第一話 喪失
※何度も改稿してすいません・・・。
内容は全く変更しておりませんのでよろしくお願いします。
それと第一話短いですが、第二話から文量が増えます。
——屋上——
「俺と付き合ってくれ!!」
雲一つない晴天の空の下、大声が屋上に響き渡る。告白した本人は手を前に出し、綺麗なお辞儀をしていた。おそらく、彼女が手を握ればお互い付き合うことは言うまでもないだろう。
「・・・っ!?」
彼の胸は今まで経験したことがないほど締め付けられ、全速力で走った訳でも無いのに動悸が激しくなり息が苦しく感じる。今まで、それでもたった16年しか生きていなかったがここまで焦燥に駆られたのは初めてだろう。それもそのはずである。告白しているのは彼の親友である橘 晴人であり、告白されているのは彼の幼馴染である伊東 那奈であったからだ。
告白を盗み聞きしている彼の名は阿部 俊。どこにでもいる平々凡々とした高校生のうちの1人だ。そんな彼は都内の高校に通っていた。最初はハルトとナナと一緒の高校に通うため、今の高校に入学を決意していたが自分の通う高校は都内でもかなり偏差値が高く、入るにはかなりの努力が必要だった。
それでも、親友と幼少の頃から好きな幼馴染と高校生活を送るため死ぬ気で勉強した。それで功を奏したのか、はたまた運が良かったのかは分からないが何とか入学することが出来た。
しかし、入学は出来ても自分の能力が今までより向上した訳では無い。むしろ、自分以外の生徒達は才能の塊であり、自分の劣等感は来る日も来る日も増すばかりだった。もちろん、ハルトもナナも才能に溢れ頭角を表している。
ハルトは簡単に言うとスポーツ、特に球技が得意でサッカーにバスケ、野球、テニス・・・etcといったふうに高い運動神経を持っている。さらに、顔も整っていて、トークも面白い。温厚篤実とは彼のための言葉だろう。ただ、彼はサッカーのスポーツ推薦で入学しているため学業の方は芳しくない。サッカーで高校時代を過ごしつつ、休日はほかの球技を楽しんだり、シュン達と遊ぶらしい。彼の体力は底が知れない。
また、ナナは才色兼備で、見る人を釘付けにする艶やかな黒い長髪は彼女が幼少の頃から健在であり、シュンもそんな彼女に惹かれていた。それでいて品行方正であり、嫉妬する女性も少なくはないが大抵の人は彼女を高嶺の花として見ていた。
そんな彼女とは幼少期からの付き合いであり、ハルトよりも前からの付き合いである。シュンは彼女と過ごす時間が何よりも楽しく、初恋の相手は彼女だった。また彼女自身もシュンのことを特別な異性として見ていた。 そして彼らは誓う。
「大きくなったらボクのおよめさんになってくれる?」
「もちろん!ぜったいに、けっこんしようね!」
日が暮れた肌寒い公園の砂場で何気なく誓った約束。成長して思春期真っ只中の現在である彼らはこんな約束をするはずも無ければ覚えていることすら無いのだろう。だがそれは一般論に過ぎない。シュンの胸の奥には今も根強く残っているのだから・・・
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授業が終わり、学生唯一の至福の時間である昼休み。告白を聞く数分前に購買から教室へ戻るシュンは2人きりで屋上へ向かう彼らを見つける。いつもなら3人で昼飯を食べるのが日課なのだが、と考えていると、ナナはいつも通りだがハルトの様子がいつもと違って見えた。ハルトは元気がよくいつも笑っているのが特徴的なのだが、そんな様子は微塵も見せず精悍な顔つきになっている。
(ハルト、なんでいつもより凛々しい顔してるんだろう・・・)
その後、2人のあとをこっそりと追いかけ、見つからないように扉の脇に隠れる。幸か不幸か、彼らは奥の方へと行ってしまった。
(遠いな・・・、何について話してるんだろう・・・、まさか隠し事!? ハルトに限ってそんなことないと思うけど・・・、心配だな・・・)
シュンの胸に不安が募り、額や掌からは自分では止めることが出来ないほど多量の汗が湧き出していた。今まで3人は隠し事はしなかった。隠し事なんてするのは壁があると彼らは考えていたからだ。しかし、現状自分には何も伝えず2人で会話をしているためシュンの気持ちが浮き足立つことは仕方なかった。
シュンはこの時には既に何故このようなことになっているのか察していたがそれを認めようとは思わなかった。頭では理解していても理性はそれを承認できない。そんな葛藤に陥っているシュンを置き去りに、自然と彼の耳に受け入れ難い現実がぶつかって来る。
「俺と付き合ってくれ!!」
(・・・っ!?)
