第三話 真実
——天空界——
(本題? 僕に・・・話?)
シュンは困惑した。
いきなり足元の紋様が消え、自分だけ取り残されたからだ。
「あの、僕に何か用ですか?」
「用も何もあなた達をここに招き転移させたのは、あなたが原因ですよ?」
「!?」
(えッ!?、僕のせい!?)
どういうことだろうか。
シュンはただ告白現場を盗み聞きしただけだ。
そこから自分やクラスメイトを転移するのには少々理解し難い、そう思った。
「えっと・・・、僕が告白を覗いたからですか?」
「あ、そういうことですか。なるほどなるほど。ふふふ・・・」
神(自称)が今まで以上に小憎たらしい笑みを浮かべる。
何を今ので解釈したのだろうか・・・、と思っていると語り始めた。
「つまりこういうことでしょう。シュンさんには想い人がいて、たまたまその人の告白現場に遭遇してしまった。その想い人は告白を承諾してしまう。そこから打ちひしがれたシュンさんは世界に絶望してしまった。そして世界に拒絶した・・・、っとこんな所でしょうかね!」
「!?」
(なんで!?なんで分かったの!?)
「ふふふ・・・、なんで分かったのかって顔してますね・・・」
(エスパーかよ!)
「エスパーではないですよ、神です!ふふふ・・・」
(・・・・・・)
この神(自称)は心の内を覗くことが出来るのかもしれない。
ますます人間離れしたとこを見て焦燥に駆られる。
「安心してくださいな。読心魔法は魔力消費が少ないけど、手間なんです。だから、もう使用しませんよ!、と言うよりも推測する方が暇しませんから・・・。」
(ま、魔法・・・)
ふと足元を見ると、紋様が浮かんでいた。
これでシュンの思っていたことを読み取っていたのだろう。
しかし先程までは無かった。
これには訝しげな表情をしてしまう。
「さっきまで無かったのに、って顔してますね!、それは隠蔽魔法を二重にかけてたからですね。これも疲れるけどドッキリには最適ですよ!」
「い・・・隠蔽・・・」
一体何がしたいんだろうか、そう思いながら初めて見る魔法に釘付けになっていると神(自称)は再び語り出した。
「魔法は置いておきましょう。少なくともあなたが叫んだから転移したんですよ。確かに、たまたま声が聞こえて、尚且つ私が暇だったからなんですけどね!」
「さけ・・・んだ・・・、——!?」
その時シュンは思い出した。
確かにあの時シュンは世界を拒絶してこう叫んだ。
(——こんな世界、もううんざりだ!!!)
「ッ!? あの時か! だったら・・・あッ!!!」
そしてシュンは崩れ落ちた。
その話が本当ならクラスメイト達が異世界に飛ばされたのは自分が世界に拒絶したのが原因だからだ。
つまり、彼らが転移してしまったのはシュンのせいである。
「あ・・・、あぁ・・・、あぁぁああ・・・・」
息が詰まる。
汗が吹き出す。
シュンの感情に左右されて36名の人生を狂わせた。
いくらハッピーエンドになると分かっていても、必ず安全だとは限らない。
傷ついてしまうかもしれないし、前とは違う肉体や性格になるかもしれない。
だがもう遅かった。
(ハルト・・・、ナナ・・・)
ただ、彼らの名前を想うことしか出来なかった。
しかし相手はそれを待ってはくれない。
「では、詳しく説明しましょうか!」
「そうだ! どうして僕だけ残されたんですか!? 何かみんなに言伝でもあるんですか! それなら早く行ってみんなに謝罪したい・・・、許されるとは思わないけど、謝るくらいはしたい!」
