神託の導く先
攻撃を完全に避け切ったことで、予想は確信に到る。
「意味がわからないわ」
「分かるよに答えて無いし、教えるつもりも無い」
その返答が気に触れたのか、踏み込みの力が強くなる。
「羽ばたけ……フレイムファルコン」
両手を差し出し、2羽の猛禽が現れ、飛び立つ。指や手を傾けることで、方向転換し、獲物に対し旋回飛行を取りる。
2羽をこの規模で同時に操作するとは、豪快な性格に似合わず繊細な魔力操作をする。
「燃やせ……ファイアーボール」
10を超える炎弾を周囲に発生させ、炎の鳥目掛け飛ばして行く。ロッカは手を傾け、開き、伸ばしながら、方向を転換する。
俺はそれに対し、追撃を放ち、3発の着弾に成功するも、効いている様子が無い。
「何をしようと通用しないわ……猛禽餌の時間よ」
猛禽は翼を羽ばたかせ、弧を描くように迫りくる。後方90度、前方50度の方角と高さも前後させ、狙いを定めさせてはくれない。
「火すら焼き尽くす最強の炎、太陽の熱をここに……アポロン!!」
俺は超巨大炎球を生成し、自分に向けて落とす。俺は同時に蹴り上げるように、廊下との距離を詰めて行く。
「良いわ……あなたがその気なら、受けて立つ!!」
床に刺さった戦斧を拾い上げると、柄を頭上で回転させる。
「演舞炎ノ舞……旋回ノ炎鳶」
踏み込むと同時に、体を回転し薙ぎ払う。後方でアポロンの爆発による衝撃と、爆煙により大気が振動する。それにより強烈な光が発生し、大きな影を作る。
そこを突き破るように1羽の猛禽が追撃する。流石にもう一体は無理だったか、だが十分だ。
「演舞日ノ舞……陽炎」
両方行から迫られ、揺らめく炎と共に真っ直ぐに追進する。爆風に飲まれながら、陽だまりを揺らすように攻撃が空を切る。
そして揺らめきの中を猛禽が突き抜け、無防備なロッカへと直進する。
「ーーしまっ!?」
炸裂音が戦場を駆け抜けこだまし、煙が立ち込めて行く。その中で床を踏み締める音が鳴り、戦斧が落ちる音が反響した。
「ッゲホ……本当にどう言うつもりかしら?こんな事で倒せるなんて甘く見てるわけでは無いでしょう」
ダメージは比較的浅い……だが十分だ。後は俺がどれだけ届くかにかかっている。
「そうだな、だから少し付き合って貰うぞ」
俺が詰め寄ると、戦斧へと手を伸ばす。しかし持ち上げようとした時、一瞬だけ動きが止まる。
「貴方もしつこい男ね……良い加減にしなさい」
握る力を込め、一気に振り上げた。高い反響音と、鈍い摩擦音が断続的に鳴り響く。
ーー妙だ。動きの不自然さから、ロッカの力には秘密が有ると俺の直感が訴えている。そうで無ければ説明がつかない。
「ホント馬鹿みたい……忘れたいのに何度もチラついて、鬱陶しいのよ!!」
押し込む力が強まる。俺もそれに対抗し、両手で掴みながら押し返す。
「それが……お前が犠牲にしたのが炎鷹の勇者ビレトなのか?」
ロッカは眉を寄せ、瞳を揺らしながら不快感を露わにする。鍔迫り合いで顔が近く、表情の一つ一つが見えやすい。
「だったらどうなの? 貴方だって同じなんでしょうーーその吊り下げた揺り籠に、貴方のエゴで犠牲になった月光の勇者が入ってるんじゃ無いの!?」
力が強まり、比例するように瞳が次第に変化して行く。
「貴方は所詮は口先だけーー何かを導くことなんて出来はしないのよ!!」
やはりダメなのかーー俺の言葉ではロッカに届かない。
「ユウセイ……信じています」
思考が堂々巡りをする中、ルナの声が聞こえてきた。たった一言だけ、それがストンと心に落ち、平静を取り戻す。
「情けない男……何を笑っているのかしら?」
俺が笑っれる? そんなつもりは一切無いが、ロッカにはそう見えるらしい。
「気に入らないわね」
「気に入られたい訳じゃ無いからな」
ロッカはピクリと眉を動かす。
その姿がおかしくて笑いを堪えようとすると、ニヤけてしまい悪循環して行く。悪いと思いながらも、謝ろうと口を開こうとした時、思いがけない言葉をかけられる。
「貴方を前にすると、私が鈍る……定まらなくなるーーもしもを願ってしまう」
どこか遠くを見つめるように、神妙な面持ちで何かを語る。先程の刺々しさは無く、借りてきた猫のように大人しい。
ただならぬ様子に鍔迫り合いを解こうとした時……勇気の神託とロッカの胸元が光出し、共鳴するかのように光に包まれて行く。
「これは……ロッカの揺り籠と勇気の神託が共鳴しているのか?」
平衡感覚も何もかもが無くなり、無重力の空間のような場所で意識が覚醒する。
「暗くて何も見えないんだが……ロッカ、居たら返事してくれ!!」
呼吸に問題は無し……声が反響しないとなると、密閉された空間では無いようだ。
「……先生、どうして私を1人にするの……行かないで」
漂っていると、やがて蹲ったロッカに出会う。しかし目に生気はなく、反応もしていない……ただボソボソと、言葉を繰り返している。
「お前が導きの双星で良いのか?」
突如の低い声に肩が跳ね、視線が吸い込まれるように向く。
「ああ、悪い……驚かせるつもりは無かったんだ」
そこには見覚えの無い男が立ち尽くす。誰だろうか……顔は半分から上が影がかかり見えず、左手の甲に削られたような跡がある。
「普通自分から名乗るものじゃ無いのか、こう言う場合は?」
「そうだな失礼した……俺は___だ」
ノイズがかかったように名前の部分だけが抜け落ちて聞こえる。俺は奇怪に思い、僅かばかりの警戒心を向ける。
「双星付いて来てくれ、お前に見せたいものがある」
俺は立ち止まったまま、その後ろ姿を見送る。信用できない相手について行く道理など無い。
「来ないなら仕方ない」
俺の視界が一気に急降下する。いや、俺が落ちていっているのか?
「お前は知らなければならない……そして答えを見つけるんだ」
「いや、何のはなしをーー」
言葉を置き去りにしたまま、加速しながらどこまでも落ちて行く。やがて水面に鮮やかな映像が映し出され、音声が再生する。
「お父様、お母様見てください」
そこには幼い少女、ロッカらしき人物と、若い皇帝?と女性の姿があった。何とかそこまで確認すると、着水し、深みへと沈んでいく。
この先は何があるか分からない、しかし神託はその先を指し示していた。




