公開処刑
ファルホークの飛び去った空を見納め、俺は振り返る。
相変わらずふざけた態度をとっているが、探りを入れるべきか? それをすると警戒され、隙を見せない可能性もある。
「ソウル、お前猫被ってるだろ」
質問に対し頭に疑問符を浮かべるように顔を傾けていく。龍のせいか表情は読み取れないが、少しだけ動きに変化を感じ、俺は確信する。
「俺が? それはない、大体なんの根拠があってそんなことをーー」
「5000年を生きる龍が余りにも軽率な行動をするとは思えないか? しらを切るのは勝手だが、わざとらしさを出し過ぎたな」
俺たちは硬直したままお互いを伺い合う。ソウルはため息の後に固く閉ざした口を開いた。
「やれやれだな、“我”の事など放って置けばいいものを、貴様は物好きだ」
ルナの手から飛び降り、俺を見上げる。
先程とは違い、威風堂々とした佇まいは、年月を感じさせ纏う空気にも重みを感じる。
「あの、先を急ぐので飛びながら話しませんか?」
ルナが割り込むように間に入ってくる。ソウルも納得したのか、体を巨大化させ高さが10mの巨体と成る。
「さあ、乗るがいい……振り落とされぬようしっかりと掴まれ!」
手を差し出し、俺とルナはその上に乗っていく。背中へと運ばれ降りると、ソウルは翼を広げ、空高く飛翔する。
旋風に巻かれ、思わず目を閉じると一気に上昇する感覚が体を突き抜ける。
揺れが止まり、目を開くと眼前には絶景が広がった。
「綺麗ですね」
「そうだな」
淡白な言葉を交わし、ソウルは翼を羽ばたかせる。そうすると、瞬きの間に町のあった場所は小さくなって行く。
「先程の話だがな、騙そうというわけではないのだ」
「そう思うなら、お前に紫の歯車を埋め込んだ相手を知りたい」
そうすると少し唸るような声を上げ、困ったように口を開く。
「分からんのだ……声が男なのは分かったが、姿まではハッキリとしない」
男と言う回答に俺は妙な感覚を覚える。ヴィーナスではない、ならこの戦争を混乱させ1番得するのはどの英雄だと言うのか?
もちろん星龍に近付ける者など勇者魔王に限られる。
「それも妙な話ですね……少なくとも、この騒ぎに他の魔王が関わっているとなるとアースラの助けは必須です」
ルナに頷き、俺は左手の神託を見つめる。
アースラとの連絡も取った上で戦争に参加など時間が許せばいいが、コウモリ魔族の件も嫌な予感がする。
「どこの諸侯か知らないが、早まるのだけは避けて欲しい」
「はい、そんなことになれば“最悪”へと事態は急変します」
纏う羽衣を強く握る。その姿はどこか焦りの感情が混じるようにも見えた。
結局俺たちの答えが見つからないまま、飛び続け目的の町に到着する。
「何やら、広場のあたりに人が集中していないか?」
そこには人が密集し、取り囲むように聳え立つ台に向かい騒ぎが広がる。
嫌な予感が頭を覆い尽くしていく。予告を無視し挑発的に処刑など行えば、火種は戦火へと変わり、国全土を包み込む。
その引き金を引けば全てが終わる死のトリガー……考える余地などない。俺の嫌な予感を肯定するように、数十人の魔族が十字架に固定されている。
「コウモリの魔族が……十字架に縛り付けられている」
それに対して、ルナは焦りの表情をうかべる。
「いくらなんでも早すぎます」
どうすればいい、せめてヴィーナスを見付かれば、やりようもある。
「ソウル、周りを旋回してくれないか? ここを仕切っている者かヴィーナスを見つけたい」
「それは構わんが、思ったよりも時間は残されておらぬぞ?」
どこで間違った? 冷静になれ、まだ処刑は行われていない。
しかし、どうやって止めればーー。
「落ち着きなさい!」
突然の衝撃に、俺の思考は停止する。
視線の先で、ルナが俺の肩を掴み揺さぶっていた。
「まだ終わっていません……これからです。これから私たちが止めるんです」
ルナの声に俺の思考が落ち着く。鮮明になった脳は、一つの答えを導き出す。
そこから先は、体が勝手に動いていた。ソウルから飛び降り、広場に向かい全力で地面を蹴り上げる。
「ユウセイ、どこに行くのです!」
「あの広場を制圧する。ルナたちはヴィーナスを見つけてくれ」
処刑を止めるなら、全てをぶち壊してやればいい。それどころでは無い状況を作り、その隙にヴィーナスを見つける。
「ダメですのよ、私の人形劇に貴方はまだですの」
すれ違いざまに、コートの人物が言葉を発する。俺が振り返るとコートが宙を舞い、中から探していた人物が姿を表す。
既にギターに手が添えられ、俺が手を伸ばした瞬間……音が鳴り響いた。
「演舞金ノ舞……狂乱の抗争曲!」
俺が手を触れる一歩手前で、音が鳴り響き、その振動が広場全体に伝わる。それと同時に、槍を向けていた兵士の急変し始めた。
「魔族め、死ねえええーー!!」
狂ったように叫び声を上げ、次々に突き刺していく。他の兵士も次々にもがき始め、各々の武器を手に取り、独断による処刑を始める。
「お前らがいなければ、この国は平和だったんだ!」
それに比例して、悲鳴が加速し、一瞬にして広場は血と狂乱が支配する地獄へと変わった。
「ヴィーナス!」
「なんですの? 今最高にハイになっていますの、邪魔はさせませんのよ?」
指先で弦を鳴らすと、周囲の住民が爪を突き立て、木の枝、割った瓶の破片など、様々なものを駆使して俺に襲いかかる。
公衆の面前で一般人、ましてや他国の国民に傷を負わすことはできない。
俺は攻撃を手で弾き、ヴィーナスに詰め寄る。
「そう、それでいいんですのよ。じっとしていてくださる?」
笑いながら翼を広げ、見下ろし処刑台の目の前まで飛び上がる。そこにいる兵士に向かい、瞳に涙を蓄え、悲願するように呼びかけた。
「私は人質開放の交渉に来ました。それが、この光景はなんですの!? あんまりではありませんか……指揮官は何をなされているのですか!」
悲壮感漂う表情で、身振り手振りをしながら被害者を演じる。
たっぷりと盛っているのだろう。悪趣味極まりない行為を、息を吸うようにやってのける。
「奪われた同胞の命は戻って来ません」
その一言で、空気が変わる嫌な予感……最悪が形になり、現実へと引き摺り込まれる。
「ウェヌス魔境国、魔王ヴィーナス・レア・ゴールドの名において……海王諸侯同盟に宣戦布告を宣言しまわ」
王の宣言と共に、大地を埋め尽くすほどの大軍が、町に押し寄せる。数日前の1000人どころではない、ざっと見て5万を超える軍勢は、なだれ込むように町を包囲した。
兵士たちが武器を捨て、次々と降伏する。
この戦争を皮切りに、世界は再び混沌へと移ろいで行く。