まさに青天の霹靂と言ったことだった。ハルトは今、最愛の幼馴染であるナナに告白したのだ。
それを聞いた瞬間、シュンの心臓は激しく脈打ち、呼吸は過呼吸になり、頭が真っ白になるため思考が停止して立ちくらみを起こす。
脳の処理が追いつかないためかなかなか現状を理解できない・・・いや、するのを本能的に拒否していた。それでもハルトはシュンの事など頭の片隅にも置かずにこちらにも聞こえる声で告白した。その音量はそれこそ天真爛漫な彼にふさわしいものだった。
(今ハルトは告白したのか・・・? なんで僕に何も相談しなかったんだ・・・ 信用されていなかったのか・・・?いや、ハルトのことだ。揶揄されるのが嫌だったんだ。そうに違いない・・・。そもそもなんでこんな昼時に・・・)
受け入れ難い現実から逃避するため様々なことを思案するシュンは既に疑心暗鬼に駆られていた。それくらいこの告白はシュンにとって衝撃的なことだった。そしてハルトからの告白が漸く頭で整理がついた時にふと思い立つ。
(・・・そうだ!まだナナから返事を聞いていない!)
動揺していたシュンは重大な事を忘れていた。告白したのなら当然返答もあるはずであると。彼女の返事で少なくともこれからの3人の関係性は大きく変わるだろう。今までのように登下校したり、お互いの家に遊びに行ったりという風にはいかないだろう。
それでもシュンにとって3人の関係性よりもナナの返事の方が大切だった。それはシュンが3人の関係性よりもナナを好きでいる気持ちが他の何よりも大切だったからだ。
(・・・ッ!?)
だが世界とは残酷である。勝者がいれば必ず敗者が存在し、強者がいれば弱者も存在する。その時シュンは確かに見た。彼女のいつも凛とした顔が破顔しているのを・・・
彼女の表情を見た時、我慢出来なかったシュンは彼らに気づかれるのだけはまずいと思いながら、息を殺しその場から立ち去った。碌に部活動に所属していなかったシュンは、行く場所など教室やトイレ以外当ては無かったがどこに行くか思案することすら億劫になっていた。
(・・・・・・・・・)
筆舌に尽くし難い現実に頭は回らず何も考えられなかったシュンはただ一人廊下で立ちすくんでいた。別にこの感情を誰かに知って欲しい訳でも理解されたい訳でもない。ただ逃げ出したかった。
シュンはこの学校にいるのに少なくとも劣等感を感じていた。だがそれでも仲の良いハルトや幼い頃から恋焦がれていたナナと過ごす時間だけは誰にも譲ることの出来ない唯一無二のモノで自分にとっての財産だったのだが、それが今瓦解してしまった。
(なんでこんなことに・・・、辛い、苦しい・・・。)
シュンは少しでも違うことに頭を働かせようと思い、自分の思いつく限り今の感情を文字化しようと務めたが、そんな器量も知識もあるわけがないと深い悔恨の念が彼を襲った。
(ああ・・・、胸が張り裂けそうなほど辛い。逃げた自分が情けなくて気持ち悪い・・・)
考えれば考えるほどマイナス思考になるのはシュンの悪い癖でもあり既に彼の中では限界であった。
(ああもう嫌だ、何もかも無くなってしまえばいいのに!)
かなり精神的に来ているのか、いつもより自制心に歯止めが聞かない。
そしてシュンは心の中で叫んだ。
(こんな世界、もううんざりだ!!!)
シュンが心の中で叫んだ瞬間、足元から見たことの無い紋様が浮かび上がった。客観的に見れば厨二心を掴むものだが、そんなふうに分析しているほど心に余裕はなかった。
「えッ!? なにこれ!?」
そう言った瞬間シュンの存在は消え、ただ周りには静寂だけが残った。
書見頂きありがとうございます。
もし、この告白で気分を害された方がいらっしゃいましたら第五話まで読まれるか、それとも即刻飛ばして確認するかを推奨致します。
何はともあれプロローグを最後まで読んでいただき本当にありがたいです。
面白い、続きが読みたいと思われた方はぜひブクマ、評価、感想のほどよろしくお願いします。