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黄昏の女神

 灼熱(しゃくねつ)が支配する領域内にて、ユウセイは虫の居所が悪そうに、眉を寄せ、口角を吊り下げ、渋い顔をする。


「俺の目を覚ます? 目を覚ますのはお前だろ?何で魔王を守ろうとする?」


 ユウセイの怒りに呼応するかのように、マグマのフィールドは、ボコボコと煮えたぎる。火柱を吹き出し、温度は上昇をしていく。


「ユウセイ……聞きなさい。負の力は悪ではありません。正の力もまた、正義ではないのです」


「ソレはお前だ。早くこっちに来い、お前を巻き込みたくは無い」


 ルナはユウセイに必死に呼びかける。心を尽くし、言葉を重ね、思いを吐き出そうと、ソレは虚しく夜空に消えていく。それでも、前へとグイグイ行くルナに、アースラはその肩を抑える。


「今のヤツにそんな事を言っても無駄だ。分かってるのか?」


「届きますよ……届くまで何度でも叫びます」


 振り返るルナの必死さに、アースラは何かを思ったのか、瞳を閉じ、ゆっくりと立ち上がる。目蓋を開いた時には、迷いは晴れていた。


「分かったよ。信じるなんて言いはしない……全力で成功させたまえよ」


 英知の書を宙に浮かせ、再び戦闘の構えをとる。


「作戦を聞こうじゃないか? まさか無策じゃないだろ?」

  

 ルナは頷き、フィールド内に無造作に放置されたユウセイの道具袋を指す。倒れ込んだ時に落としたようで、マグマの浸食は受けず、残っていた。


「あの袋に入っている聖水を、ユウセイの口にブチ込みます」


 聖水とは書いて字の通り、聖を極限にまで高めた水。浄化、洗浄、色々な使い方はあれど、負に対する反属性。今のユウセイは負の塊……触れただけで、ソレは効果がある。


粗末(そまつ)ではあるが、それでも効果は期待できる。把握した……私が全力でサポートするから、何としても成功させたまえよ」


 アースラは、語り終えると同時にアースバインドを大量展開。その手は20にも届き、我先にと、ユウセイに襲いかかる。


「無詠唱か、だがそれじゃあただの岩の塊だな……ヘルフレア!」


 黒い炎がユウセイの左手から燃えかがり、手を横へ広げると同時に大きくなる。ソレを放出すると瞬く間に岩の手に燃え広がる。やがて崩れ落ち、残骸のみが周囲に散乱する。


 そしてソレを見計らうように、ルナは走り出す。目標は聖水一直線。しかし、ユウセイはソレを許そうとしない。


「そこまで俺の邪魔をするなら仕方ない。少し大人しくしてもらう」


 ユウセイは右手を差し出し魔力を集中する。標的をルナに構え、その凶弾を放とうとする。


「アース・ウォール!」


 ソレはユウセイの足元を突き上げる。だがソレは読まれており、膝の力を抜く事で、スルリと飛び降りる。次々に現れる岩壁を左に右へ、左に上へとかわし、次々に距離を詰めていく。毎秒10は出現しているであろうソレを、ステップを踏むかのように軽やかに避ける。


「化け物め、演舞地ノ舞……神話の章ーー天雷の剣(てんらいのつるぎ)

 

 アースラの足元より、直径20メートルはあるであろう超大型電磁砲装置が姿を表す。照準をユウセイに定め、剣状の切っ先が、三つに分かれる。エネルギーは収束し、今かと解放の時を待つ。


「私とて魔王としての矜持(きょうじ)がある。その身で味わえ、神話級兵器の一撃を」


 アースラが手を振り下ろすと同時に、その一撃が放たれる。超密度のエネルギーの塊は、地上の岩壁を次々に飲み込んでいき、ユウセイへと迫る。


「演舞日ノ舞……陽炎日没(かげろうにちぼつ)


 ユウセイが刀を突き立てた先で、ユラユラと空間が歪む。そして莫大なエネルギーをその切っ先で受け止めた。天雷はぶつかり、その色に暗い影を落とす。輝きは失われ、深き夜へとすべてを飲み込む。


「く、コレでもダメか」


 アースラは闘気を多量に消費した反動で、体を振り子のように揺らし、後ろの岩壁に寄り掛かった。息切れが激しく、満身創痍(まんしんそうい)となり、ソレを確認したユウセイは視線を外した。


 さて、ルナを捕まえれば終わりだ。


 ユウセイはそう思い、演舞を解除した。しかし、その瞬間影を突き破るようにルナが現れる。手には先程の袋を持ち、飛びかかるようにユウセイに左手を伸ばす。アースラとの激しい戦いの中、近づく隙を伺っていた。

 

「わざわざ正面から来るなよ。止めてくれって言ってるようなものだろ?」


 左手をズルリと伸ばし、ルナの首を乱暴に掴む。ソレをゆっくりと締め上げる。ギリギリと早々に気絶をさせようとするも、逆にユウセイの手を掴み、苦痛にまみれた顔で、笑みを浮かべる。