「ふふふ・・・、安心してください! そんな必要ないですよ」
「え?、必要ない?」
「ええ、だって全部無駄ですから・・・」
「む・・・だ?」
無駄。
無駄とはどういうことだろうか。
謝っても許されないということだろうか。
それなら重々承知している。
他人の人生を巻き込んでしまったんだ。
ましてや、教室でも目立たない一介のクラスメイトのせいで・・・。
もしかしたら転移すら出来ないのだろうか?、だとしたら困る、そう思った。
謝ることも出来ず、ただのうのうと生きる、それだけはシュンは出来なかった。
自分がやってしまったことは少なくとも自分で処理してきた。
これは彼の自尊心も深く傷つけた。
だがそれが贖罪なら仕方ない、そんなことで済むなら快諾しようと思った。
「あの、随分考え込んでいる所悪いんですけど転移できますよ。」
「本当ですか!?」
どうやら転移できるらしい。
シュンは胸のつっかえが取れ安堵の息を吐いた。
「ですけど、ここで重要な点がございます!」
「重要な点?」
「はい。シュンさんには魔界に転移してもらいます!」
「え?魔界ですか?」
「はい。詳しくいえば魔界で1番大きい国、ロステルラッテに転移してもらいます。」
(魔界?なんで僕だけ・・・)
シュンは理解できなかった。
何故自分だけ魔界に転移しなければいけないのか。
「ふふふ・・・、では簡単に言いましょう。私がシュンさんを魔界に転移させるのは戦争が観たいからです!」
「せ・・・戦争!?」
「私が戦争を望むのは簡単に言うと暇つぶしです!」
「暇つぶし・・・」
神(自称)曰く、今天空界は平穏らしい。
神も眼前の存在だけでなく、まだ多数いるらしい。
だがほかの神は今留守にしているという。
いつもならほかの神と他愛のない世間話くらいするのだが、それすら出来なくなってしまった。
それに痺れを切らした神(自称)は一つ思いついたらしい。
戦争を観戦していれば暇を潰せるのでは?と、
そのためには色々準備が必要で、面白くするのに異世界人の存在が必要不可欠らしい。
そこで大多数の勇者を人間界に送り戦争を引き起こそう、と考えたそうだ。
この話を聞きシュンは唖然としてしまった。
神の暇つぶしでみんなの命を危険に晒してしまうのだ。
当然考えようにも考えられない。
ハッピーエンドとは言えないものになってしまった。
そして、ここで一つ疑問が生じる。
だったらなぜシュンは魔界に一人で転移することになったのだろうか。
「どうして、僕だけ魔界に転移するんですか!?」
「簡単ですよ。面白くするためです」
「面白く、ですか?」
「はい。そうですよ」
神(自称)よるとクラスメイト達は人間界で勇者として転移するらしい。
このことは戦争の設定のひとつという。
そして、一番重要な存在がシュンだという。
「シュンさん。あなたは魔界で破者として人間界に攻めてもらいます。」
「覇者ですか?」
「いいえ。破者です。」
破者とは、向こうの世界の言葉らしい。
「全てに勇敢に立ち向かう者」が勇者なら、「全てを破壊する者」が破者らしい。
「勇者と魔王はそもそも立場が違うんですよ。魔王って一応王ですからね。ここが私、長年引っかかっておりました」
「た、確かに・・・」
「そこでシュン君には破者として人間界を破壊して欲しいんですよ!」
「破壊って・・・、もしかしてクラスメイトもですか?」
「ふふふ・・・、当たり前じゃないですか!」
(!?)
