解かれる呪縛
暖かい、全身が包まれ、ふわふわと心地い。俺は満たされた気分の中、目蓋をゆっくりと開く。そこにはルナの顔があり、あと20センチと言うところまで迫っている。
「おはようございます」
「おはよう、ルナ」
慈愛の眼差しで、優しく笑みを返す彼女に、あの出来事を思い出してしまい、気恥ずかしさから視線を逸らす。素っ気無い挨拶を交わすのが精一杯で、正直言って茶化して欲しい気分だ。
「イチャコラするのは勝手だが、君の役目が残ってるだろ? 早く終わらせてくれないか?」
声の方を見ると、城の壁に寄りかかり、疲れ果てるように、アースラはいた。その助け舟に、有り難く乗りたいと言いたいところだが、ソレを躊躇われる。
「ユウセイ、アースラが動けるようになる前に、済ませる事をお勧めします」
俺の心を察したのか、真剣な顔でルナは答える。
「彼女の言う通りさ、私が動けるようになれば、隷属印の防衛本能が働き、君たちに襲いかかるぞ?」
俺は覚悟を決め立ち上がる。ルナの手から離れ、刀を構える。すると勇気の神託が光を放ち、アースラの神託へと届く。そこからヒビの入った禍々しい印のようなものが中に現れる。
「ユウセイ、これが私たちを縛りつける印……隷属印だ」
危なかった。何も言ってくれなかったらアースラをズバッと斬り捨ててたかも知れない。頬から冷ややかな汗を流し、刀を両手で握り、闘気を込める。
「ユウセイ、緊張してるのですね?」
心配そうに俺を見つめるルナ……いや、違わないんだが、それはもう良いか。
「演舞日ノ神楽……夜明け暁」
俺は勢いを込め、刀をヒビの中心へと突き刺す。ソレは内部から炎を吹き出し、メラメラと燃え盛る。そして刀を引き抜くと、バラバラと砕け散っていった。
「上出来じゃないか、導きの双星」
アースラは安心したように、ホッと一息をつく。ソレも束の間、アースラの神託が大きく光を放ち始める。
「何だ? こんな経験初めてなんだが? 君が何かしたのかね?」
「いや、特別なことなんて何もしてないぞ?」
そのやりとりを静かに見つめていたルナが、思い出したかのように目を丸くする。
「コレは、まさか!? ユウセイとアースラは神託を近づけて下さい」
慌てるルナに疑問を抱きながらも、俺は左手を近づける。迷ってるアースラに対し、俺は首で乱暴に合図すると、渋々と近づけて来た。
「紋章学者としては、もう少し拝んでみたかったが致し方無い。と言うか君の私に対する扱いは雑だな」
「その紋章学者って設定本当だったのか?」
話を逸らした事や、扱いの雑さにアースラは渋い顔をする。今更何を言われたところで、知ったことでは無いのだが、一応国王だと言うことを思い出す。
「2人とも集中してください、いつになっても終わりませんよ」
ルナに催促され、意識を集中させると、アースラの神託から出た光が、俺の信託に一部に流れ込む。円を描くような特殊な信託……その不自然に空いたスペースに一つの星が宿る。
それに対し、アースラは瞳を大きくし、俺の手を乱暴に掴んできた。
「そうか、君の神託は太陽系を模試ているのか!? 私の知識の神託がここに?」
何やら、自身が転生者である事をほのめかす発言をしてるが、ソレらしい言動や演舞を使ってたし、今更か?
少し目を離すと、紙を取り出して、ズバズバと色々な事を書き記している。といか、今聞き捨てならないこと言ったよな?
「知識の神託と言いましたね?」
ルナに先を越される。聞いたことがない神託だ。ソレは何を意味する?その様子から重要な話なのは間違い無いだろう。俺は静かにその話に耳を傾ける。
「いかにも、我こそは負の勇者にして負の英雄。魔王アースラ・セイン・ガイアである」
「ーーやはり」
ルナは悩むように、頭を押さえる。だが見えて来たーーコレからどうすべきか? 決まっている。俺は確かな手応えを感じ、拳を握りしめる。
「隷属は解かれ、こうして会話の制限がかかることもない。ユウセイ……私を助けてくれて、本当にありがとう」
面と向かってお礼を言われると、少々こそばゆい気持ちになる。礼を言われる事に慣れてないせいで、素っ気無い態度になる。その目には僅かに涙が滲んでいた。
きっとこの時を待ちわびていてのだろう。耐えて耐えて、呪縛から解放されるこの時を待っていた。プルートや、もしかしたら……ウラノスもそうだったのだろうか? 闘う意思などなく、強制的にやらされていたのか?
「何はともあれ布石は揃った。中王会議に導きの双星が殴り込み。中々刺激的だろ?」
アースラは面白そうに呟く。ソレにはルナも反応したようで、興味深そうに答える。
「もうそんな時期ですか、しかしちょうどいいですね。あの場は全ての英雄が集う場所」
俺が思いに浸っている間に、聞き流せない単語が飛び出す。中央会議?で合ってるんだよな?全ての英雄が一同に会する場所か。
「全責任は私が取る。派手に喧嘩を売りたまえ、世界に英雄たちに、導きの双星ココにアリとね」
眼鏡を左手で直しながら、右手で俺を指差す。
「もう時期海王諸侯同盟とウェヌス魔境国は戦争になる。死人も多く出るだろう」
アースラは真剣な表情でコレから起こるであろう惨劇を語る。ソレは遠からず起こる未来、現実、史実。ソレらが隷属印が引き金で起こる。
「ソレと今回のこと、なんの関係があるんだ?」
俺は当然な疑問をアースラに投げかける。宣戦布告なんて、それこそ逆効果だしやめた方がいいと思う。
「簡潔に言うと、黄金の魔王ヴィーナスがけしかける形になる。そして負けるのはヴィーナスだ。死ぬまで戦うと思う……ソレは詰みだ」
分かって来た。戦争を先延ばしにし、出来るだけ時間を稼いでくれってことか?
「成る程、今回はヴィーナスを標的にする訳ですか、ユウセイの十八番ですね」
ルナが何か分かったような顔で俺を見てるが、挑発して気を引けば良いんだよな? 少し不安になって来るんだが?
「時間さえ稼げれば、私もフォローする時間ができる。カイトとヴィーナスの隷属印の破壊。その戦争を利用して、ハッタリを本当にしてしまえ、ソレを持って導きの双星の名は世界に轟く!!」
意地の悪い笑みを浮かべ、アースラは高らかに宣言する。
地平線の彼方より、日が昇り始める。ソレは新たな物語の到来を予感しているかのようだった。