「か、かりましたね。聖なる守護の光、集まりて浄化の光となる……ホーリー!」


 視覚を完全に奪うほどの強烈な光が2人を包み込み、ユウセイにその光が降り注ぐ、しかし、そのを僅かに怯ませる。その瞬間ルナが掴まれた手を振り解く。そして首に腕を回すよにユウセイに纏わり付く。


「美女の抱擁(ほうよう)はやぶさかではないが、ルナは意地が悪な」


「なら攻撃でもして、無理矢理解けば良いではないですか?」


 ルナは魔法を維持すると同時に、自らの正の気を放出。ソレはユラユラとユウセイを包み込んで行く。回す手はより力を込める。そこに漂うは甘い雰囲気では無く、駆け引き。


 ユウセイは地に刀を刺し、闘気を込める。


「演舞日ノ舞……落日(らくじつ)


 刀を中心に闇がゾワゾワと水面を揺らし広がり、2人にズルズルと纏わり付く。ソレらは止めどなく溢れ、ルナの魔法を全て喰らい付くし、なおも肥大化する。


「こ、コレは……ん」


 ルナは悶えながらも、必死にソレに耐える。ルナのすべてを喰らい尽くそうと、這うように纏わり付く。


「なあルナ、このまま身を委ねれば、負はお前を侵食していく。どうだ? 俺と一緒に行かないか?」


 纏わり付くソレが、ルナから正の力を奪って行く。その表情は青くなり、込める力も次第に弱くなる。回した腕も、解けようとしていた。


「良いですよ、貴方となら何処へだって行きます。この身を焼き尽くす火の中だろうと、地獄に身を落としても、貴方を1人になんてさせません」


 その言葉は弱々しく、今にも壊れそうなほど、最後の力を振り絞り、回した手に力を入れる。足に力を踏みしめ、体を震わせながら、ユウセイの耳元へと顔を近づける。

 

「やめろ、それ以上無理をすれば君の体は持たないぞ」


 アースラは動くのもままならない体を動かし、ルナへと訴えかける。


「大、丈夫です」

 

 ソレに対し、優しく笑い返すと、侵食が続き、もはや殆どが黒く染まった体でユウセイを抱き寄せる。


「私……()()()()()から、貴方のことが好きです」


 その後、ルナの力は完全に抜け、手から聖水の瓶は滑り落ち、無残にも砕け散る。聖水は地面に染み込み、消えていった。闇はルナを覆い尽くし、静けさが場を支配する。


 ユウセイがルナを確認する。その顔には一筋の涙が溢れていた。無意識に、顔に手を触れたその時ーー。


 ルナとユウセイの唇が重なり合う。


「ーーん? んんーー!?」


 ルナはユウセイを掴み、引き寄せ、乱暴に唇を奪った。突然の出来事にユウセイは驚き、僅かに口を開く。ルナはそこに舌を這わせ、ユウセイの口内を蹂躙(じゅうりん)し、()()()を確保する。


 訳もわからずユウセイはルナを引き剥がそうとする。しかし、女性とは思えぬほどその力は強く、剥がすことができない。 

 

 そこへルナの口内から生暖かい液体を流し込む。吐き出すように出されたソレは、勢いに任せて、ユウセイの喉に到達。ごくごくと音を鳴らし、多くが飲み込まれていく。


 ユウセイはそこで気が付き、引き剥がそうとするも、ルナはこれまで以上にユウセイを拘束。左手を首にわわし、右手で頭を引き寄せる。


「ぷはあっ……あっぐ」


 ユウセイは何とか唇を剥がす。そしてすかさず地に刺さった刀を逆手に引き抜き、大きく振り上げ、闘気を込めいていく。


「戻ってきて下さいーーユウセイ!」


「強情め、はやく離れろ!」


 ルナはそれでも離れない、少しでも可能性が有るならと、その服を強く握りしめる。アースラの忠告など全く気にせず、ユウセイの事を気にかけ続ける。


 その刹那、ルナとアースラの驚愕の表情と、飛び散る鮮血に彩られ、刀が肉体を貫く。


 ルナは瞳を閉じて、大粒の涙を止めどなく流し続ける。この時を待ちわびたように、引き裂かれた長い時間を埋め合わせるように、そっと寄り添う。


 刀は、ユウセイの腹から胃に刺さり、あるものを貫いていた。


「演舞日ノ神楽……夜明(よあ)()


 その炎は傷の間を差し込むように、ピンポイントに魔葉樹の実を焼き尽くす。ソレが終わると、安心したような顔で、その場に崩れた。領域は消え去り、夜風が2人を吹き抜け、月明かりが優しく照らす。


「お帰りなさい。ユウセイ」


 まだ僅かに涙腺を緩ませながら、ユウセイの頭を撫でる。ルナの魔法で、2人の傷は癒えていき、ルナに抱えられながら、ユウセイの意識は微睡(まどろみ)の中へと消えていった。


「ーーただいま。ルナ」


 


 

 

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