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今世はのんびり釣りをしたい ~元技術者で今は冒険者の、微妙にままならない日々~  作者: 於田縫紀
第4章 廃坑調査

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第60話 穴の向こう側へ

「魔道具で攻撃して、敵を入口から離します。入口から3m以上敵を離したらこちらに報告させますので、私の合図でミーニャさん、突入して攻撃をお願いします」


「了解なのニャ」


「その前に一つ確認したいのですが、いいでしょうか」


 これはジョンだ。何だろう。


「ええ、どうぞ」

 

「ミーニャさんがとんでもなく強いのはわかっています。でもアークスケルトンって、本来は1体に対してC級冒険者の戦士3人以上で相手する事が推奨の魔物ではなかったでしょうか」


「その通りです」


 クリスタさんは頷く。


「この場合は一度引き返して、それなりの人数を集めてから戻ってくるのが正解でしょう。

 これからやるのは例外的な方法です。ミーニャさんがいて、それなりの魔道具を所持していて、妖精で向こう側を観察できるという要素が揃っているからこそ、可能な方法となります」


 それなりの魔道具か。

 何を使うつもりだろう。

 技術者的に興味があるので聞いてみる。


「どんな魔道具を使うんですか?」


「エイダンさんは、この魔道具がどんな機能を持っているか、わかりますでしょうか?」


 クリスタさんが魔法収納(アイテムボックス)から取り出したのは、表面が灰色の陶器のような質感をした、直径20cm程の球だ。


 咄嗟に透視魔法で内部を解析。なるほど、これならアンデッドには効果が高いだろう。


「衝撃を受けると破裂して、熱と神力を周囲にまき散らす魔道具に見えます。ついでに言うと、かなり危険で、出来れば近づきたくないですけれど」


 内部には、空気に触れると発火する薬剤と、熱で爆発する薬剤、高い神力を帯びた軽金属粉が仕込まれている。

 おそらく次の順番で効果を発揮する、使い捨ての魔道具だ。


  ① 落とす等して外側のセラミック層が割れると、薬剤が空気に触れる

  ② これによって高熱が発生し、爆発

  ③ 爆発で金属粉が高熱を帯びた状態で周囲に散らばる

  ④ 金属粉は高熱で空気に触れると瞬間的に燃焼し、更なる高温の酸化物となる

  ⑤ 神力を帯びた上、燃焼して高熱となった金属酸化物が周囲に広がる


「その通りです。やはりわかりましたか。万が一に備えて、幾つか作って貰ったものを魔法収納(アイテムボックス)に入れています。私はこういった細工物を作るのは得意ではありませんので」


 そう俺に告げた後、クリスタさんはジョンとミーニャさんを交互に見る。


「今エイダンさんに言った通り、これは破裂すると高熱と神力を半径10m以内にばらまく、使い捨ての魔道具です。これを穴の向こう側すぐ、アークスケルトンの前で爆発させます。その際、こちらに中身が飛ぶと危険なので、障壁魔法を展開します」


「爆発の衝撃で、坑道が崩れる心配はないのかニャ」


 確かに今の説明では、そう感じるだろう。

 しかし俺には、問題無い事がわかっている。


「爆発そのものは、そこまで威力が高くはありません。その際にまき散らされる神力と高熱で敵を倒す、というものですから。爆発した後、送り込んだ妖精の魔法で空気を入れ換えて温度を下げます。ミーニャさんに突入して貰うのは、その後になります」


「爆発してすぐ飛び込んだら駄目かニャ」


「金属が白熱するくらいの温度の破片がばらまかれていますし、空気も呼吸できない状態になっている可能性が高いです。ですから換気をして、温度が下がった事を確認した上での突入となります」


 確かにこの仕組み、空気中の呼吸可能な成分を大量に消費するだろう。

 換気しないと危険なのは間違いない。

 温度の方も、クリスタさんが言う通りだ。


「わかったニャ」


「それでは作戦を実行します」


 クリスタさんは魔道具から手を離す。

 魔道具は空中に浮いた状態で、穴の中へと入っていった。

 妖精が物質浮遊魔法を使って、持ち運んでいるようだ。


「障壁を展開します」


 魔力が俺達と穴の間に展開される。

 そして次の瞬間、穴の向こうで明らかな神力の気配。


 そこから更に3秒ほどした後。


「どうやらミーニャさんに、スケルトンと戦って貰う必要はなくなったようです」


「倒したニャ?」


 クリスタさんは頷いた。


「そのようです。換気と温度確認は終わりました。ですから全員で行きましょう。ただし、全員が入った時点で止まって下さい。水中の敵はまだ健在です」


「わかったニャ」


 今までと同じ隊列で、穴から中へ。

 四角い空間。目で見て最初に感じたのは、そんなイメージだ。

 同じ幅、同じ天井の高さで前に続いている空間。

 壁や天井、床には、自然の洞窟なら当然あるだろう凸凹がない。


 床は前に向かって下がっていき、30m程の所から先は水に浸かっている。

 水に浸かっていない部分には、動ける敵はいない。

 先程の魔道具で倒した敵とその痕跡は、クリスタさんがまとめて回収したようだ。


 そして透視魔法で、この空間の外を見ることが出来なくなっている。

 外からこの中が見えないのと同様、何らかの魔法措置がかかっているのだろう。


 さて、俺は透視魔法で水の中を見てみる。

 実は透視魔法を使わなくても、明らかな魔物の魔力を感じる。

 沈殿池にいた骨魚(スケルトンフィッシュ)と同種だが、遙かに強い魔力と気配が、ゆっくり動いているのを。


 透視魔法で姿形を確認する。

 巨大な骨魚(スケルトンフィッシュ)なのだが、口部分が恐竜風に長く、歯が凄く、前のヒレが前足っぽくて指までついている。

 教本にはなかった形状の魔物だ。


「クリスタさん、この魔物は何かわかりますか?」


 知らない事は聞いてみるに限る。

 クリスタさんは頷いた。


「魚竜(フィッシュドラゴン)がゾンビ化したものです。同種の物と比べて小さめですが、水中なら相当に強力で、厄介な敵です」

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