第二話 転移
——?——
(――ここは・・・)
シュンが目覚めた時、周りを見渡すと一面真っ白な空間にいた。
奥を凝視しても何も存在しない。
本当に何も無い空間だった。
(一体どこなんだここは・・・)
「——ッ!?、 うわッ!? なんだなんだ!?」
シュンが逡巡していた時、目の前にさっきの紋様が浮かび上がった。
理解できない現象が続き戸惑っていると・・・
「痛ってぇな〜・・・」
「どこだよここ・・・」
「まさかまさかの転移だったりして!?」
「シホはこういうの好きだもんね・・・」
「ほんとになんだってんだ・・・」
(!?)
シュンは教室に辿り着く前にこの場所にやってきた。
そのためここに彼らがいるのは不自然であった。
ありえない事が立て続けに起こり、面食らってしまった。
「あれ~?、シュン君じゃんどしたの?」
「シホ・・・、どしたのって彼もさっきの魔法陣みたいなのに巻き込まれたんだよ、きっと」
「なるほどなるほど~、理解しましたよ!」
「はぁ~」
(大変だな、佐々木さん・・・)
彼女たちの名前は小泉 志保と佐々木 三空。
シュンのクラスでも仲の良い女子二人だ。
シホはクラスのムードメーカーである。
明朗快活とした彼女は男女問わず人気が高い。
身長が150センチと一般の女子高生の身長より低いのは本人の中でウィークポイントだが、周りは彼女の髪型がツインテールということもあり、子供らしさも溢れ暖かい目で見守っていることが多い。
ミクはシホの親友である。
成績も学年の中で上位に位置し、しっかり者というイメージがある。
クラスの学級委員長も務めていることからリーダーシップの取れる人材でもある。
髪型はボブであり、クラスを先導することから制服の身のこなしはきっかりとしている。
このような状況に陥っていても彼女たちのおかげでだいぶ場の雰囲気は落ち着いた。
しかし、現状は何も変わっていない。
これから自分たちはどうなるのか、それだけでみんなの頭はいっぱいだった。
シュンも今後については不安が募っていた。
現実離れの現象に体調が悪くなってきた。
自分の軟弱さが恨めしい。
その時、クラスメイトの中を見ているとハルトとナナの2人も確認できた。
お互い意識しているのか、頬を紅潮させ顔を逸らしている。
シュンは察してしまった。
逃れることは出来なかった。
こんな気持ちになりながら、この現象に巻き込まれているうちに胃がキリキリと苦しめた。自分でも驚くくらいストレスがかかっているんだろう。
(これから先僕はどうやって生きていけばいいんだろう・・・)
他の人から見たら、女々しいやら重いやら悲劇の主人公気取りやらと罵倒されるかもしれない。
それでもシュンは思わざるを得なかった。
そんな事を考えていると、またもや別の紋様が現れた。
ほかのクラスメイト達はビックリして尻もちをつく生徒もいたが、シュンはそんな余裕がなかったため半ば呆然としながらその現象を見ていた。
その後、その紋様から一人の人物が現れた。
彼(?)は中肉中背で、見慣れない金髪をしており、ふわふわな羽の衣装を着ていた。
そして男女の区別がつかないほど、誰もが息を呑む端正な顔立ちだった。
「ようこそ天空界へ!!」
「「「「「!?」」」」」
驚くのも無理はない。
いきなり目を疑うほど美人が現れ喋ったのだ。
普通の世界なら人間が言葉を使って話すことは有り体普通のことだが、今の状況ではどんなことでも度肝を抜くようなことに感じてしまった。
眼前の存在が人間なのかも分からないのだから。
「綺麗~」
シホは未だにこの超常現象でもバリバリ平常運転らしい。
とんでもない豪胆だ。
それともただネジが足りていないだけなのだろうか。
「私、神と申します! 以後お見知り置きを」
「「「「「!?」」」」」
(か・・・、み?)
