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今世はのんびり釣りをしたい ~元技術者で今は冒険者の、微妙にままならない日々~  作者: 於田縫紀
第4章 廃坑調査

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第61話 俺の戦い

 魚竜(フィッシュドラゴン)のゾンビか。

 元となった魚竜(フィッシュドラゴン)そのものも含め、教本に載っていなかった魔物だ。


「ドラゴンゾンビの一種ですか?」


 ジョンの質問に、クリスタさんは首を横に振る。


「フィッシュドラゴンはドラゴンとは別種です。種として近いのはワイバーンでしょうか」


 ワイバーンは飛龍なんて呼ばれるが、いわゆるドラゴンとは別種の魔物だ。

 しかし強力なことは間違いない。

 そのワイバーンと近い種というと……


「かなり強力な魔物と見ていいですか」


「ええ。水中で戦うのは自殺行為でしょう。ですが水中から外に出ることは、まずないと思われます。元となった魚竜(フィッシュドラゴン)も、陸上へ出ることはほとんどない魔物ですから」


「なら魔法で戦うか、水を抜くかしないと駄目かニャ」


 ミーニャさんの言うとおりだ。

 矢や投げ槍では、水中の敵は倒せないだろう。

 それなら水を抜くか、水中に効果がある魔法を使うしかない。


「ええ。ですが水を抜くのは難しそうです。この水は、この付近を流れている地下水脈と繋がっています。ですから周囲の地下水脈をすべて塞いだ上で、ここにある水を無くさなければなりません」


「ちょっとばかり大工事になるかニャ」


 ちょっとではない大工事だ。

 この空間の周囲を防水層で囲むのだから。


「魔法で流れている水を閉じ込めることは出来ないですか?」


「ここの水中部分は、魚竜(フィッシュドラゴン)ゾンビの魔力で防御されています。ですので、こちらからの魔法が通りません」


 クリスタさんはジョンの質問に首を横に振る。

 そう、無理なのだ。


「エイダンの雷撃魔法は効き目ないかニャ」


 これは俺が答えるべきだろう。


「多分ほとんど効きません。敵が水中にいる場合、敵に雷撃が届く前に、威力が水中へと分散してしまいますから。雷撃を本体に直接当てることが出来たら、別ですけれど」


 ――ん?

 何かが閃きかけた。


 俺は自分の言葉を、頭の中でもう一度なぞる。


『多分ほとんど効きません。敵が水中にいる場合、敵に雷撃が届く前に、威力が水中へと分散してしまいますから。雷撃を本体に直接当てることが出来たら、別ですけれど』


 そうだ。

 直接当てることが出来るなら、倒せる可能性がある。

 そして相手は魚竜(フィッシュドラゴン)ゾンビ。つまり魚のようなものだ。


 ならば、倒す――少なくとも電撃魔法を直撃させる手段はある。


「クリスタさん。少し準備が必要ですが、あの魔物を倒せるかもしれない方法があります。協力していただけますでしょうか」


「わかりました。私の手持ちの魔法では、おそらく無理ですので、協力しましょう」


「クリスタの魔力で凍らせるのは出来ないのかニャ」


 おっと、その手もあるのか。

 しかしクリスタさんは首を横に振る。


「何もない状況で、この量の水でしたら、全面的に凍らせることは可能でしょう。ですが、あの魚竜(フィッシュドラゴン)ゾンビの魔力が、周囲の水に溶け込んでいます。ですからこの場合、魚竜(フィッシュドラゴン)ゾンビの動きを妨げられるほどに凍らせるのは、無理と判断します」