明らかに動揺してしまった。
破壊するということはつまり、殺すということだ。自らの手でクラスメイト達を屠る。
考えただけでも恐ろしい。
そもそも、平々凡々で、悠々自適に過ごしてきた自分が殺人なんてできるはずないと思った。
「は、破壊なんてできません!!」
精いっぱい声を張り上げて抗議した。
そんなことはしたくないと、
「もう転移することは決定事項ですし、先程を申しましたが謝ることすら無駄なのですよ!あなたが手を汚すことは必然なのです!」
力が抜ける。
先程まで崩れて落ちていたシュンは転移できると聞いて持ち直してはいた。
だが、今の話を聞き、再度崩れ落ちてしまう。
「なんとかならないんですか!?」
「なんともなりません。ふふふ・・・」
この小憎たらしい微笑を見ると背筋が凍るような感覚に陥る。
「そうそう、元の世界は今も時間は動いていますよ。また願いを叶えるのも話を潤滑に進める与太話です! どうです?面白いでしょ?ふふふ・・・」
「ッ!?」
今でも元の世界の時間は動いている。
つまり、忽然と自分たちは姿を消したわけだ。
世間は黙っていないはずだ。
「そんなことしたら、元の世界が不自然なことになるんじゃないですか!?」
「ふふふ・・・」
「な、何がおかしいんですか!!」
「すみませんね。不自然なことですか・・・。そもそも世界は不自然で満ち溢れているんですよ。今更たった一つのクラスが消えるのは大したことではありません。それに、元の世界からはあなた達の記憶は消しておきましたから安心してください!ふふふ・・・」
(・・・)
自分たちの記憶が消された。
存在していなかったことになる。
ここでシュンは本当の意味で孤立してしまった。
元の世界から乖離し、クラスメイト達も異世界に旅立ってしまった。
つい先程まで異世界に行けることに意気揚々としていたが、そんな感情は消え失せていた。
「ここで、簡単なルールを説明しましょう」
「・・・ルールですか?」
「ルールです。規則がないと戦争はつまらないですからね」
「ゲーム・・・」
戦争をゲームと言うのに不快感が湧く。
だがそんなことは口が裂けても言えず、ただ黙って聞くだけであった。
ルールは以下の通り
一つ、戦争が神によってもたらされたことを異世界の住民に伝えてはならない。
一つ、ただし、クラスメイト達に説明することは認める。
一つ、クラスメイト達から異世界の住民に伝えることは認める。
これらを最低守らなければいけない。
これを破った場合・・・
「ルール破りは御法度ですからね。世界崩壊に繋がりますよ。それと同時にあなたの頭も爆ぜます。ふふふ・・・」
「ひぃ!」
言ったら最後。
ルールだけは守らなければならない。
「ちなみに向こうの世界にいるあなたの友人方はあなたとの記憶に鍵がかかっております。そのため、あなたが説得するのは大変難しいと存じます。きっかけがあれば別ですが!」
(・・・)
自分の存在はクラスメイト達は覚えてないらしい。
最低限の付き合いしか無かったため、クラスメイト達から忘れられるのは酷ではなかった。
しかし、親友と幼馴染は別である。
彼らが自分を忘れるとは俄に信じられない。
いや、信じたくなかった。
「そうそう、戦争を止めるのもひとつですかね」
「止められるんですか!?」
「はい。当然ですよ。主悪の根源を討てばいいのですよ」
「主悪の根源・・・」
その時、シュンは考えてしまった。
(主悪の根源って、それは・・・)
「はい。私です!」
「!?」
何も隠すことなく神(自称)は答えた。
別に教えても自分は苦じゃないと言うかのように。
(これしかない・・・)
シュンは決意した。
人殺しになるくらいなら神を倒した方がずっといい。そもそもこんな存在が自分たちの神だったと思うと震えが止まらない。
神ではなく悪魔の間違いだろうと考えてしまう。
「私は悪魔ではないですよ!悪魔なんて下等なものでは無いです!」
ぷりぷりと怒る神(悪魔)は、普通に見ていれば誰でも魅入ってしまうほど美しいが、内面は泥沼のように腐っていた。
「そろそろ魔神が来そうですね。あいつ私と性格が真逆だからな~。あんな理性の塊より私みたいに本能に忠実な方がよっぽど神らしいと思うんですどね~」
どうやら、魔神はこの神(悪魔)と違うようだ。
こんな存在が幾つもいたら溜まったものでは無い、そうシュンは思った。
「じゃあ、行きますか!」
「待って!」
「?」
「あなたを倒せばいいんですね?」
「はい。そうですよ。それも一つですよ」
「なら僕はあなたを倒します!!」
そう宣戦布告した。
絶対に人殺しをするもんかと固く決意した。
そして、戦争なんて馬鹿げたものを止めるんだ!!と胸に刻んだ。
「いいですね!ぜひ挑んでください!」
「え?いいんですか?」
「私は暇を潰せればいいですからね!」
「はあ・・・」
「では開きます!『異世界門・悪魔』!」
(さっきと呪文が違う!)
神(悪魔)が唱えた瞬間足元に禍々しい紋様が浮かんだ。
それを見た瞬間、シュンはその場から消えてしまった。
「面白い子ですね。神に挑むのですから生半可な気持ちじゃ持ちませんね。ふふふ・・・」
真っ白な空間に不吉な笑い声が響いた。
面白い、続きが読みたいと思われた方はぜひ評価のほどよろしくお願いします。