思考が追いつかない。
「す、すいません、もう一度言って貰えませんか?」
あまりにも頓珍漢なことを言うので脳の処理速度が追いつかない。
シュンは目立つのを嫌うので教室でも発言などは必要時以外一切しなかったのだが、この時だけは他の生徒よりも早く口出ししてしまった。
普通なら忸怩たる思いになるが、感覚は麻痺していた。
「おやおや、しっかり聞いておいてくださいね!私
神と申します。か・みですよ!」
どうやら彼(?)は神らしい。
まだ怪しいため神(自称)としておこう、とシュンは思った。
「ん~神さんはどうして私たちをこの場に呼んだの?」
「ちょ!?、シホ!何勝手に口走ってんのよ!!」
「「「「「・・・・・・」」」」」
「そうですね!ご説明しましょう!!」
神(自称)曰く、僕達総員37名は異世界に行って欲しいらしい。
掻い摘んで言うと異世界では異種族戦争が起きていてそれを防ぎ平和に導くのが神の望みだそうだ。
なんともありふれた話だとシュンは思った。
そして平和に出来たらしっかり元の世界に戻れるしひとりひとりの〝願い〟を叶えてくれるらしい。
これにはクラスの男衆は大盛り上がりだ。
さもありなん。
異世界といえば誰もが想像する冒険である。
勇者だったり、魔王だったり、クエストだったり、ダンジョンだったりと今までゲームや小説でしか味わえなかったのが現実で楽しめるのだから。
特に男子はそういうものに浪漫を感じていたりする。シュンもそのうちの一人だった。
(異世界・・・、冒険・・・、勇者・・・、なんだなんだ!まだ僕の人生も捨てたもんじゃないじゃないか!)
つい先程まで絶望していたシュンだったが、失恋のことを忘れるように異世界について考え始めた。
シュンは既に異世界で生活することだけを考えるようにしていた。
(ハルトやナナのこともそうだけど、ひとまず置いておこう。それよりも異世界だ。さっきまで辛かったけど、これからは夢や希望に満ち溢れた世界で生きていくんだ。きっと魔法だって使えるはずだ)
まるで、何か得体の知れないものから逃避するように異世界について思考するシュン。
その時、一人の生徒が声を上げた。
「神さん! 俺だけでもいいから元の世界に戻してくれッ!!」
そう声を張り上げたのは影山 徳大だった。
ノリヒロはバスケ部に所属している。
高校1年生で身長が190センチとかなりの高身長であり、物凄いイケメンという訳では無いが、顔立ちは整っている。
そんな彼は、幼少期からバスケをしていたため入部早々類まれなる活躍を見せ1年にしてエースの座に着いた。
嫉妬や畏怖といった念に見舞われることもあったが、それでも先輩達や仲間たちからの信頼も厚かった。
そんな彼が焦る理由は・・・
「俺、明日バスケの県大会なんだ!だから、神さんには申し訳ないけど異世界にはいけねぇ!」
そう、明日はバスケの県大会なのである。
先輩達のためや己自身のために日進月歩と練習してきたのだ。
だから、異世界には行くことが出来なかった。
その事を聞き神は今まで微笑を浮かべていたが、一瞬口元が緩んだように見えた。だが再び元の微笑になると・・・
「ご安心ください!今、元の世界では時が止まっています。あなた達が元の世界に戻れば世界の時の歯車は再び動き出します。何も気にすることなど無いのですよ!さらに、異世界で得た知識や肉体、経験は元の世界で引き継ぐことも可能ですから!!」
(まるでセールスの売り文句みたいだな・・・)
あまりにも待遇がいいのでついついシュンは警戒してしまう。
でも大抵はハッピーエンドになるように出来てるんだろうと再びぬるま湯に浸かるのだった。
「おお!なら安心だな!、しかも肉体の引き継ぎか・・・、それは嬉しいな!!」
ノリヒロはあまり考えるのが得意ではなく体を動かすタイプである。
そのため思考するのをやめ、ストレッチを始めることにした。
体育会系の悲しき性である。
そして彼がストレッチに励んでいると・・・