 ならやはり、俺が考えた方法くらいしか無さそうだ。


「それではまず、こちらの安全地帯を作ります。水のあるところから50cm以上手前側の土を乾燥させて、更に焼き締めることは可能でしょうか」


「乾燥させるのは私の魔法で可能です。ただ、焼き締めるのは少し難しいかと思います」


 なら……。

 だが、取りあえずお願いするか。


「わかりました。それでは乾燥だけお願いしてもいいでしょうか」


「わかりました」


 その返答と同時に、手前側の地面の色が、さっと白っぽく変化した。

 手に取って少量を魔法収納(アイテムボックス)に入れ、確認してみる。


 うん。

 絶縁性はそこそこ高い。

 水がしみ込まなければ、大丈夫だろう。


「それでは左側の奥、ぎりぎりに移動してください。ただし壁には触らないように。少し危険な魔法を使うので、俺から離れた方が安全ですから」


「わかりました」


 皆が離れていくのを確認しつつ、俺は高熱魔法を使う。

 皆が離れた方向とは反対側に、素焼き状態になった部分が出来た。

 これも絶縁のためだ。


 短時間なら、乾かした土と素焼き状態の土で何とかなるだろう。


 それでは勝負だ。


 俺は今回使う武器を、魔法収納(アイテムボックス)の中で確認する。


 武器とは、全長290cmほどのリール竿に、シマノ二五〇〇番台相当のスピニングリール、そして小魚を模したルアーが付いた仕掛け。


 糸は、木炭魔法加工物質(カーボン)細密(ナノ)(チューブ)だ。

 この糸なら、どれだけ引いても切れる可能性は少ない上、導電率(・・・)が高い。


 つまり、今回の目的に最適の糸だ。


 ただしルアーは大型のものに交換しておこう。

 ルアーに付けている(フック)も、大きいものにする。


 これでいい。


 俺は仕掛けを魔法収納(アイテムボックス)から取り出し、手に持つ。

 竿を横に構え、洞窟奥の壁に向かってルアーを投げた。


 ルアーが、奥の壁ぎりぎり手前で着水。

 俺はリールのアームを戻し、ハンドルを回す。


 魚竜(フィッシュドラゴン)ゾンビの視界に入るよう、それでいてある程度浅い場所を通るよう、竿を動かしながら。


 魚竜(フィッシュドラゴン)ゾンビが動き出した。

 ルアーを追いかけてくる。


 ならば、ということで、巻く速度をあえて上げ、ルアーをさらに浅い場所へと移動させる。


 魚竜(フィッシュドラゴン)ゾンビは、さらに加速。

 そしてルアーに下から食いつき、その勢いのまま水上に跳ねた。


 今だ!


『電撃魔法!』


 電撃が、糸、竿、俺、そしてルアーを咥えた魚竜(フィッシュドラゴン)ゾンビへと襲いかかる。


 俺の足元は絶縁されている。

 だから電撃は、俺の身体を流れない。


 それでも若干のダメージはあるが、防護魔法を同時発動すれば、何とか誤魔化せる。


 糸を通じて流れた電撃は、電流として地へと伝わるルートを探す。

 出来る限り、導電率の高い部位を求めて。


 俺の側には流れない。

 しかし魚竜(フィッシュドラゴン)ゾンビは、水に濡れていて比較的電流が通りやすい。

 水中も、完全に乾燥させた土や空気より、電気抵抗が小さい。


 ――激しい爆発音。


 大電流が流れた結果、瞬間的に高温となり、爆発するように蒸発した水の音だ。


 魚竜(フィッシュドラゴン)ゾンビの魔力が、みるみるうちに落ちていく。

 それでも活動停止しないところは流石だが、ここまで弱体化したなら問題ない。


 俺は身体強化魔法を使い、竿を上げつつリールを巻いて、魚竜(フィッシュドラゴン)ゾンビを岸まで引き上げた。


 ざっと見たところ、危険な電荷を帯びている箇所はない。

 今の爆発あたりで、電流として流れきってしまったようだ。


 触れても問題はない。

 ならば、ここから先は俺より、この人の方が適切だろう。


「ミーニャさん、あとはお願いします」


「了解なのニャ!」


 ミーニャさんがダッシュし、岸の上で弱々しく動く魚竜(フィッシュドラゴン)ゾンビの頭骨を、斧で叩き割った。

 残った魚竜(フィッシュドラゴン)ゾンビの魔力が、四散していく。


「終わりですね。珍しい魔物ですので、エイダンさんが丸ごと収納していただけますか」


「わかりました」


 触れると、あっさりと魔法収納(アイテムボックス)に収納された。


 討伐、完了だ。

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