第5話 是非に
日が落ちてきた。
雨季が近いため、夕焼けが赤い。
俺は家には帰らず、
そのまま酒場へ向かう。
今日もダンジョンの情報収集だ。
「おい!
聞いたか!?
『Sランクパーティー』が酒場に来てるって!」
酒場までの道で、耳に飛び込んだこの一言。
俺は酒場まで駆け足で向かう。
冒険者にはランクが設けられている。
始めにかならず登録される、新人限定のFランク。
一年間で一定のノルマを達成すると、Eランク。
そこから三年以上でノルマと試験をクリアしたら、
Cランク。
ここまで来て、一人前だ。
そして、これ以上を上位ランクと呼ぶ。
ギルドが一定の貢献を認め、
試験をクリアするとBランク。
Bランクでかつ、
三ヵ所以上の冒険者ギルドのギルド長から推薦され。
ギルドが用意した特別依頼を三つクリアしたら、
Aランク。
最上位は、Sランク。
自分以外のAランクを一人以上含む、
五人以上の固定パーティーを組み。
冒険者ギルド本部が用意した特別依頼を三つクリアしたら、
Sランクだ。
そして、Sランクのメンバーがいるパーティーを、
『Sランクパーティー』と呼ぶ。
酒場には入るや否や、
ど真ん中に机をかためて陣取る一団がいる。
「大当たりか」
俺は思わずそう言った。
その一団の真ん中にいるのは、
消失したダンジョンの一つを攻略した男がいる。
いわく、彼が攻略したせいでダンジョンが消失し、
以来ダンジョン保有国が彼らの一団を入国禁止にした。
今は放浪の凄腕冒険者として名を馳せる。
「カーフェイ率いる、
Sランクパーティーの『ミルヒィ』」
俺の視線を感じたのか、
カーフェイが俺を睨む。
さすがの凄みだが、
俺は迷わず彼に向かって歩きだした。
「待て、お前なんだよ?」
知らない男がそれを遮り、
俺の胸ぐらをいきなりつかんでそう言う。
「突然ご挨拶だな。
有名人がいたんだ。
挨拶に行くのが礼儀だと思って来たのに、これか?」
俺は胸ぐらにある男の手を指差して言う。
「挨拶に来た、だ?
心遣いは認めるが、
お前みたいなのに水を……」
「やめろ」
男を遮るように、声が飛んできた。
「……やめろ、タード」
予想外に、カーフェイ本人が止めている。
タードと呼ばれた男は舌打ちしつつ、
乱暴に俺から手を離す。
「すまんな、学者先生」
カーフェイは俺に歩み寄りながらそう言った。
待て。学者先生?
「まだ名乗ってないのですが?」
「知ってるよ。
アンタだろ?
トシ・オー。
ダンジョン学者の先生。
キレ者過ぎて、
俺みたいにダンジョン保有国が入国禁止にしそうなヤツ」
「光栄です。
改めて、トシオ、と申します。
ダンジョンについて、研究しています」
俺はカーフェイに頭を下げた。
カーフェイはジョッキをあおって。
「俺のダンジョンの話を聞きたいのか?」
どこから俺の話を聞いたか知らないが、
単刀直入でありがたい。
「是非に。
もちろん、謝礼は払います」
俺はもう一度頭を下げた。
「ちなみに、幾ら出す?」
「銀貨、三百枚」
俺は魔法鞄から、
銀貨のつまった袋を出した。
ざわめいていた酒場が、
水を打ったように静かになってしまう。
「……本気か?」
「もちろん」
俺はカーフェイのそばの机に袋を置いた。
銀貨がすれるじゃらり、と言う音。
どこからともなく、生唾をのむ音も聞こえる。
「そうだな……。
意気込みはいいぜ?
大金を積む意味も分かってんだろ?
アンタ」
カーフェイは笑う。
「ダンジョンの事は、大事な大事な話だ。
はっきり言えばこの情報自体が一財産とも言える。
なら、話す相手が信用できるかかどうか、
見極めなきゃな。
だが、信用ってのは、
長く付き合わなきゃ分からんわな。
それを補うために、
誰もが信用を置く『金』を積む」
カーフェイがそう言って、
銀貨のつまった袋を持ち上げた。
「でもな、
俺はアンタ自身が信頼に足るかどうかを重視してぇんだ。
ダンジョンの話なんて、
国が動くレベルのもんだ。
アンタにそれを言いふらされて、
価値を下げられても困るんだわ」
カーフェイは袋を俺に突き返す。
俺はそれを受け止めて、ため息をついた。
「はっ。
悪くねぇツラだ。
引き際をわきまえてるな。
アンタ、一応冒険者登録してんだろ?
そうだ。
アンタがBランクなら、
話くらい聞いてやるぜ」
「……Eです」
「まぁ、学者先生にしては、高い方か。
背中のスコップは武器も兼ねてんだろ?
手入れの跡で分かる。
そこそこやるんだな、アンタ」
カーフェイはそう言って盛大に笑って、
俺の背中を叩く。
結構痛い。
「ほら、酒をおごってやろう。
お前ら、
今からこの店に入るやつ全員に一杯奢るぜ!」
静まり返っていた酒場だったが、
カーフェイの一言で爆発したような歓声が上がる。
チャンスは逃したが、
カーフェイと顔を繋ぐことはできたと思うことにしよう。
俺はカーフェイからジョッキを受け取り、
一息であおった。




