じり始め、攻撃は苛烈さを増す。
炎が右手手を焦がし、氷が左手を凍てつかせ、雷が腹部を貫き、木が右足を縛りつけ、岩が左足を撃ち抜く。意識が遠退き、体がぐらつく。
「いいぞ! そのまま奴を殺せ!」
殺せだと、ふざけるなよ。
俺は眼を大きく広げ、一歩を踏み込み左の刀身に膨大な闘気を注ぎ込む。構えた刀身は、限界を超え燃え上がる。
それに対し次々に手を構え、魔法を放って行く。
「演舞日ノ神楽…… ゆらり揺らめく日ノ虚い、踊り引き裂く見えざる刃、薄刃陽炎!」
揺らめく炎に消え、再び眼前に現れた時、うねりを上げた一閃が全てを貫き天へと登る。
広場いっぱいに広がった斬撃は、多くへと波及する。倒れたものの上を進み、次がなだれ込む。
「ユウセイーー! こちらに来なさい!」
ルナの声に頭上を確認すると、ソウルと一緒に急降下してくる。差し出された手を掴み、一気に飛び乗る。
俺がソウルの背中に到達すると、ソウルは力強く上空へ飛び立った。
「ルナ、ヴィーナスはどこにいる?」
「分かりません。先程ここから飛び立った後、姿が見えなくなりました」
周囲を見渡しても押し寄せる軍勢ばかり……敗戦色濃く、押し返すだけの戦力が存在しない。
僅かな希望を抱き、ルナの顔を見る。しかしどことなく暗い表情で、首を横に振り俺の期待を否定した。
「そうか、分かった……そう心配そうな顔をするな」
俺を気遣っているのだろう……どうしようもない、割り切らねばただ死ぬだけ。全ての状況において、勇気だけで乗り越えられるわけじゃない。
諦めることが“美徳”と割り切り、本心を押し殺すことで無様に生き残る。それを成長と呼ぶことで終わらせたくはない。
「ユウセイは、後押しできぬ私を恨みますか?」
「そんな事はしない……これは、俺の罪だ。弱さが招いた必然の結末に過ぎない」
奮闘虚しく一万を倒したかという所で、戦線を離脱する。無力を噛み締め、大きく天を仰いだ。