「さてさて皆様!そろそろ準備はよろしいでしょうか!!こちらは既に用意はできております!なにか質問のある方は挙手を願います!」
ここでミクが手を上げる。
「あのー、そもそもなんであたし達が異世界に行くことになったんですか?」
確かに、最もな理由である。
そもそも現実離れしているせいで肝心なことを聞き忘れていた。
「あなた達は選ばれたのですよ」
「選ばれた、ですか?」
「はい、それ以上でもそれ以下でもありません。そうですねぇ・・・宝くじに当たった感覚でご想像頂ければよろしいかと」
宝くじに当選する確率はかなり低い。
隕石衝突よりも低いのだ。
そう考えると、選ばれたというのは悪い気がしなかった。
「皆様、申し訳ありませんがお時間が迫っております!門が開くのも残り僅かでございます。心身ともに落ち着かせながら身支度を整えるのを推奨致します」
なんでも、紋様のことを門と呼ぶらしい。
いよいよ、ゲームの世界に近づいたのが嬉しく、
この場にそぐわない笑みを浮かべてしまうシュン。
さっきまでのことはまだ払拭していないが今はこの転移を楽しみたかったのだ。
「転移は一人づつランダムで行います。行き先は皆様全員同じでございます。場所は人間界の帝国ラトスフィアの王宮でございます。詳しい点は転移後に直接ご説明されるためご安心ください」
その言葉を聞きクラスメイトは安堵の息を吐いた。
転移後は少なからず不安だったため詳しく聞きたかったが、時間の都合上聞くことが叶わなかった。
しかし、神によれば、転移後に詳細を聞けるらしい。ましてや、全員揃ってなら尚のこと安心である。
「では、門を開きます!、『転移門・神』!」
神がそう唱えるとクラスメイト全体を覆うように足元に紋様が浮かんだ。
すると、次々にクラスメイトが消えてゆく。
(こうやって転移するのか)
シュンは興奮していた。
あくまでも顔は平静を装っているが鼓動の速度は遅くなるどころか、早くなっていく。
そのときハルトとナナもシュンの所に集まってきた。彼らも順番待ちらしい。
「よ、よう、シュン。珍しく落ち着いてるな。こういう時シュンはビクビクしてると思ってたけど・・・」
「た、確かに、ふだんのシュン君は怯えるかもね・・・」
二人とも声が震えている。
おそらく告白と転移でなかなか理性が働かないのだろう。
この時、シュンは二人になんて声をかければいいのか迷っていた。
(おめでとう。はなんか違うし、知っているのもおかしい。そもそも知ってても言いたくない、かな・・・)
そんな風に自嘲しているとハルトの視線がいつもと違っていた。
なんだか、漆黒の闇の中をさまよい続けるような禍々しさを感じた。
(どうしたんだろう、ハルト?)
その事を聞こうとした瞬間、ハルト消えてしまった。どうやら転移してしまったらしい。
(あー、まぁ転移したら聞いてみるか、聞いて惚気だったら辛いけど・・・)
ネガティブな思考に陥っているうちに、あと五人ほどになっていた。
ナナはまだ残っている。
「シュン君元気無いね。やっぱり不安?」
そう言ってくれるナナはいつものように優しく振舞ってくれる。
だけど、いつもより嬉しそうだった。
転移が嬉しいとは推測できないため、告白が原因だろうとアタリをつける。
(ナナ嬉しそうだな。)
嬉しそうにしているナナを見ると嬉しくもあり辛かった。
自分が原因でその笑顔を見せてくれたらどれだけ嬉しいか・・・
そうこうしているうちに、2人きりになってしまった。
するとその時、
「あのね、シュン君。実は私・・・」
ナナがそう言った瞬間彼女は消えてしまった。
恐らく転移したんだろう。
彼女の言葉は気になるが後で聞ければいい、シュンはそう思った。
きっと付き合ったという報告だろう。
逃げることが可能なら逃げるのもありだと感じてしまうあたり、やはり自分の心は弱いと思った。
そう思った瞬間、足元の紋様が突如消えた。
(!?)
「ようやく、本題に入れますね!シュンさん!!」
微笑みながら神は言った。
面白い、続きが読みたいと思われた方はぜひ評価のほどよろしくお願いします。




